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「観る将」が観た第49期棋王戦挑戦者決定二番勝負第一局

棋王戦コナミグループ杯は、挑戦者決定トーナメントのベスト4以上には敗者復活戦があるのが大きな特徴で、トーナメントの優勝者と敗者復活戦を勝ち上がった棋士とで、挑戦者決定二番勝負を行います。トーナメントの優勝者は1勝すれば挑戦権獲得、敗者復活の勝者は2連勝しなければなりません。

12月21日に、今期の挑決二番勝負第一局が行われました。昨年の竜王戦挑戦者広瀬章人九段と、今年の竜王戦挑戦者伊藤匠七段の顔合わせとなっています。

広瀬九段は挑決トーナメント2回戦から登場し、古森五段、横山(泰)七段、屋敷九段、伊藤(匠)七段、本田六段を破って優勝しています。

伊藤匠(匠)は挑決トーナメント3回戦から登場し、郷田九段、糸谷八段を降したものの、準決勝で広瀬九段に敗れて敗者復活戦に回り、豊島九段と本田六段を破って挑決二番勝負に駒を進めています。


広瀬九段の趣向

振り駒で後手となった広瀬九段がいきなり9筋の位を取り、力戦調の将棋に誘導しますが、伊藤七段は角を交換して7筋の位を取り、淡々と腰掛け銀の駒組みを進めます。伊藤七段が6筋の歩を突き、広瀬九段が次の38手目を考慮中に昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は広瀬九段が3時間19分、伊藤七段が3時間7分となっています。

昼休明け直後の千日手

昼休が明けると、広瀬九段は玉を3筋に引き、伊藤七段は7筋に引きます。広瀬九段が金の往復で手待ちすると、伊藤七段も玉を8筋と7筋で往復し、51手までで千日手が成立しました。

指し直し局は矢倉

指し直し局は30分後から、持ち時間は広瀬九段が3時間9分、伊藤七段が3時間2分で始められました。先手となった広瀬九段が矢倉を選択すると、伊藤七段は急戦調の駒組みから中住まいに構えます。広瀬九段は飛先の歩を交換し、伊藤七段が6筋の位を取ると、6筋に寄っていた玉を中住まいに戻します。

5-6筋の攻防

広瀬九段が6筋の歩をぶつけて交換し、更に5筋の歩もぶつけると、伊藤七段は6筋に歩を打ち直し、先手の銀を引かせてから5筋の歩を取ります。広瀬九段が角で取り返すと、伊藤七段は銀をぶつけて追い返し、2枚の銀と桂で6筋の位を支えます。広瀬九段が5筋に歩を打って自陣の傷を消すと、伊藤七段は力強く6筋に玉を上がりますが、AIの評価値は広瀬九段の57%とわずかに傾いてきました。

戦線拡大

広瀬九段が22分考えて4筋の歩をぶつけると、伊藤七段は72分の長考で残り34分となり、4筋に構わず8筋の歩を突き捨ててから6筋の歩を伸ばします。広瀬九段は24分熟考して角で取り、伊藤七段が更に残り16分まで考えて5筋に歩を打って角の利きを止めると、4筋の歩を取り込みます。

伊藤七段は早くも秒読みへ

伊藤七段は4筋の歩を角で取り、広瀬九段が7筋に桂を跳ねると、残り10分となり秒読みの中で6筋に桂を跳ねて銀に当てます。広瀬九段も残り1時間を切り、銀を4筋に上がってかわすと、伊藤七段は飛車を走ります。広瀬九段は6筋に歩を打って角を支え、伊藤七段が4筋の銀頭を歩で叩くと、桂で取ります。

難解な中盤戦

伊藤七段は3筋に桂を跳ね、広瀬九段が桂交換に応じてから8筋に歩を打って飛車を追うと、7筋の歩を取ってかわします。広瀬九段は6筋に桂を打って飛車を捕獲し、伊藤七段が飛車を角と交換してから、再度4筋の銀頭を歩で叩くと、残り8分となるまで考えて6筋の桂を歩で取って銀に当てます。盤面中央での難解なねじり合いが続き、AIの評価値は広瀬九段の55%から70%の範囲で揺れています。

伊藤七段が先手の玉頭を制圧

伊藤七段は6筋の空いたスペースに王手金取りの桂を打ち、広瀬九段が玉を6筋に上がってかわすと、銀を7筋にかわしつつ桂を支えます。広瀬九段が5筋の銀を上がってぶつけると、伊藤七段は桂で7筋の金を取ってから銀交換に応じ、取った銀を6筋に打って先手の玉頭を制圧します。

先手玉のコビンを巡る攻防

広瀬九段が6筋の歩を突き捨て、銀で取らせてから5筋に銀を打って王手すると、伊藤七段は玉を7筋に引いてかわします。広瀬八段は6筋の金頭を歩で叩いて引かせ、遊んでいた銀を5筋に上がって自玉のコビンを守りますが、ずっと広瀬九段の優勢を示していたAIの評価値は伊藤七段の85%と大きく振れます。

痛烈な角の打ち込み

伊藤七段が守りの銀を5筋に上がってぶつけると、広瀬九段は形勢の悪化に気付いたか1分将棋になるまで考えて、後手の玉頭を歩で叩きます。伊藤七段は玉を8筋にかわし、広瀬九段がやむなく5筋でぶつかっている銀を取ると、先手玉のコビンに角を打ち込んでから銀を取り返して詰めろを掛けます。後手玉に詰みはなく、広瀬九段はここで潔く投了を告げました。

まとめ

本局は振り駒で後手となった広瀬九段が工夫を見せ、ペースを掴まれたと見たのか伊藤七段は早々に千日手を受け入れました。
指し直し局は、先手となった広瀬九段が中央から仕掛けてわずかに優勢となり、伊藤七段は何か所も駒をぶつけて複雑な局面に誘導して圧力を掛け続けました。広瀬九段が自玉のコビンを銀で守った手は自然に見えましたが、伊藤七段は自玉を守る銀をぶつける好手で咎め、急転直下の終局となりました。
この結果、広瀬九段のアドバンテージは消え、26日に行われる第二局の勝者が藤井棋王への挑戦権を獲得することとなりました。両者が一進一退の攻防を繰り広げた本局と同様、白熱の好局を期待したいと思います。

棋王戦コナミグループ杯は、共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「棋王戦の棋譜利用ガイドライン」(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#kiou) に従っています。インターネットでの棋譜の利用はすべて「営利を目的とする」ものとみなす(有償)と通知がありましたので、棋譜の利用は断念しています。


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