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「観る将」が観た第93期棋聖戦第三局

7月4日、第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第三局が千葉県木更津市の「龍宮城スパホテル三日月 富士見亭」で行われました。ここまで1勝1敗のタイスコアとなり、藤井聡太棋聖が勝って防衛に王手を掛けるのか、永瀬拓矢王座が勝って奪取に王手を掛けるのか、非常に注目される一局となりました。
前日のインタビューで、藤井棋聖は「第三局はこちらが先手で迎えることになるので、それに向けて準備をしてきました」、永瀬王座は「勝負所の第三局で厳しい戦いになると思いますが、精いっぱいしがみついていきたい」と話しています。


戦型は角換わり

挑戦者の永瀬王座が紺のスーツと薄紫のネクタイで入室し、藤井棋聖が濃紺の着物に白い羽織で入室します。対局開始となり、先手の藤井棋聖はいつも通りお茶を口にしてから飛先の歩を突きます。永瀬王座も飛先の歩を突くと、藤井棋聖は角換わりに誘導し相腰掛け銀の将棋となりました。藤井棋聖が43手目に3分の少考で▲4五桂と跳ねて仕掛けると、永瀬王座は△4四銀と上がってかわします。

両者の深い研究

藤井棋聖が飛先の歩を交換すると、永瀬王座は6筋の歩を突き捨ててから7筋の歩もぶつけます。藤井棋聖は▲2二歩と桂頭を叩き、金で取らせて壁形にしてから▲6四歩と伸ばします。永瀬王座は8筋の継ぎ歩攻めをしますが、藤井棋聖は力強く▲6九飛と回ります。永瀬王座が△8六歩と取り込むと、藤井棋聖は▲8二歩と飛頭を叩き、後手の飛車を7筋に追ってから▲7五歩と手を戻します。永瀬王座が△3二金と戻って壁を解消すると、藤井棋聖は▲7四角と攻防に打ちます。お互いに研究範囲なのか、それほど時間を使わずに指し進めています。

挑戦者の長考

永瀬王座は△6八歩と飛頭を叩き、飛金両取りに△5九角と打って金を食いちぎり、角取りに△8四金と打ちます。藤井棋聖が構わず再度▲2二歩と桂頭を叩くと、永瀬王座は初めて手を止め次の74手目を84分考えたところで昼休となりました。AIの評価値は永瀬王座の57%と少し傾いています。各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井棋聖が3時間31分、永瀬王座が2時間11分と、この一手の考慮時間分の差が付いています。

早くも勝負所

昼休が明けるとすぐ、永瀬王座は△3三桂と跳ねて逃げます。藤井棋聖も41分考えて▲6三歩成と飛び込み、銀で取らせてから更に31分考えて▲8一歩成と飛車に当てます。永瀬王座が37分考えて△4一飛とかわすと、藤井棋聖は28分考えて▲3三桂成と後手玉の左右から攻め立てます。早くも勝負所を迎え、両者とも序盤とは打って変わって時間を使って慎重に指し進めていますが、AIの評価値は藤井棋聖の65%と逆転模様です。

棋聖の猛攻

永瀬王座が銀で桂を取ると、藤井棋聖は▲6三角成と銀を食いちぎり、金取りに▲5五桂と打ちます。永瀬王座は△5四金とかわしますが、藤井棋聖は飛車取りに▲6三角と打ち込みます。永瀬王座が飛車を3筋に逃がすと、藤井棋聖は▲6八飛と援軍を送ります。永瀬王座が△6五歩と打って飛車の利きを遮断すると、藤井棋聖は桂取りに△6二銀と打ちます。両者の残り時間が1時間を切り、AIの評価値は藤井棋聖の75%と大きく傾いてきました。

挑戦者の粘り

永瀬王座は△4四銀と上がって玉の退路を作りますが、藤井棋聖は△7三銀不成から金を追います。永瀬王座も金取りに△6六桂と打ち、お互いに金を取り合ってから△3三玉と早逃げして粘ります。藤井棋聖が2筋の歩を成り捨てて後手の飛車を2筋に寄せてから▲3五歩と玉頭に迫ると、永瀬王座は△2二玉と逃げます。藤井棋聖が▲3四歩と取り込むと、永瀬王座は王手で△8七金と打ち、銀を取って△7七金と反撃に転じます。

鮮やかな終息

先手玉もかなり怖い形になり、藤井棋聖が玉で金を取ると、永瀬王座は△5九角と間接王手飛車を掛けます。藤井棋聖が歩で飛車を支えると、永瀬王座は飛角交換して△7九飛~△8九飛成と王手で迫ります。永瀬王座は先手玉を追いましたが、藤井棋聖の正確な応手の前にわずかに届きません。藤井棋聖は入玉を確定させて安全に勝つ手もありましたが、▲2五桂と打って後手玉を詰ませにいきます。永瀬王座が△6三金と角を取って下駄を預けると、藤井棋聖は▲3三銀から清算し、鮮やかに長手数の即詰みに討ち取りました。

まとめ

本局は藤井棋聖が第一局・第二局とも押され気味だった角換わり腰掛け銀を採用し、真っ向から永瀬王座の研究将棋に挑みました。藤井棋聖が昼休前に指した2回目の桂頭を叩く歩は、評価値的には少し後手に振れるものの、永瀬王座の研究を外す好手だったように思います。永瀬王座は昼休を挟む大長考となりましたが、激しい手順に自信を持って踏み込むことができず、形勢の針は藤井棋聖に傾きました。永瀬王座も持ち前の粘りから反撃に転じ、先手玉を追い詰めたように見えましたが、藤井棋聖の応手は正確で逆転には至らず、最後は終局の50手近く前に歩を成り捨てて飛車の位置を変えた手までが活きて、鮮やかな即詰みとなりました。
この結果、藤井棋聖は2勝1敗となり防衛に王手を掛けました。対局後には「あまりスコアは意識せず、しっかり準備して臨めればと思います」と話しています。
次局が先手番となる永瀬王座は、「次局までに少しでも棋力を上げて、良い勝負の将棋を指せればと思います」と話していますので、熱戦を期待したいと思います。

本稿は「ヒューリック杯棋聖戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#kisei)
第93期ヒューリック杯棋聖戦第三局 主催:産経新聞社、日本将棋連盟

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