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「観る将」が観た第31期倉敷藤花戦三番勝負第二局

11月18日、大山名人杯第31期倉敷藤花戦三番勝負の第二局が岡山県倉敷市の「倉敷市芸文館」で行われました。先勝した里見香奈倉敷藤花が一気に防衛を果たすのか、西山朋佳女流四冠がタイスコアに戻して最終局に決着を持ち越すのか、注目の一局となっています。

前日に行われた歓迎会では、里見倉敷藤花は「自分の力を発揮できるように、一生懸命頑張って参りたいと思います」、西山女流四冠は「自分らしい将棋を指せるように、また、楽しんでいただける将棋を指せるように頑張って参りたいと思います」と挨拶しています。


中飛車対向かい飛車

お互いに相手の出方を窺う出だしとなり、後手の西山女流四冠が10手目に中飛車に振ると、里見倉敷藤花は向かい飛車に振り、美濃囲いに構えます。西山女流四冠が△6四銀左~△5五歩と仕掛けて歩を交換すると、里見倉敷藤花は▲5六歩と打って銀を追い返してから角を交換します。

角交換から相向かい飛車へ

西山女流四冠が飛車で角を取り返して相向かい飛車の形になり、里見倉敷藤花は▲6五桂と跳ねて銀に当てます。西山女流四冠は△8二銀と引き、里見倉敷藤花が8筋の歩を交換すると、△8三銀と飛車を追い返して△8四歩と打ちます。里見倉敷藤花が▲4六銀と上がって5筋の位を取ると、西山女流四冠は△5三歩と打って受けます。

桂交換からの玉頭攻め

里見倉敷藤花が飛車を5筋に回すと、西山女流四冠は17分の考慮で早くも残り1時間を切り、△7三桂と跳ねてぶつけます。里見倉敷藤花が5筋の歩を交換すると、西山女流四冠は桂を交換して△5三銀と引き飛車に当てます。里見倉敷藤花が飛車を下段に引くと、西山女流四冠は2筋の歩を交換して△1五桂と攻め掛かります。わずかに指し易くなってきた里見倉敷藤花が、次の61手目を考慮中に昼休となりました。各2時間の持ち時間の内、残り時間は里見倉敷藤花が1時間10分、西山女流四冠が51分となっています。

里見倉敷藤花の天王山の角

午後からは場所を芸文館ホールに移して公開対局となり、里見倉敷藤花は昼休を挟む15分の熟考で▲3六歩と突きます。西山女流四冠が玉頭に歩を打ち込んで銀桂交換し、△3三桂と跳ねて援軍を送ると、里見倉敷藤花は▲3八桂と打って玉頭を補強します。西山女流四冠は△4四歩と打って角打ちに備えますが、里見倉敷藤花は▲5四歩と銀頭を叩いて銀を引かせ、9筋の香取りに▲5五角と放ちます。

西山女流四冠の攻防の角

西山女流四冠は△2一飛と引いて香に紐を付け、里見倉敷藤花が▲4四角と出ると、△3五歩と突き捨てて角で取らせ、△6六角と攻防に据えます。里見倉敷藤花は△3七銀と引いて飛車のコビンを守り、西山女流四冠が△4五桂と跳ねて銀に当てると、更に△4八銀と引いて手堅く守ります。西山女流四冠は△8八角成と馬を作り、里見倉敷藤花が▲1六歩と突いて玉の懐を拡げると、飛車を3筋に寄せていつでも角と刺し違える構えを見せます。形勢は混沌としてきたようです。

両者とも馬を作っての攻防

里見倉敷藤花は▲4六角と引いてかわし、西山女流四冠が△6六馬と引き付けると、6筋の歩を突き捨ててから▲5六桂と控えて打ち、次の王手金取りを狙います。西山女流四冠は△6三金左と先受けし、里見倉敷藤花が▲6四桂と跳ねて王手すると、△6一玉とかわします。里見倉敷藤花は▲5五角と馬にぶつけ、西山女流四冠が△6五馬とかわすと、▲2二角成と馬を作って飛車に当てます。

飛車と馬の交換

西山女流四冠は△6四馬と桂を取り、里見倉敷藤花が飛馬交換してから▲4六歩と突いて馬の利きを止めつつ桂に当てると、△7二玉と早逃げします。里見倉敷藤花が▲4三飛と打ち込んで桂に当てると、西山女流四冠は△8六角と打って金に当てます。里見倉敷藤花は飛車を6筋に寄って金を支え、西山女流四冠が△5四馬と自陣に迫る歩を取ると、▲4五飛成と桂を取って竜を作り馬に当てます。

竜と馬の交換

西山女流四冠は竜馬交換に応じてから△6四角と引き、里見倉敷藤花が▲3七角と合わせると、△3五歩と合わせて先手玉のコビンを狙います。里見倉敷藤花が▲5七金と上がって飛車の利きを通すと、西山女流四冠は角を交換し、3筋の歩を取り込んで銀で取らせ、△7七飛と打ち込んで金に当てます。

