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「観る将」が観た第93期棋聖戦第二局

6月15日、第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負が新潟市の高志の宿 高島屋で行われました。第一局を落とした藤井聡太棋聖が勝ってタイスコアに戻すのか、永瀬拓矢王座が一気に奪取に王手を掛けるのか、楽しみな一局となりました。
前日行われた開会式で、藤井棋聖は「第一局で反省点が見つかった。第二局以降に活かしていきたい」、永瀬王座は「一生懸命、藤井棋聖にぶつかっていきたい」と決意を述べています。


戦型は角換わり

挑戦者の永瀬王座が紺のスーツとネクタイで入室し、藤井棋聖が深緑の着物に白い羽織で入室します。先手の永瀬王座が2回右後ろに視線を送ってから飛先の歩を突くと、藤井棋聖はいつも通りお茶を口にしてから飛先の歩を突きます。永瀬王座が角換わりに誘導して相腰掛け銀の将棋となり、藤井棋聖は第一局の2局目と同様、9筋の歩を受けずに位を取らせます。永瀬王座が4筋の位を取ると、藤井棋聖は18分の考慮で△8六歩と仕掛けます。

棋聖の長考

永瀬王座は銀で取りますが、藤井棋聖は△6五銀とぶつけて銀交換します。永瀬王座が交換した銀を▲4七銀と自陣に打つと、藤井棋聖は羽織を脱ぎ47分考えて△1三角と打って先手玉を睨みます。永瀬王座も▲4八角と自陣に打ち、藤井棋聖が4筋の歩を突くと▲1五歩と後手の角を攻めます。藤井棋聖が力強く△4六銀と打って銀にぶつけると、永瀬王座は初めて手を止め16分考えたところで昼休となりました。AIの評価値は永瀬王座の59%と、早くも振れてきているようです。各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井棋聖が1時間51分、永瀬王座が3時間36分と2時間近い差が付いています。

挑戦者の長考

永瀬王座は昼休を挟む30分の熟考で銀交換に応じ、桂取りに▲6六歩と突きます。藤井棋聖が手抜いて4筋の歩を伸ばすと、永瀬王座は76分の長考の末、2筋の歩を突き捨ててから桂を取ります。藤井棋聖は香取りに△5五角と引き、永瀬王座が銀を引いて防ぐと、△4六歩と伸ばします。永瀬王座は角取りに▲5六銀と打ちますが、藤井棋聖は構わず角と金に当てて△4七銀と打ち込んで後手陣に攻め込みます。AIの評価値は全くの互角に戻っています。残り時間も藤井棋聖が1時間32分、永瀬王座が1時間47分と拮抗してきました。

AIの評価も揺れる難解な中盤戦

永瀬王座が金銀交換に応じてから▲5五銀と角を取ると、藤井棋聖も△4八"と"と角を取ります。永瀬王座が▲7九玉と早逃げすると、藤井棋聖は飛桂両取りに△3八桂と寄り桂を取ります。永瀬王座は▲2二歩と叩き、玉で取らせてから▲1四歩と端を詰めます。AIの評価値は藤井棋聖の57%と逆転模様ですが、藤井棋聖が推奨手にない△4五角と打つと、AIにも読み切れない好手だったようで形勢は更に63%と開きます。しかしまだ難解な局面は続き、永瀬王座が1筋の歩を成り捨て香を吊り上げて▲1四歩と追撃すると、AIはここで藤井棋聖が手抜いて詰めろを掛けると形勢が逆転すると示しています。

挑戦者の反撃

藤井棋聖がしっかり28分考えて△1四同香と取ると、永瀬王座は▲1四同香と取ります。藤井棋聖がじっと△4七"と"と寄ると、永瀬王座は5筋の歩を伸ばして後手の角を近づけてから▲6七銀と角取りに打ちます。藤井棋聖は残り5分まで考えて秒読みの声を聞きながら△4五角と引きます。永瀬王座に攻めのターンが回り金取りに▲4四桂と打つと、藤井棋聖は△2三金とかわします。永瀬王座は飛車を1筋に回して援軍を送り、▲1三香成から後手玉に迫ります。永瀬王座が▲1五飛と走った手が角に当たっており、藤井棋聖は△6七角成と銀を食いちぎります。

棋聖の勝負手

藤井棋聖は△1四歩と打って飛車を追い返し、残り2分まで考えて銀取りに△4三桂と打ちます。永瀬王座が飛車取りに▲8六香と打つと、藤井棋聖は飛車を3筋にかわします。永瀬王座は▲6六金と上がって銀に紐を付けますが、藤井棋聖は△8五歩~△6五歩と金香両取りを狙います。永瀬王座は金取りに▲6四香と打ち、金を取らせる代わりに▲6二香成と金を取ります。藤井棋聖は△5五桂と銀を取りますが、永瀬王座は▲3二金と王手飛車取りに打ちます。AIは飛車で金を取って交換する手を推奨していますが、藤井棋聖は△1三玉と逃げる勝負手を放ちます。

鮮やかな決め手

永瀬王座はノータイムで飛車を取りますが、この瞬間AIの評価値が大きく藤井棋聖に振れます。永瀬王座の駒台には飛車と角2枚が乗っていますが、後手玉は詰めろになっていないようです。藤井棋聖が狙っていたと思われる△9七銀と打つと、先手玉は退路を断たれて詰めろが掛かり、桂で取っても香で取っても自分の駒が邪魔になって上部への脱出ができません。永瀬王座は残り6分まで考えて▲1一飛と王手しますが、後手玉には詰めろが掛かりません。永瀬王座は▲9七桂と銀を取りますが、藤井棋聖は△4八歩と飛車の横利きを遮断して詰めろを続けます。永瀬王座は1分将棋に突入してからも数手指し続けましたが、藤井棋聖の138手目を見ると上着を着て投了を告げました。

第二局を制したのは

本局は永瀬王座が「定跡」と言う研究充分の手順に進み、藤井棋聖が一方的に時間を使わされる展開となりました。昼休前後から永瀬王座も時間を使い始め、両者がともに自信なしという難解な中盤戦に突入します。AIの評価値も両者の間を揺れ動く激戦となりましたが、藤井棋聖が飛車を取らせる代わりに先手玉の退路を封鎖する勝負手を放ち、一気に勝利を手繰り寄せました。
終局直後のインタビューで、藤井棋聖は「内容的にはかなり押されてしまっているので、第三局以降内容を良くして戦えるようにしたい」、永瀬王座は「終盤の悪いところを良くして第三局に挑みたい」と話しました。1勝1敗のタイスコアとなりましたので、第三局以降も好局を期待したいと思います。

本稿は「ヒューリック杯棋聖戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#kisei)
第93期ヒューリック杯棋聖戦第二局 主催:産経新聞社、日本将棋連盟

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