見出し画像

「観る将」が観た第64期王位戦第四局

8月15-16日、伊藤園お~いお茶杯第64期王位戦七番勝負第四局が佐賀県嬉野市「和多屋別荘」で行われました。和多屋別荘は、第62期王位戦第四局が水害のため対局地変更となり、第63期王位戦第四局が挑戦者豊島九段のコロナ感染により延期となり、3年目で待望の対局実現となりました。

本シリーズは藤井聡太王位が3勝0敗とリードし、防衛まであと1勝と迫っています。挑戦者の佐々木大地七段としては何としても一矢報いて意地を見せたい一局となっています。

前夜祭では、藤井王位が「地元の方をはじめ多くの方に注目していただける対局になるかと思いますので、精一杯指したいと思っています」と挨拶すると、佐々木七段は「奇遇にも九州でカド番を迎えるという師匠と同じ状況を迎えてしまった訳ですけど、自分の力を信じていつも以上に集中して力を出し切れるよう精一杯頑張りたいと思います」と、3連敗後に4連勝した深浦九段の逸話を引き合いに出し、巻き返しに意欲を見せています。


戦型は相掛かり

天井の高い広々とした対局室に佐々木七段が紺の格子柄の着物に薄茶色の袴と紺色の羽織で入室し、続いて藤井王位が光沢のある白い着物に青灰色の袴と淡い藤色の羽織で入室します。先手の佐々木七段が得意の相掛かりに誘導し、藤井王位は飛先の歩を交換して角道を開ける前に7筋の歩を突きます。

早くも長考の応酬

佐々木七段が早くも57分の長考で9筋の端歩を突くと、藤井王位はじっと角道を開けます。佐々木七段が3筋に桂を跳ねると、藤井王位は次の20手目を1時間半以上考え、そのまま昼休となりました。各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王位が5時間56分、佐々木七段が6時間45分となっています。

角交換

藤井王位が昼休を挟む105分の大長考で7筋の横歩を取ると、佐々木七段は飛先の歩を交換します。藤井王位は7筋に桂を跳ね、佐々木七段が57分の長考で飛車を下段に引くと、49分の熟考で2筋に歩を打って飛車の直通を遮ります。佐々木七段が50分の長考で角を交換し、7筋の金を上がって飛車に当てると、藤井王位は飛車を引いてかわします。

飛車の行方

佐々木七段が金を8筋に上がって飛車を追うと、藤井竜王の考慮中に定刻となりました。飛車で銀を食いちぎる手と、穏やかにかわす手の二択のようですが、藤井王位は更に10分程考え続け、55分の長考で次の32手目を封じました。AIの評価値は全くの互角、残り時間は藤井王位が3時間14分、佐々木七段が4時間52分と1時間半程度の差が付いています。

佐々木七段の大長考

藤井王位の封じ手は、飛車を5筋にかわす手でした。佐々木七段は予想が違ったのか、99分の長考で金を上がって陣形を整えると、藤井王位は3筋の歩をぶつけて桂頭を狙います。佐々木七段は8筋に歩を垂らし、藤井王位が銀で取ると、2筋に銀を上がって桂頭を支えます。

陣形の整備

藤井王位は金を7筋に上がって銀と連結させ、佐々木七段が7筋の銀を上がって陣形を整えると、7筋に歩を伸ばします。佐々木七段が次の41手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値は佐々木七段の58%とわずかに傾いています。残り時間は藤井王位が2時間18分、佐々木七段が2時間24分と拮抗しています。

佐々木七段の角

昼休が明け、佐々木七段が玉を5筋に寄せると、藤井王位は銀を7筋に前進します。佐々木七段は7筋に歩を合わせ、藤井王位が8筋の金頭を歩で叩くと、じっと引いてかわします。藤井王位が銀を3筋に上がると、佐々木七段は3筋の歩を取り込み、▲4五角と打って後手の飛車を封じ込めます。AIの評価値は佐々木七段の64%と徐々に傾いています。

飛車と銀の交換

藤井王位が47分の長考で残り34分となり、5筋に角を合わせると、佐々木七段も47分の長考で残り55分となり、角交換に応じてから再度角を打ち直します。藤井王位が桂香両取りに△5五角と打つと、佐々木七段は銀を3筋に上がって飛車に当てます。藤井王位が飛車で銀を食いちぎり、取った銀を角取りに△3五銀と打つと、佐々木七段は角を4筋に上がってかわします。

角と金香の交換

藤井王位が3筋の桂頭を歩で叩くと、佐々木七段は歩で桂を支えます。藤井王位が桂を取り、△9九角成と香を取って馬を作ると、佐々木七段は桂を跳ねて馬の利きを止めつつ、飛車の利きを馬に当てます。藤井王位は馬を見捨てて8筋の歩を伸ばして金に当て、佐々木七段が飛車で馬を取ると、歩で金を取り返します。佐々木七段が大駒4枚を独占しましたが、藤井王位は代わりに金銀桂香を手にし、AIの評価値はほぼ互角に戻ります。

小駒での反撃

藤井王位は歩で8-7筋を攻め、佐々木七段は銀取りに歩を打ち返すと、銀を見捨てて桂を取って"と金"を作ります。佐々木七段が2筋に歩を合わせると、藤井王位は残り9分まで考えて秒読みの声を聞きながら銀を上がって取ります。佐々木七段が▲6一飛と打ち込むと、藤井王位は△5五桂と打って攻め合います。両者の間を揺れ動いていたAIの評価値は、佐々木七段の82%と大きく傾きます。

珍しい詰み形

佐々木七段が▲4一銀と打って詰めろを掛けると、藤井王位は"と金"を寄せて王手し、形を作って下駄を預けます。佐々木七段が慎重に6分程考えて角をタダで捨てる王手を掛けると、しばらく俯いていた藤井王位は水を口にしてから投了を告げました。先手は遠く8筋の銀までもが詰みに貢献し、歩のまわりを一周して逃げる玉を竜が一周して追い掛けて詰むという、創られた詰将棋のような投了図が残りました。

まとめ

本局は藤井王位が積極的に横歩を取り中段飛車に構え、佐々木七段は自陣の傷を消しながらチャンスを待ちました。佐々木七段は後手陣に飛車を打ち込まれる隙ができたところで、藤井王位も見落としていたという角を打って飛車を捕獲し優勢になりました。藤井王位は小駒の攻めで先手玉に迫りましたが、佐々木七段は後手陣に飛車を打ち込み鮮やかに寄せ切りました。藤井王位としては無駄な悪あがきはせず、珍しい詰み形を投了図に選んだのかもしれません。
佐々木七段は、「次も近いので、変わらず開き直って淡々と指したいと思います」と話しました。第50期王位戦の師匠と同様にカド番で迎えた九州対局を制し、シリーズの流れを変えることができるのか注目されます。
藤井王位は「本局は課題の多い内容だったので、立て直せるように頑張りたいと思います」と話した通り、本局は少し精彩を欠いたように感じましたが、先手番となる次局で決着を付けられるよう期待したいと思います。

本稿は「お~いお茶杯王位戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#oui)
伊藤園お~いお茶杯第64期王位戦第四局 主催:新聞三社連合、日本将棋連盟

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?