痛烈な金頭歩

里見倉敷藤花は歩で金を支え、西山女流四冠が△6四歩と打って自陣の傷を消すと、飛香両取りに▲4四角と打ちます。西山女流四冠は△7八飛成と竜を作って飛車に当て、里見倉敷藤花が▲6六飛とかわすと、持ち時間を使い切って1分将棋となり、飛車取りに△5四桂と打ちます。里見倉敷藤花は▲6七飛と引いて辛抱しますが、西山女流四冠が金頭に放った△5六歩が痛打となり、形勢は大きく西山女流四冠に傾いたようです。

里見倉敷藤花の辛抱

金が動くと飛車を取られるので、里見倉敷藤花は▲5五桂と打って攻め合いに託し、西山女流四冠が△5七歩成と金を取ると、▲6三桂成と金を取って王手してから▲5七飛と"と金"を取ります。西山女流四冠が△7九竜と潜って金に当てると、1分将棋に突入した里見倉敷藤花は▲3九金打と辛抱します。

里見倉敷藤花が駒損を回復

西山女流四冠は飛車取りに△6五桂と打ち、里見倉敷藤花が飛車を3筋にかわすと、△1二香と取られそうな香を上がってかわします。里見倉敷藤花は▲2五銀と上がって飛車の利きを銀に当て、西山女流四冠が△4二銀打と紐を付けると、▲3二歩と叩きます。西山女流四冠は銀を見捨てて△4三銀と角に当て、里見倉敷藤花が▲3一歩成と銀を取って"と金"を作ると、△8九角と打ち込みます。里見倉敷藤花が駒損を回復し、形勢は再び混沌としてきました。

角切りの強襲

里見倉敷藤花が▲6七歩と角の利きを止めると、西山女流四冠は△6七同角成と切り飛ばし、△4四銀と角を取ります。この銀を取ると王手飛車があるので、里見倉敷藤花は▲3七飛と戻し、西山女流四冠が△3五歩と飛車の利きを止めると、▲4四歩と銀を取ります。西山女流四冠は△4五角と王手し、里見倉敷藤花が玉を1筋にかわすと、竜で9筋の香を取って攻め駒を補充します。先手陣が堅くなり、形勢は里見倉敷藤花に振れてきたようです。

激しい攻め合いに突入

里見倉敷藤花は▲4三歩成と2枚目の"と金"を作り、西山女流四冠が銀取りに△2三香と打つと、構わず▲5二銀と攻め合います。西山女流四冠は香で銀を取りますが、里見倉敷藤花は▲6一角と王手してから▲6三銀成と金銀交換し、▲3六歩と自陣に手を戻して万全を期します。西山女流四冠は△2六香と走り、里見倉敷藤花が桂で取ると、△2五銀と絡みつきます。

里見倉敷藤花の手堅い受け

里見倉敷藤花は▲5三"と"と王手で捨て、角の利きを通して▲2五角成と後手の攻撃の拠点となっている銀を取って馬を作ります。西山女流四冠が飛車取りに△4六銀と打つと、里見倉敷藤花は飛車を逃げずに▲4八香と打ちます。西山女流四冠は飛銀交換してから△9七竜と間接的に先手玉を睨みますが、里見倉敷藤花は▲4三馬と王手してから手堅く▲5七歩と竜の横利きを止めます。先手陣への攻め筋を消され、自陣は金駒を剥がされて薄くなり、攻防共に見込みがなくなった西山女流四冠は投了を告げました。

まとめ

本局は西山女流四冠が積極的に仕掛け、大駒が飛び交う激しい将棋に持ち込み、竜を作って優勢の局面を築きました。里見倉敷藤花は辛抱を重ねて決め手を与えず、先に1分将棋に突入した西山女流四冠が攻めあぐむと、駒損を回復しつつ"と金"を作って形勢を混沌とさせました。西山女流四冠は角切りの強襲に勝負を賭けましたが、里見倉敷藤花は落ち着いて対処し、手堅い受けで後手からの攻めを切らして171手の熱戦を制しました。
里見倉敷藤花は2勝0敗で防衛となり、感想戦後すぐに行われた就位式で「今日の将棋はすごく苦しかったのですが、諦めずに指すことができたのが、よい結果につながったのかなと思う反面、これからも日々精進してまいりたいと思っております」と話しました。加藤(桃)女流四段を挑戦者に迎えた女流王座戦も残っていますが、苦戦が続く女流名人リーグを勝ち抜き、年明けの女流名人戦での女流五冠への復帰に期待が掛かります。
西山女流四冠は惜しい将棋を落としましたが、対局前に話していた「自分らしい将棋」は指せていたように思います。今後も女性として初めて二次予選に進出した朝日杯や、女流名人の防衛戦など注目の対局が予定されており、前向きに頑張って欲しいと思います。

大山名人杯倉敷藤花戦は、倉敷市・倉敷市文化振興財団・山陽新聞社が主催しています。棋譜等は下記サイトをご確認ください。


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