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「観る将」が観た第73期王将戦第三局

1月27-28日、第73期ALSOK杯王将戦七番勝負第三局が島根県大田市の国民宿舎さんべ荘で行われました。連勝スタートとなった藤井聡太王将が一気に防衛まであと1勝とするのか、菅井竜也八段が巻き返すのか、注目の一局となりました。

前夜祭では、藤井王将は「第一局、第二局の経験を活かして、より集中力を高めて対局に臨んで、面白い将棋が指せればと思っています」、菅井八段は「成績としては押されていますけれども、自分の将棋を指せばあまり気にする必要はないと思っていますので、明日からの一局にすべて込めたいと思います。頑張ります!」と意気込みを語っています。


菅井八段は向かい飛車

関係者十数人が見守る対局室に、菅井八段が淡い緑色の着物と青灰色の袴に淡い亜麻色の羽織で入室すると、藤井王将は白い着物と鶯茶の袴に水色の羽織で入室します。叡王戦五番勝負からずっと三間飛車を採用してきた菅井八段でしたが、向かい飛車に振り美濃囲いに構えます。菅井八段が角を交換すると、藤井王将が次の24手目を考慮中に昼休となりました。各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王将が6時間3分、菅井八段が6時間41分となっています。

2度目の角交換

昼休を挟んで37分長考した藤井王将が玉で取ると、菅井八段は7筋の歩を交換して銀を繰り出します。藤井王将は飛車取りに△4四角と据え、菅井八段が6筋に角を合わせると、6筋の歩を突いて圧力を掛けます。菅井八段は再度角を交換してから飛車を7筋に寄せ、藤井王将が銀頭を叩いて吊り上げてから8筋の歩をぶつけると、飛車を浮きます。

藤井王将の"と金"

藤井王将は飛車取りに△5七角と打ち込み、菅井八段が飛車を引いてかわすと、8筋に"と金"を作ります。菅井八段が飛頭を歩で叩くと、藤井王将は飛車を7筋にかわします。菅井八段が考慮中に定刻となり、次の45手目を封じました。AIの評価値は藤井王将の63%とわずかに傾き始めたようです。残り時間は藤井王将が4時間31分、菅井八段が3時間50分となっています。

藤井王将の馬

菅井八段の封じ手は、7筋の飛頭を歩で叩く手でした。藤井王将は飛車を6筋にかわし、菅井八段が5筋の歩をぶつけると、54分の長考で△8四角成と馬を作ります。菅井八段が8筋の歩を成り捨て、飛車で取らせてから5筋の歩を取り込むと、藤井王将は銀を6筋に引いてかわします。

菅井八段の自陣角

菅井八段は8筋の馬頭を歩で叩き、藤井王将が馬を5筋に飛び込むと、33分熟考して▲5六角と四方を睨む角を放ちます。次の56手目を藤井王将が考慮中に昼休となりました。残り時間は藤井王将が2時間10分、菅井八段が2時間47分となっています。

馬と飛車の交換

藤井王将が昼休を挟む51分の長考で7筋の飛頭を歩で叩くと、菅井八段は飛車が縦に動くと打ったばかりの角を取られてしまうので6筋にかわします。藤井王将は6筋の歩を伸ばして飛車に当て、菅井八段が角で取ると、7筋に桂を跳ねて角に当てます。菅井八段が角を8筋に引いてかわすと、藤井王将は馬を飛車と交換してから5筋に歩を垂らします。

藤井王将の竜

菅井八段は42分の熟考で5筋の歩を成り捨て、自陣に歩を打ち直して歩成を防ぎ、藤井王将が角取りに△6七飛と打ち込むと、角を金に紐を付けたまま9筋に上がってかわします。藤井王将が竜を作ると、菅井八段は6筋に歩を成って金銀交換し、金を5筋に寄って竜の当たりを避けます。

角と飛車の取り合い

藤井王将は6筋に歩を垂らし、菅井八段が8筋の歩を伸ばして角の利きを竜に当てると、8筋に銀を打って角に当てます。菅井八段は飛車取りに金を打ち、藤井王将が角を取ると、飛車を取り返します。藤井王将は6筋に"と金"を作って金に当て、菅井八段が金を4筋に上がってかわすと、6筋に桂を跳ねて攻め駒を足します。

小駒の攻め

菅井八段が9筋の銀を取ると、藤井王将は"と金"で5筋の歩を取り、更に5筋の歩を成って再度"と金"を作って金に当てます。菅井八段は金を引いてかわしますが、藤井王将は金頭を歩で叩いて6筋に追い、桂を7筋に成って竜の利きを金に当てます。菅井八段が金を7筋にかわすと、藤井王将△6八成桂と入って金に当てます。後手の小駒を使った攻めは素人目にも途切れそうもなく、菅井八段はここで潔く投了を告げました。

まとめ

本局は菅井八段が両者の対戦では初めてとなる向かい飛車を採用し、積極的に銀を繰り出してから飛車を7筋に寄せて突破を図りました。藤井王将は銀頭を叩いて隙を作り、先手陣に角を打ち込んでから8筋に"と金"を作って主導権を握りました。菅井八段は立会人の福崎九段が鬼手という自陣角で挽回を狙いましたが、藤井王将は長考の末に先手の飛車角を攻めてリードを拡げ、"と金"や成桂で先手陣の金駒を攻めて勝ち切りました。
本シリーズを3勝0敗とした藤井王将は「また本局をしっかり振り返って、次の対局も頑張りたいと思っています」と、自らの反省点も踏まえて気を引き締めるコメントを残しました。後がなくなった菅井八段は「集中できる環境ではあったんですけど、自分のふがいなさがありますね。また頑張ります!」と、悄然とした表情を浮かべながらも気力を振り絞るコメントを発しており、次局での巻き返しに期待したいと思います。

ALSOK杯王将戦は、毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟が主催し、ALSOKが特別協賛、囲碁将棋チャンネル、立飛ホールディングス、inゼリー、富士フイルムが協賛しています。棋譜は公式サイトをご覧ください。

本稿は「王将戦における棋譜利用ガイドライン」に従い、利用許諾を得ています。 (https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ousho)

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