「観る将」が観た第65期王位戦七番勝負第二局
7月17-18日、伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦七番勝負第二局が、函館市の「湯元 啄木亭」で行われました。第一局を千日手指し直しの末に制した藤井聡太王位がリードを拡げるのか、惜しい将棋を落とした渡辺明九段がタイスコアに戻すのか、注目の一局となりました。
前日に行われた会見では、藤井王位は「序盤で後れを取らないようにして、中終盤の難解な将棋を指せるよう頑張りたい」、渡辺九段は「第一局は終盤に間違えてしまって悔いの残る内容でしたが、取り返すチャンスはあると思うので、明日から集中して頑張っていきたい」と話しています。
戦型は相掛かり
落ち着いた雰囲気の対局室に渡辺九段が灰色の着物に格子柄の袴と濃灰色の羽織で入室し、続いて藤井王位が茶系の縦縞模様の着物に鶯色の袴と灰色に濃灰色の太い縞模様の羽織で入室します。先手の渡辺九段が相掛かりに誘導し、藤井王位が飛先の歩を交換して浮き飛車に構えると、角を6筋に上がって飛車に当てます。
前局の進行を離れる
藤井王位が飛車を7筋に寄せて縦歩取りを狙うと、渡辺九段は桂を7筋に跳ねます。ここまで第一局の指し直し局と同じ局面となりましたが、藤井王位はすぐには角道を開けずに縦歩を取り、渡辺九段が飛先の歩を交換したところで、角道を開けます。渡辺九段は6筋に銀を上がって7筋を補強し、藤井王位が角を交換してから2筋に銀を上がって飛成を防ぐと、3筋の歩を突いて桂の活用を図ります。
開戦準備
藤井王位が2筋の銀を上がって飛車を引かせてから歩で蓋をすると、渡辺九段も6筋の銀を上がって飛車を引かせ、玉を6筋に寄って7筋を補強します。藤井王位は飛車を8筋に寄って角の打ち込みを防ぎ、渡辺九段が銀を3筋に上がると、桂を3筋に跳ねます。渡辺九段は銀を4筋に繰り出し、藤井王位が7筋の歩を突くと、次の45手目を考慮中に昼休となりました。各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王位が6時間41分、渡辺九段が6時間17分となっています。
渡辺九段の自陣角
渡辺九段が昼休を挟む57分の長考で3筋の歩をぶつけると、藤井王位は65分の長考返しで同歩と応じます。渡辺九段は金を5筋に上がって陣形を引き締め、藤井王位が38分熟考して7筋の歩を伸ばして飛車の横利きを通すと、▲5六角と好所に放ちます。藤井王位は更に48分の長考で3筋の歩を伸ばし、渡辺九段が飛車を浮くと、3筋に角を合わせます。渡辺九段は44分考え、次の53手目を封じました。形勢は渡辺九段の52%とほぼ互角、残り時間は藤井王位が4時間8分、渡辺九段が4時間23分と拮抗しています。
垂れ歩
渡辺九段の封じ手は、大方の予想通り合わされた角を交換する手でした。渡辺九段が飛車を走ると、藤井王位は歩で飛車を追い、更に△2五銀とぶつけて飛車を引かせてから銀を引いて戻します。渡辺九段が7筋に歩を垂らして後手の飛車の横利きを止めると、藤井王位は69分の長考で3筋の歩を成り捨てて歩を垂らします。
厳しい歩の叩き
渡辺九段が52分の長考で垂れ歩に構わず▲3五歩と銀頭を叩くと、藤井王位は次の66手目を時折項垂れて考え、そのまま昼休となりました。ずっとほぼ互角を示していたAIの評価値は、渡辺九段の63%と傾き、残り時間も藤井王位が2時間3分、渡辺九段は3時間6分と1時間以上の差が付いています。
藤井王位の苦悩
昼休明けも苦しそうな表情で考え続けた藤井王位は、56分の長考で同銀と応じ、渡辺九段が49分の長考で3筋の桂頭を歩で叩くと、4筋に跳ねてかわします。渡辺九段は飛車を浮いて銀に当て、39分の熟考で残り1時間を切った藤井王位が△4四角と銀を支えて辛抱すると、力強い駒音を立てて銀を4筋に上がってぶつけます。
飛車を見捨てての攻勢
藤井王位が銀をかわして飛車に当てると、渡辺九段は飛車を見捨てて桂を取り、更に角銀交換して金取りに▲2一角と打ち込みます。藤井王位は持ち駒の銀を打って金を支え、渡辺九段が3筋の歩を成り捨てて金を吊り上げ、▲6五角成と攻防の要所に引き付けると、先手陣の8筋に飛車を打ち込んで嫌味を付けます。
左右の桂の活用
渡辺九段は馬で7筋の歩を取り払って飛車に当て、藤井王位が飛車を一つ引いてかわすと、取られそうな右桂を1筋に跳ねて銀に当てます。藤井王位は銀を3筋に引いてかわし、渡辺九段が更に歩で叩くと、4筋に上がってかわします。残り1時間を切った渡辺九段が6筋に桂を跳ねて後手の玉頭を狙うと、藤井王位は4筋に銀を上がって補強しますが、AIの評価値は渡辺九段の85%と跳ね上がります。
最速の寄せ
渡辺九段が▲2五角と王手すると、藤井王位は金を寄って角の利きを止めます。渡辺九段が5筋に桂を成り捨て、▲4三角成と金を食いちぎって桂で王手すると、後手陣は受けが難しく、藤井王位はすぐに「負けました」と投了を告げました。
まとめ
本局は第一局の指し直し局と同様、藤井王位の縦歩取りに対して渡辺九段が桂を跳ねる研究をぶつけました。藤井王位が前局とは手を変えましたが、渡辺九段は要所に角を放って主導権を握りました。藤井王位は封じ手の辺りでは既に苦しいと感じていたようで、2日目以降は渡辺九段が垂れ歩に構わず銀頭を叩いて攻勢を掛け、自陣はほぼ無傷のまま寄せ切る快勝となりました。
2局続けて作戦勝ちの局面を築き、タイスコアに戻した渡辺九段は「あまり間がなく次がまたあるので、それまでに作戦を練って臨みたいと思います」と話しており、次局以降にどのような作戦を魅せるのか楽しみにしたいと思います。珍しく見せ場も作れずに敗れた藤井王位は「本局は早い段階で形勢のバランスを崩してしまったので、もう少し競り合いにできるよう頑張りたいと思います」と話しており、巻き返しに期待したいと思います。
本稿は「お~いお茶杯王位戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。 (https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#oui)
伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦第二局 主催:新聞三社連合、日本将棋連盟
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