「観る将」が観た第64期王位戦挑戦者決定戦
5月18日、お~いお茶杯王位戦の挑戦者決定戦が行われました。紅組優勝の羽生善治九段と白組優勝の佐々木大地七段の顔合わせとなっています。昨年度末の王将戦七番勝負で藤井王将と激闘を繰り広げた羽生九段が勝てば、19期目の王位獲得とタイトル獲得通算100期への挑戦となります。棋聖戦でタイトル初挑戦を決めたばかりの佐々木七段が勝てば、藤井王位とのダブルタイトル戦となります。どちらが勝っても大変楽しみな好カードが実現しました。
戦型は相掛かり
振り駒で先手となった佐々木七段が相掛かりに誘導し、羽生九段は受けて立ち先に飛先の歩を交換します。佐々木七段が21手目に早くも47分の長考で角道を開けると、羽生九段は飛車を7筋に寄せて縦歩取りを狙います。佐々木七段が金で歩を守り、次の24手目を羽生九段が考慮中に昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は羽生九段が3時間9分、佐々木七段が3時間4分となっています。
羽生九段の仕掛け
羽生九段は昼休を挟む33分の熟考で角を上がり、先手からの飛先の歩交換を防いで穏やかな駒組みが続きます。お互いにじっくり時間を使い、羽生九段は32手目に4筋の歩を突き捨て、左銀を前進します。佐々木七段は4筋に金を上がって備えますが、羽生九段は更に銀を5筋に前進し、7筋への攻撃態勢を作ります。AIの評価値は佐々木七段の57%とわずかに傾いていますが、ABEMAでは逆に後手の攻めを先手が受けづらいと解説しています。
両者残り1時間を切っての開戦
佐々木七段は55分の長考で残り49分となり、6筋の歩を突いて銀の進出を防ぎ、羽生九段が6筋の歩を突くと、5筋に銀を上がって備えます。羽生九段が34分の熟考で6筋の歩を突き捨て△5五銀とぶつけると、佐々木七段は銀交換に応じてすぐに▲5六銀と打って角に当てます。羽生九段も残り58分となって△3九銀と飛銀両取りに割り打ちし、佐々木七段が飛車を1筋にかわすと、8筋の角頭を歩で叩きます。
角を取り合っての飛車角交換
佐々木七段が銀で角を取ると、羽生九段は歩で角を取り、飛車取りに角を打ち込みます。佐々木七段は飛車を3筋に寄せ、飛車と角を取り合って金を銀に当てます。羽生九段は銀を2筋に成り捨てますが、佐々木七段は取らずに金を4筋にかわして自玉に近づけます。羽生九段が成銀で桂を狙うと、佐々木七段は▲5六角と攻防に据えます。
佐々木七段の玉と金の早逃げ
羽生九段が飛車を先手陣に打ち込むと、佐々木七段は玉を7筋に早逃げします。羽生九段は成銀で桂を取りますが、佐々木七段は構わず金を5筋に逃がします。羽生九段が飛車で1筋の香を取って竜を作ると、佐々木七段は6筋の歩を伸ばして角の利きを飛車に当てます。羽生九段は竜を引いて金に当て、佐々木七段が金を6筋に寄せて自玉の横に付けると、銀取りに△4三桂と打ちます。羽生九段の攻めが好調に見えますが、AIの評価値は佐々木七段の65%と少し傾いてきました。
羽生九段の残り時間が切迫
佐々木七段は6筋の歩を成り捨ててから銀を6筋に引いてかわし、羽生九段が飛車を5筋にかわすと、銀を7筋に引いて右からの攻撃に備えます。羽生九段が残り10分を切り、秒読みの声を聞きながら8筋に香を打って角成を防ぎつつ先手陣を睨むと、佐々木七段は飛車取りに▲6五銀と上がります。羽生九段が飛車を浮いてかわすと、佐々木七段は6筋の銀頭を叩いて引かせ、4筋の歩を伸ばして桂を捕獲します。
激しい終盤戦に突入
羽生九段が△6七歩と焦点の歩を放ち、先手陣を乱してから飛車を2筋に回すと、佐々木七段は桂を取り、取った桂を▲7五桂と打って後手玉の玉頭に戦力を集めます。羽生九段は8筋に歩を合わせ、空いたスペースに歩を垂らして嫌味を付けますが、佐々木七段は金桂両取りに▲3二角と打ち込んで攻め合います。羽生九段が金を上がってかわすと、佐々木七段は桂を取って馬を作ります。
羽生九段の猛攻
羽生九段が竜を下段に潜って先手玉に迫ると、佐々木七段は7筋に金を戻して自玉の安全を図ります。羽生九段は8筋に香を走り、成銀を4筋に寄り、2枚目の竜を作って攻め込みますが、佐々木七段は丁寧に応じて決定打を与えません。羽生九段は成銀を角と交換し、金に当てて角を打ち込むと、佐々木七段は6筋の歩を成って反撃に転じ、銀桂交換してから歩で後手玉を押さえ込みます。佐々木七段が馬を3筋に寄せて後手玉の退路を断つと、羽生九段は一瞬首を傾げてから無念の投了を告げました。
まとめ
本局は相掛かりから力戦調の将棋となり、両者とも慎重に指し手を選んで難しい序盤戦が長く続きました。両者とも残り1時間を切った辺りでようやく本格的な戦いとなり、羽生九段が好調に攻めているように見え、先手陣は一手間違えるとたちまち崩されてしまう変化あったようですが、佐々木七段は丁寧な差し回しで評価値的には徐々にリードを拡げました。終盤には羽生九段が猛攻を見せましたが、佐々木七段は最後まで冷静に凌ぐと、反撃に転じて寄せ切りました。
佐々木七段は棋聖戦に続いて王位戦の挑戦権を獲得し、藤井王位との夏の十二番勝負に臨むことになりました。対局直後のインタビューでは「毎年リーグ入りして目標にしていたので、今回挑戦できて嬉しいです」と話しており、どのような戦いを魅せるのか楽しみにしたいと思います。
羽生九段は今回は残念でしたが、タイトル通算100期獲得の予感を抱かせる戦いぶりだったと思います。近い将来訪れるであろう次の機会を期待したいと思います。
本稿は「お~いお茶杯王位戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。 (https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#oui)
伊藤園お~いお茶杯第64期王位戦挑戦者決定戦 主催:新聞三社連合、日本将棋連盟
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