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「観る将」が観た第43回JT杯決勝

11月20日に将棋日本シリーズJTプロ公式戦(JT杯)決勝、藤井聡太竜王(王位・叡王・王将・棋聖)と斎藤慎太郎八段の公開対局が、千葉市の幕張メッセ国際展示場で行われました。JT杯はタイトル保持者と前年度賞金ランク上位の12名で行われるトーナメントで、持ち時間10分(切れたら1手30秒未満、他に各5分の考慮時間あり)の早指し棋戦です。

将棋日本シリーズは「テーブルマークこども大会」が同時に行われており、藤井竜王は2011年こども大会東海大会低学年の部優勝、斎藤八段は2002年こども大会中国大会低学年の部優勝という経験があり、どちらが勝ってもこども大会とJTプロ公式戦の両大会を制する初めての棋士になるそうです。少年時代から輝いていた二人が、当時憧れの目で見つめていたであろう夢の舞台で頂点を目指す対決となりました。

藤井竜王は前回は準優勝しており、今回は羽生九段と稲葉八段を破って勝ち上がっています。斎藤八段は木村九段、渡辺名人、永瀬王座を降して初の決勝進出です。

広い会場の客席を通って藤井竜王が白い着物に濃紺の羽織で、斎藤八段は白い着物に青灰色に水色のグラデーションが入った羽織で登場すると、観客は盛大な拍手で二人を迎えます。

戦型は角換わり

ファンによる振り駒により斎藤八段が先手となり、角換わりの将棋となります。斎藤八段が早々に4筋の歩を突く趣向を見せましたが、藤井竜王は玉を上がり、相腰掛け銀の将棋となります。藤井竜王が桂を跳ねる前に6筋の歩を交換して銀で取ると、斎藤八段も銀取りに▲4五桂と跳ねて戦いが始まります。

決断の桂跳ね

藤井竜王が銀を上がってかわすと、斎藤八段は6筋の銀を歩で追ってから飛先の歩を交換します。藤井竜王が△6三金と上がって桂頭を守り、少し局面は落ち着いたようです。斎藤八段が金を玉の脇に寄せ、藤井竜王が強く△3三桂と跳ねてぶつけたところで封じ手となりました。

斎藤八段の端攻め

斎藤八段の封じ手は、桂が跳ねて薄くなった端を狙う▲1五歩でした。藤井竜王が同歩と応じると、斎藤八段は持ち時間を使い切り、同香と応じます。藤井竜王も同香と応じると、斎藤八段は▲2四歩と合わせます。藤井竜王が△1八香成と飛車に当てると、斎藤八段は飛車を浮いてかわします。

藤井竜王が飛車を捕獲

藤井竜王は更に飛車取りに△4九角と打ちます。斎藤八段が▲2六飛とかわしますが、藤井竜王は△2五香と追撃して飛車を捕獲します。斎藤八段は考慮時間を2回使って▲2三歩成と踏み込みますが、AIの評価値は藤井竜王の70%と傾き始めています。

激しい攻め合い

藤井竜王は香で飛車を取りますが、斎藤八段も"と金"で後手陣の金を剥がし、▲1四角と王手します。藤井竜王は玉を寄ってかわしますが、斎藤八段は▲3二金と王手を続けます。藤井竜王も持ち時間を使い切り△5一玉とかわすと、斎藤八段は▲3三桂成と攻め続けます。藤井竜王は銀で取り、斎藤八段が金で取り返すと、銀取りに△5五桂と打って反撃に転じます。AIの評価値は藤井竜王の83%と大きく傾いています。

斎藤八段の辛抱

斎藤八段は考慮時間を使って3筋の歩を伸ばして銀に角の紐を付けますが、藤井竜王は考慮時間を1回使って△1九飛と打ちます。斎藤八段は▲6九桂と打って辛抱しますが、藤井竜王はじっと△2八成香と寄って飛車の利きを角に当てます。斎藤八段が歩で受けると、藤井竜王は更に歩で角を追ってから、△4七桂成と銀を取ります。

斎藤八段の勝負手

藤井竜王が玉頭を歩で叩き、金で取らせてから△5八銀と打つと、斎藤八段は持ち駒の銀を打って粘ります。藤井竜王が△4七銀成と金を取ると、斎藤八段は玉を早逃げします。藤井竜王が8筋の歩を突き捨ててから△5八成銀と先手玉に迫ると、斎藤八段は▲6五桂と怪しい勝負手を放ちます。

鮮やかな即詰み

藤井竜王は動じず桂交換に応じ、手にした桂を金に当てて△5五桂と打ちます。斎藤八段は金を引きますが、藤井竜王は成銀と金を交換してから△7六角成と馬を作ります。斎藤八段は馬取りに▲7七銀と上がりますが、藤井竜王は構わず△6七金と攻め続けます。斎藤八段は手抜いて▲6四桂と打ちますが、藤井竜王は△7七馬と銀を食いちぎり、△6八金打から鮮やかな即詰みに討ち取りました。

まとめ

本局はお互いの陣形が整う前に藤井竜王が積極的に動き、チャンスと見た斎藤八段は端から仕掛けました。藤井竜王は的確に応じて先手の飛車を捕獲して主導権を握り、考慮時間を余らせて攻め切る完勝となりました。斎藤八段は対局後に、飛車を捕獲される手順に見落としがあったことを悔やみましたが、藤井竜王の盤石の指し回しの前に、大きな見せ場を作ることができませんでした。
藤井竜王はJT杯初優勝の最年少記録を更新するとともに、初めてこども大会とJTプロ公式戦の両大会を制した棋士として、またしても歴史にその名を刻むことになりました。ご本人はそうした記録には無関心ですが、我々将棋ファンはこの天才棋士が今後どのような記録を積み重ねていくのか、楽しみに見守りたいと思います。
斎藤八段は惜しくも準優勝に終わりましたが、名人と王座という2人のタイトルホルダーを倒して決勝に駒を進めた実力は誰しもが認めるところです。次回以降、リベンジを果たして初優勝することを期待したいと思います。

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