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「観る将」が観た第62期王位・女流王位記念対局

1月5日、毎年恒例となっている王位・女流王位記念対局が放映されました。今年は藤井聡太王位と里見香奈女流王位の顔合わせです。対局ルールは里見女流王位が先手で持ち時間が60分、藤井王位は持ち時間10分と少しハンデが付いています。対局前のインタビューで藤井王位は「決断良く指しつつ、急所の局面でしっかり考えられれば」、里見女流王位は「自分の持っている力を出し切れるように集中して頑張りたい」と話しています。

両者は2018年に棋聖戦の一次予選での対局があり、藤井七段(当時)が勝っています。また昨年も王位・女流王位記念対局で顔を合わせ、藤井王位が勝っています。

里見女流王位は初手▲5六歩から得意とする中飛車に振り、対抗形の将棋となりました。藤井王位は△7三銀~△6四銀と繰り出し、里見女流王位も▲6六銀と前進して銀対向と言われる形に組み合います。里見女流王位が飛先の歩を交換すると、藤井王位は左銀も前進して2枚の銀で中央に厚みを作ります。里見女流王位が美濃囲いに構えると、藤井王位は早速△6五桂と仕掛けます。里見女流王位が▲6八角と引くと、藤井王位は8筋の歩を突き捨ててから△5五銀左とぶつけます。

銀交換の後、桂交換となり、後手の角道が通っているため、里見女流王位は金を上がって飛車の横利きで9筋の香を守ります。藤井王位は△5六桂~△7七銀と持ち駒を投入し、先手陣を押さえ込んで竜を作ります。里見女流王位は4筋の歩を突き捨て▲4五銀と角取りに打ち、▲3九角と引いて目障りな桂を取りに行きます。藤井王位が攻めていますが里見女流王位もバランスを崩さず、形勢は互角のまま推移しています。

ここで藤井王位は持ち時間を使い切り、秒読みに追われて△5七歩と飛車を引き付け△4六角と飛車取りに覗きます。里見女流王位は手抜いて▲5四歩と垂らしますが、藤井王位も△6六竜と引いて桂に利きを足します。里見女流王位が間接的に竜と角の利きに入っている金を寄って自陣を固めると、藤井王位は△1五歩と端攻めを決行します。AIの評価値は藤井王位の60%と少し傾いてきました。

里見女流王位が▲2六桂~▲1四歩と端を受けると、藤井王位は△4四歩~△3三歩で先手の銀を2筋に追いやり△5四銀と目障りな垂れ歩を取り除きます。藤井王位は銀取りに△6五竜と引き、1筋の歩を成り捨ててから△2四歩と桂を取りに行きます。里見女流王位が▲4七飛と角にぶつけると、藤井王位は飛と角の交換を拒否して△7三角と引きます。里見女流王位も1筋の歩を成り捨て、藤井王位が桂で取ると、▲1四歩と打って取られそうだった桂との交換を目指します。里見女流王位も持ち時間を使い切り、AIの評価値は藤井王位の75%と大きく傾いてきました。

里見女流王位は秒読みに追われながら竜取りに▲6六歩と突き、藤井王位が銀で取ると桂交換してから▲6六角と銀を食いちぎって勝負に出ます。藤井王位は取れる角を取らずに△2四桂と打って、先手からの桂打ちを防ぎつつ先手玉のコビンを狙います。里見女流王位は▲4四飛と走って攻め合いを目指しますが、藤井王位は△3六桂と王手してから△4三歩と打って飛車を追います。藤井王位はここで△6六竜と角を取り、里見女流王位も▲5四飛と銀を取って下駄を預けます。藤井王位は△1五歩から寄せに入り、飛車取りに△4五角と打ち間接的に先手玉を睨みます。里見女流王位は▲4四桂と王手し、藤井王位が玉をかわすのを見て投了を告げました。

本局は里見女流王位が最も得意とする中飛車で挑みましたが、藤井王位は中央に厚みを築いて受け止めると、先に仕掛けて攻め続けました。里見女流王位は押さえ込まれながらも最善を尽くして決め手を与えませんでしたが、難解なねじり合いとなり形勢は徐々に藤井王位に傾きました。攻撃の糸口を見出せない里見女流王位は角を切っての強襲で勝負を賭けましたが、藤井王位が冷静に角桂で美濃囲いの弱点を突くカウンターを決めて寄せ切る快勝となりました。

里見女流王位にとって女流王位を防衛することで得られるこの対局は、自らが成長するための貴重な機会だと思います。昨年は宿敵の西山女流二冠から女流王将と女流王座を奪還した里見女流五冠が、2022年にどのような活躍を見せてくれるのか楽しみにしたいと思います。

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