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「観る将」が観た第49期棋王戦挑戦者決定二番勝負第二局

12月26日に、棋王戦コナミグループ杯挑決二番勝負第二局が行われました。第一局は、敗者復活戦から勝ち上がった伊藤匠七段が、挑決トーナメントで優勝した広瀬章人九段に勝ち、本局の勝者が藤井聡太棋王への挑戦権を獲得する注目の一局となりました。


戦型は相掛かり

振り駒で先手となった伊藤七段が相掛かりに誘導し中住まいに構えると、広瀬九段は飛先の歩を交換し、角道を開けない趣向を見せます。伊藤七段は3筋の位を取ってから飛先の歩を交換し、飛車を六段目に引きます。広瀬九段は右銀を腰掛けてから4筋の歩を突き、伊藤七段が次の33手目を考慮中に昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は広瀬九段が3時間22分、伊藤七段が2時間56分となっています。

広瀬九段の銀の進撃

伊藤七段は昼休を挟む19分の熟考で右銀を繰り出し、広瀬九段が3筋の歩をぶつけると、歩交換に応じてから歩を打ち直して銀を引かせます。広瀬九段が53分の長考で銀を6筋に繰り出して7筋の歩を狙うと、伊藤七段は36分の熟考で銀を7筋に上がって歩を支えます。AIの評価値は広瀬九段の58%とわずかに傾いてきました。

伊藤七段は陣形を整備

広瀬九段が桂を3筋に跳ねると、伊藤七段は玉を6筋に寄せて陣形を引き締めます。広瀬九段は5筋の歩を伸ばし、伊藤七段が更に玉を7筋に深く囲うと、右桂も7筋に跳ねます。伊藤七段が銀を8筋に上がって先受けすると、広瀬九段は金を6筋に寄せて力を溜めます。AIの評価値はほぼ互角に戻っています。

伊藤七段の角の躍動

伊藤七段が銀を4筋に引いて飛車を3筋に寄せる空間を作ると、広瀬九段は3筋に歩を合わせます。伊藤七段は角で5筋の歩を取り、広瀬九段が3筋の歩を取ると、4筋の歩を突き捨ててから、残り1時間を切ったところで金を自玉の傍に引き付けます。

両者とも残り1時間を切っての攻防

広瀬九段も残り1時間を切り、8筋の銀頭を叩いて9筋に引かせ、銀を引いて角に当てると、伊藤七段は角を7筋に引き上げます。広瀬九段はじっと9筋の歩を突き、伊藤七段が銀を5筋に繰り出すと、7筋の歩をぶつけて角頭を狙います。AIの評価値は伊藤七段の60%とわずかに傾いてきました。

広瀬九段の顔面受け

伊藤七段は4筋の銀頭を歩で叩き、広瀬九段が銀を3筋に上がってかわすと、5筋の銀を上がってぶつけます。広瀬九段は桂を6筋に跳ねて角に当て、伊藤七段が銀を交換してから角を6筋に上がってかわすと、玉を4筋に上がって顔面受けします。伊藤七段が2筋の歩を交換して飛車を走ると、広瀬九段はやむなく持ち駒の銀を投じて飛車を追い返します。

飛車切りの猛攻

広瀬九段は歩で2筋の銀頭の傷を消し、伊藤七段が飛車を5筋に回すと、飛頭に歩を打って押さえ込みます。伊藤七段が飛車で歩を食いちぎって金と交換すると、広瀬九段は飛車を王手で先手陣に打ち込んでから、自陣に歩を打って王手飛車を防ぎます。伊藤七段は角で6筋の歩を取って飛車に当て、広瀬九段が飛車を浮いてかわすと、角を成って飛車に当てます。AIの評価値は伊藤七段の85%と大きく傾いてきました。

一気の寄せ

広瀬九段は飛車で4筋の自玉に迫る歩を取りますが、伊藤七段は飛車取りに銀を打って畳み掛けます。広瀬九段が飛銀交換を甘受して角で王手を掛けると、伊藤七段は金を打って角を追い返します。更に伊藤七段が金取りに桂を打つと、広瀬九段は7筋の歩を取り込み、先手玉に迫って下駄を預けます。伊藤七段が慎重に7分考えて後手陣に飛車を打つと、一度席を外した広瀬九段は、戻ってすぐに投了を告げました。

まとめ

本局は広瀬九段が銀を前進して中央に厚みを作り、わずかに優勢となりました。伊藤七段は落ち着いて陣形を組み直し、角で5筋の歩を取って形勢を入れ替えました。伊藤七段は5筋に回した飛車を切っての猛攻で後手陣を崩し、一気に寄せ切る快勝となりました。
先日の竜王戦七番勝負でストレート負けを喫した伊藤七段は、早くも藤井棋王へのリベンジの機会を得ました。感想戦後の囲み取材では「今のままだと竜王戦のようなことになると思うので、開幕までに実力をつけて臨みたい」「藤井さんは八冠で全く隙がない印象ですが、挑戦するからには自分がそこを崩していきたいという気持ちはあります」と話しており、どのような五番勝負になるのか楽しみにしたいと思います。

棋王戦コナミグループ杯は、共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「棋王戦の棋譜利用ガイドライン」(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#kiou) に従っています。インターネットでの棋譜の利用はすべて「営利を目的とする」ものとみなす(有償)と通知がありましたので、棋譜の利用は断念しています。

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