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「観る将」が観た第49期棋王戦五番勝負第三局

3月3日、第49期棋王戦コナミグループ杯五番勝負第三局が、新潟市の新潟グランドホテルで行われました。持将棋となった第一局に続き、第二局に勝った藤井聡太棋王が一気に防衛まであと1勝と迫るのか、正念場を迎えた伊藤匠七段がタイスコアに戻すのか、非常に楽しみな一局となりました。

前夜祭で、藤井棋王は「昨年の対局では敗れてしまったのですが、終盤までいろいろあった将棋で、見ている方々に楽しんでもらえたところはあったのかなと思います(筆者注.前期の新潟対局では詰みを逃して負けている)。今年も多くの方に注目していただける対局になるかと思いますので、楽しんでいただけるよう全力を尽くして頑張っていきたいと思います」とユーモアも交えながら話しています。伊藤七段は「第二局は反省点の多い内容でしたので、明日は一手一手最善を尽くしていい将棋をお見せできればと思います」と挨拶しています。


戦型は角換わり相腰掛け銀

落ち着いた雰囲気の対局室に、伊藤七段が濃緑色の着物と紺色の袴に茄子紺の羽織で入室すると、藤井棋王は白い着物と鶯茶の袴に淡い亜麻色の羽織で入室します。先手の藤井棋王が角換わりに誘導すると、伊藤七段は堂々と受けて立ち、相腰掛け銀の駒組みを進めます。伊藤七段が隙を作らないよう飛車を浮いてから右桂を7筋に跳ねると、藤井棋王はいきなり右桂を4筋に跳ねて仕掛けます。

伊藤七段の連続長考

意表を突かれたのか伊藤七段は少し手を止めて銀を4筋に上がってかわし、藤井棋王が飛先の歩を交換して下段に引くと、更に52分の長考で6筋の歩をぶつけます。藤井棋王が構わず3筋の歩をぶつけると、伊藤七段は再び長考に沈み、次の46手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値はほぼ互角、各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井棋王が3時間41分、伊藤七段が1時間47分と2時間近い大差が付いています。

伊藤七段の馬

伊藤七段は昼休を挟む82分の大長考で飛車取りに角を打ち込み、藤井棋王が6筋に飛車をかわすと、馬を作ります。藤井棋王が3筋の歩を取り込むと、早くも残り1時間を切った伊藤七段は馬で4筋の桂を支える歩を狙います。藤井棋王が4筋に金を上がって歩を支えつつ馬を2筋に追い、玉を7筋に引いて飛車の縦の利きを通すと、伊藤七段は6筋の歩を取り込みます。

藤井棋王の金の進撃

藤井棋王が銀で歩を取り返すと、伊藤七段は歩で銀を追い返し、後手玉のコビンに迫る3筋の歩を馬で取ります。藤井棋王は飛車を3筋に回して馬に当て、伊藤七段が歩で馬を守ると、6筋に歩を打って自陣の傷を消します。伊藤七段が飛車を下段に引くと、藤井棋王は3筋に歩を合わせて交換し、金を上部に繰り出します。

難解な中盤の攻防

伊藤七段は2筋の歩を突いて先手の金に圧力を掛けますが、藤井棋王は1筋に角を打って3筋に戦力を集めます。伊藤七段は2筋に金を上がって受け、藤井棋王が39分の熟考で3筋に歩を合わせると、1筋の歩をぶつけます。藤井棋王が3筋の歩を取り込んで馬に当てると、伊藤七段は1筋に馬をかわして金と刺し違えます。激しい戦いとなり、AIの評価値は60%から40%の範囲で両者の間を揺れています。

藤井棋王が決断の飛車切り

伊藤七段は歩と取った金で先手の角を追い、藤井棋王が角を5筋に引いてかわすと、3筋に歩を垂らして先手の飛車を狙います。藤井棋王が残り1時間を切り、飛車を2筋にかわして金に当てると、伊藤七段は1筋の歩を成って金に紐を付けます。藤井棋王は23分熟考し、飛車で金を食いちぎってから1筋の香で後手の香を取ります。AIの評価値は藤井棋王の66%と少し傾いてきました。

伊藤七段の辛抱

次に6筋の歩の裏から香を打たれる手が厳しいので、残り5分まで考えた伊藤七段は6筋に銀を引いて辛抱します。藤井棋王は成香で桂を取り、伊藤七段が角取りに飛車を打ち込むと、持ち駒の角を王手で打ち込んでから、銀を引いて取られそうな角に紐を付けます。伊藤七段は3筋に2枚目の"と金"を作り、藤井棋王が5筋に香を打って後手の玉頭に攻め駒を足すと、5筋の歩を突いて争点をずらします。

軽やかな寄せ

藤井棋王は王手で6筋に桂を打ち、伊藤七段が玉を6筋に引いてかわすと、5筋の香を捨ててから桂も5筋に成り捨てて銀で取らせます。藤井棋王は更に王手飛車取りに金を打ち、伊藤七段がやむなく金で取ると、浮き駒になった5筋の銀を取って馬を作ります。伊藤七段は桂を打って銀に紐を付けつつ自玉の退路を作りますが、藤井棋王が銀を打って追撃すると受けは難しく、深々と頭を下げて投了を告げました。

まとめ

本局は伊藤七段の研究が早々に外れ、藤井棋王が残り時間に大差を付けたものの、形勢はほぼ互角のまま難解な中盤戦に突入しました。藤井棋王は守りの金を攻撃参加させて後手の馬を消し、飛車を切って後手陣に攻め掛かりました。伊藤七段は辛抱して受けに回りましたが、藤井棋王は緩みなく後手玉に迫り、軽やかに香桂を捨てて寄せ切りました。
藤井棋王は2勝0敗と防衛まであと1勝となりましたが、「そのこと自体はあまり意識せずに、また良い状態で臨めるように次局に向けて調整していきたいと思います」と話しました。
カド番に追い込まれた伊藤七段は「一局でも多く指せるように頑張りたいと思います」と話しており、高くて厚い藤井棋王の壁を乗り越えられるよう期待したいと思います。

棋王戦コナミグループ杯は、共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「棋王戦の棋譜利用ガイドライン」(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#kiou) に従い、インターネットでの棋譜の利用はすべて「営利を目的とする」ものとみなす(有償)と通知がありましたので、棋譜の利用は断念しています。

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