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「観る将」が観た第36期竜王戦 挑戦者決定三番勝負第二局

8月14日に竜王戦の挑戦者決定三番勝負第二局が行われました。永瀬拓矢王座が勝って決着を第三局に持ち越すのか、先勝した伊藤匠六段が一気にタイトル初挑戦の切符を手にするのか、注目の一局となりました。


永瀬王座の角換わりに伊藤六段は右玉で応戦

先手の永瀬王座が角換わりに誘導すると、伊藤六段は堂々と受けて立ち右玉に構えます。永瀬王座は意表を突かれたのか少しずつ時間を使い、8筋に玉を入城して間合いを測ります。伊藤六段が右金を縦横斜めに動かして手待ちすると、永瀬王座は4筋の歩をぶつけて交換します。伊藤六段が次の54手目を考慮中に昼休となりました。各5時間の持ち時間の内、残り時間は永瀬王座が4時間5分、伊藤六段が4時間28分となっています。

銀交換で開戦

昼休が明けてすぐ、伊藤六段が力強く△4三金左と上がって受けると、永瀬王座は右金を6筋に引き付けます。伊藤六段が5筋の歩を伸ばして銀ばさみを狙うと、永瀬王座は2筋の歩を突き捨ててから3筋の歩もぶつけます。伊藤六段は4筋の銀頭に歩を打ち、永瀬王座が3筋の歩を取り込んで銀に当てると、銀をぶつけて交換します。

永瀬王座の竜と伊藤六段の馬

永瀬王座は金取りに▲6七角と打ち、伊藤六段が金を引いてかわすと、金桂両取りに銀を打ち込みます。伊藤六段が42分の熟考で金を4筋に寄ってかわすと、永瀬王座は69分の長考で飛車を走ります。伊藤六段は飛桂両取りに角を打ち、永瀬王座が▲2三飛成と竜を作ると、△3七角成と桂を取って馬を作ります。

歩の攻め

永瀬王座が銀で2筋の桂を取ると、伊藤六段は8筋の歩を突き捨て銀で取らせます。伊藤六段が5筋の歩も突き捨て、先手の角の利きを止めてから△5四歩と打って傷を消すと、永瀬王座は37分の熟考で3筋に歩を垂らして"と金"作りを目指します。AIの評価値は永瀬王座の62%とわずかに傾いています。

一直線の攻め合い

伊藤六段は40分の熟考で金を5筋に寄り、永瀬王座が"と金"を作ると、6筋の歩をぶつけます。永瀬王座は3筋に銀を引き、伊藤六段が6筋の歩を取り込み角に当て、お互いに相手玉を目指して攻め合います。永瀬王座が次の85手目を考慮中に夕休となりました。残り時間は永瀬王座が1時間29分、伊藤六段が2時間2分となっています。

伊藤六段の辛抱

夕休が明け、永瀬王座が角を5筋に引いてかわすと、一直線の攻め合いでは勝てないと見た伊藤六段は61分の長考で△5一桂と自陣に打って辛抱します。永瀬王座が角を2筋に飛び出して攻め駒を足すと、伊藤六段は残り1時間を切り、6筋に銀を打って攻め込みます。永瀬王座は"と金"を寄って銀と金桂を交換し、駒得しながら馬を作りますが、AIの評価値はほぼ互角に戻っています。

伊藤六段の反撃

伊藤六段が銀で金を取って王手し、再度金取りに銀を打ち込むと、残り1時間を切った永瀬王座は、取られそうな馬を引いて攻防に利かせます。伊藤六段が金銀交換し、取った金を6筋に打って王手してから△6四馬と引き付け、自陣の守りに利かせるとともに先手の玉頭を睨むと、永瀬王座は43分の長考で残り9分となり、自陣に桂を打って玉頭を守りながら金に当てます。AIの評価値は永瀬王座の考慮中に徐々に傾き、伊藤六段の75%と逆転模様です。

永瀬王座の逆襲

伊藤六段が4筋に歩を打って先手の竜の利きを止めつつ馬に当てると、永瀬王座は馬を引いてかわします。AIは更に馬を追う手を推奨していますが、伊藤六段が13分の考慮で残り7分となり、最も自然と解説されていた8筋の銀頭に歩を打つ玉頭攻めを選択すると、AIの評価値は再び永瀬王座の76%と振れます。永瀬王座は飛車取りに▲9三桂と打ち、伊藤六段が飛車を浮いてかわすと、銀を打って詰めろを掛けます。伊藤六段は桂を6筋に跳ねて自玉の退路を作ると同時に馬の利きを通しますが、永瀬王座は竜を二段目に入って詰めろを続けます。

伊藤六段の勝負手

伊藤六段は△6一金と自陣に打ち、この金を取らせる代わりに自玉の上部脱出を図る勝負手を放ちます。AIの評価値は永瀬王座の96%と大きく傾きますが、意表を突かれたと思われる永瀬王座は右手を頭に置いて考え、秒読みの声に追われて後手玉の腹に銀を打って攻めをつなぎます。AIの評価値は伊藤六段の69%と大きく揺れ動きます。

12連続王手

伊藤六段が水を口にしてから8筋の銀を歩で取り、詰めろを掛けて下駄を預けると、永瀬王座は1分将棋になりながらも12連続王手で後手玉に迫ります。伊藤六段は正確に応じ、永瀬王座が桂で6筋の金を取って攻め駒を補充すると、落ち着いた手つきで歩で桂を取り返して"と金"を作ります。受けのなくなった永瀬王座は再び王手を続けますが届かず、秒読みの声を聞きながら投了を告げました。

まとめ

本局は永瀬王座が誘導した角換わりを堂々と受けた伊藤六段が右玉に構え、互いに間合いを測るじっくりした序盤戦となりました。永瀬王座は好所に角を据えて竜を作ると、"と金"攻めで優勢の局面を築きましたが、伊藤六段は自陣に桂を打って辛抱し、馬を自陣に引き付けて形勢を好転させました。永瀬王座は一瞬の隙を突いて端に桂を打ち再逆転しましたが、伊藤六段は金を犠牲に自玉を逃がす勝負手を放ち、どちらが勝つのかわからない白熱の終盤戦となりました。最後は永瀬王座の王手ラッシュに、正確に応じた伊藤六段が逃げ切りました。

三番勝負を2連勝で制した伊藤六段は、竜王戦史上初めて5組からの挑戦権を獲得し、規定により七段への昇段を決めました。伊藤七段の竜王戦ドリームは、同学年の藤井竜王との七番勝負へと続きます。感想戦後の会見では「藤井世代と言われるには、自分たちも良い勝負ができないとそういう風にはならないと思うので、なるべく良い内容の将棋で盛り上げられればと思います」と話しています。今後30年以上に渡りライバルになるであろう両者の初タイトル戦を、将棋ファンとして心に焼き付けたいと思います。

竜王戦は読売新聞社が主催しています。
本稿は竜王戦・棋譜等利用ガイドライン(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ryuuou)に従っています。

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