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「観る将」が観た里見香奈女流五冠の棋士編入試験第一局

8月18日、里見香奈女流五冠が挑む棋士編入試験の第一局が行われました。女性として棋士編入試験の受験資格を満たしたこと自体が大変な快挙ですが、新四段5名との五番勝負で3勝すれば、将棋界としては初めて待望の女性棋士が誕生することになります。6月28日に発表された際に感じたことを下記投稿にまとめていますので、興味のある方はご覧ください。

7月6日に行われた会見で里見女流四冠(当時)は、「こういうことが珍しくないような社会になればいいと思う」「純粋に将棋が大好きで、少しでも自分の棋力向上を目指して、強い方々と対局したいという思いがある」と発言しており、ご本人の想いがより明確に伝えられています。

第一局の試験官は、棋士番号の最も大きい(新しく四段になった)徳田拳士四段です。徳田四段は2022年4月にプロ入りした24歳で、プロ入り後は12勝1敗の好成績を残しており、現在9連勝中です。里見女流五冠にとっては、最大の難敵かもしれません。

伝家の宝刀

ABEMAでは棋士編入試験の制度化のきっかけを作った瀬川晶司六段が解説、女流棋界のレジェンド清水市代女流七段と里見女流五冠の妹川又咲紀女流初段が聞き手という豪華メンバーで中継され、里見女流五冠は純白のスーツに身を包んで登場し、少し緊張した面持ちの徳田四段は恐らく初めて御上段の間の上座に着きます。振り駒で後手となった里見女流五冠は伝家の宝刀とも言うべき中飛車に振り、角頭を受けずに9筋の位を取ります。徳田四段は少し時間を使い、誘いに乗って飛先の歩を交換しますが、里見女流五冠はノータイムで金を上がって飛車を追い返します。

中央の位

里見女流五冠が少し時間を使って5筋の歩をぶつけると、徳田四段は6筋の歩を突いて穏やかに角道を止めます。里見女流五段が5筋の歩を成り捨てると、徳田四段は銀を前進して中央に厚みを築き5筋の位を取ります。里見女流五冠が△5四歩と合わせて反発し、徳田四段が次の41手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値は徳田四段の55%とほぼ互角、各3時間の持ち時間の内、残り時間は徳田四段が2時間0分、里見女流五冠が2時間20分となっています。

急所を睨む角

早々に対局室に戻った徳田四段は、昼休が明けるとすぐ歩交換に応じ、力強く▲5五銀右とぶつけます。里見女流五冠は角を交換してから飛車で銀を取り返しますが、徳田四段は歩で飛車を追い返してから▲2六角と打って後手陣の急所を睨みます。里見女流五冠は自陣に銀を打って辛抱し、徳田四段が右桂を跳ねると左桂を跳ねて4五の地点の歩を守ります。徳田四段は3筋の歩を突いて桂頭を狙いますが、里見女流五冠は手抜いて再度5筋の歩を合わせます。

中央を巡る攻防

徳田四段は自陣に銀を打って5五の地点を補強しますが、里見女流五冠は26分の熟考で△4四角と打って攻め駒を足します。徳田四段が5筋の歩を取り込むと、里見女流五冠は飛車で取ります。徳田四段が再度歩を打って飛車を追うと、里見女流五冠は飛車を9筋の位で作ったスペースに逃がして横利きを残します。徳田四段は▲4五桂と跳ねてぶつけますが、里見女流五冠は3筋の歩を取り込みます。徳田四段が駒音高く桂頭に歩を打って催促すると、里見女流五冠は桂交換に応じます。AIの評価値は徳田四段の60%と少し傾いてきましたが、黒沢六段は「居飛車側の難易度が高く、振り飛車の方が勝ちやすい」と解説しています。

激しい駒の取り合い

里見女流五冠はいったん角を引き、6筋の歩をぶつけます。徳田四段は金取りに▲4四桂と打ちますが、里見女流五冠は構わず6筋の歩を取り込み銀に当てます。里見女流五冠の持ち時間が1時間を切り、お互いに金と銀を取り合う激しい変化に飛び込みます。更に角取りが残っていますが里見女流五冠は角と銀に当てて△4四銀と打ち、角を引かせてから△5五銀~△6四銀と金に当てます。角のラインが通って王手なので徳田四段は角を取りますが、里見女流五冠は金銀交換してから飛車を6筋に回して先手陣の金に当てます。駒割りは先手の角得ですが、先手の守備陣が崩壊しているのに対して、後手の美濃囲いは健在です。

里見女流五冠の攻勢

徳田四段も残り時間が1時間を切り、歩で金取りを逃れると、里見女流五冠は9筋の歩をぶつけて端攻めします。徳田四段が▲8六金と自陣に投じてがっちり受け止めると、里見女流五冠は5筋に歩を垂らします。徳田四段は飛車取りに▲4六角と打ち、里見女流五冠が上がってかわすと▲5四銀打と手堅く飛車の捕獲を図ります。里見女流五冠は飛車を諦めて△5五金と打ち、△4五金と銀を取って角に当てます。

徳田四段の反撃

徳田四段が▲6二角成と銀を食いちぎって金取りに▲4一飛と打ち込むと、里見女流五冠は△4五角と金を守りつつ王手します。徳田四段が歩で王手を逃れると、里見女流五冠も金底の歩で飛車の横利きを遮断します。徳田四段は▲2三飛成と竜を作り、残り時間が10分を切った里見女流五冠は角金交換して竜取りに△1四角と打ちます。徳田四段は角竜交換に応じて▲4六竜と金を取りますが、里見女流五冠は金取りに△2九飛と打ち込みます。里見女流五冠が細い攻めをつないでいますが、AIの評価値は徳田四段の90%と大きく傾きました。

攻め切るか受け切るか

徳田四段が銀で金に紐を付けると、里見女流五冠は金取りに桂を打って攻め込みます。徳田四段は金を斜めに上がってかわしますが、里見女流五冠はそのスペースに銀を打ち込みます。徳田四段が銀交換に応じると、里見女流五冠は成桂を捨てて王手金取りに△7九銀と打ち込みます。徳田四段が玉をかわして金銀交換に応じると、里見女流五冠は竜に当てて△4四桂と打ちます。徳田四段が竜をかわすと、里見女流五冠は時間を使い切るまで考えましたが、次の手を指さずに投了を告げました。

まとめ

本局は徳田四段が端の位を取らせ、里見女流五冠が飛先の歩の交換を許し、両者が趣向を凝らした序盤となりました。徳田四段が積極的に中央を制圧したかと思われましたが、里見女流五冠は激しく反発し、駒損ながら駒を捌いて先手陣を切り崩しました。徳田四段は自陣がかなり危険な状態になりましたが、駒得を活かして落ち着いて凌ぎ切りました。
里見女流五冠は棋士編入試験の初戦を落としましたが、次局は先手番となり相手も変わります。9月22日に予定されている第二局以降の巻き返しに期待したいと思います。

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