「観る将」が観た第61期王位戦第三局
8月4-5日に行われた王位戦七番勝負第三局の感想です。本局は兵庫県の有馬温泉での対局となりましたが、紺の着物に濃緑の羽織姿の藤井棋聖には、早くも貫禄のようなものが感じられます。ここまで2連敗の木村王位としては、負けられない一局となりました。
1日目は先手の藤井棋聖が矢倉を選択し、早囲いから通常7八に上がる金を5八に上がる趣向を見せました。解説の高野六段によれば、この囲いは古くからあり土居矢倉と呼ばれていますが、▲3七桂と上がった手が従来の感覚にない指し手で、藤井棋聖がこの対局で指したかった手であろうとのことでした。翌日の解説の行方九段によれば、▲5八金とする形はバランスを重視する現代将棋で再び注目されているとのことで、藤井棋聖としては、矢倉の最新形を本局にぶつけてきたということだと思います。
2日目は封じ手△2三歩から再開しました。この手は、藤井棋聖の端攻めに対する辛抱の受けを見せたものですが、木村王位としてはこの時点で既に苦しいという形勢判断だったようです。この後、藤井棋聖が▲4五歩と仕掛けて本格的に開戦し、△6二銀など木村王位の粘りの受けもありましたが、▲2四歩~▲8四香と優勢を拡大していく展開となりました。
しかし秒読みに追われる藤井棋聖も攻めを誤り、85%を越えていたAIの形勢判断が45%に急降下しました。木村王位としては第二局のリベンジのチャンスとなりましたが、△1三銀という妙手を発見できず、その後冷静に対処した藤井棋聖が再度リードを奪い逃げ切りました。
対局後、藤井棋聖は「負けにしてしまったと思った」と語っており、千駄ヶ谷の受け師の頑強な受けに、一時逆転模様だったことを感じていたようです。しかし、動揺を表に出さず逆転を許さなかったところが、藤井棋聖の強さの一面なのかなと思いました。
これで七番勝負は藤井棋聖の3連勝となり、木村王位は早くもカド番に追い込まれました。これまで数々の修羅場を潜り抜けてきた木村王位が、先手番となる第四局で意地を見せることができるか注目していきたいと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?