見出し画像

「観る将」が観た第81期順位戦A級 藤井竜王6回戦

12月23日に順位戦A級6回戦、藤井聡太竜王(王位・叡王・王将・棋聖)と佐藤天彦九段の対局が名古屋将棋対局場で行われました。藤井竜王は4勝1敗でトップを並走しており、名人挑戦に向け負けられない戦いが続きます。佐藤九段は1勝4敗で残留争いに巻き込まれており、残り4局で最低でも2勝が必要になっています。両者は棋王戦の挑決二番勝負でも顔を合わせており、4日前に行われた第一局は藤井竜王が勝っています。4日後に行われる第二局に向け、両者とも本局に勝って勢いを付けたいところだと思います。


藤井竜王が対矢倉急戦新構想

先手の佐藤九段が矢倉を選択し、藤井竜王は急戦調の駒組みを進めます。佐藤九段が玉を7筋に寄せると、藤井竜王は△6三金と上がり、銀取りに△6五桂と跳ねて仕掛けます。佐藤九段が銀を6筋に上がってかわすと、藤井竜王は7筋の歩を突き捨て△7三銀と上がります。あまり見ない形の仕掛けに佐藤九段が手を止め、次の33手目を考慮中に昼休となりました。各6時間の持ち時間の内、残り時間は藤井竜王が5時間26分、佐藤九段が4時間52分となっています。

角の睨み

佐藤九段は昼休を挟む32分の熟考で2筋の歩を交換して角で取り、▲4六角と引いて間接的に後手の飛車を睨みます。藤井竜王が飛先の歩を交換すると、佐藤九段は▲8八歩と低く受け、後手の角の睨みを緩和します。

長考の応酬

AIの評価値が時間の経過とともに揺れ動く難解な中盤戦となり、藤井竜王が65分の長考で飛車を一段目に引くと、佐藤九段も57分の長考で玉を6筋に戻します。藤井竜王が更に95分長考して△8四銀と前進すると、次の45手目を佐藤九段が考慮中に夕休となりました。AIの評価値はほぼ互角、残り時間は藤井竜王が2時間17分、佐藤九段が2時間46分となっています。

飛金両取りの傷

後手陣には先手が角か銀を手にすると7二の地点に飛金両取りで打たれる傷がありますが、攻め合いは分が悪いと見た佐藤九段は夕休を挟む58分の長考で玉を更に5筋に寄って戦場から遠ざけます。藤井竜王が△8五銀と前進すると、佐藤九段は更に60分の長考を重ねて▲6五銀と桂を食いちぎり、▲1五桂と打って2筋突破を狙います。藤井竜王がもらった銀を△1二銀と打って凌ぐと、AIの評価値は藤井竜王の65%と少し傾いています。

佐藤九段の苦悩

佐藤九段は30分の熟考で残り時間が1時間を切り、2筋の歩を交換して角で取ります。飛金両取りの傷は残っていますが、藤井竜王が7筋の金頭を叩いて引かせてから6筋の歩をぶつけると、佐藤九段は何度かため息をついてから角金交換からの飛金両取りを見送り▲6六同歩と応じます。

玉の早逃げ

藤井竜王が平然と△7六銀と前進すると、佐藤九段は残り22分まで考えて▲4八玉と早逃げします。藤井竜王が32分の熟考で残り44分となり、△2六歩と垂らして先手の飛車の利きを止めると、佐藤九段は残り7分まで考えて▲3八玉と更に逃がします。藤井竜王は桂取りに1筋の歩を突き、佐藤九段が▲2六飛と歩を取ると、△6六角と飛び出します。

佐藤九段の逆襲

佐藤九段は▲2二歩と叩き、藤井竜王が△3三桂とかわすと、▲2一歩成と飛び込みます。藤井竜王は飛車取りに△2五歩と打ちますが、佐藤九段は角で桂を食いちぎり、▲2五飛と攻撃の拠点となる飛車を残します。藤井竜王は既に読み切っているのか指し手が速く、△5七角成と馬を作って金に当てます。

馬切りの強襲

後手の飛成を防いでいる金を取られる訳にはいかず、佐藤九段は持ち駒の桂を打って金を守ります。藤井竜王が11分使って馬で桂を食いちぎって踏み込むと、ABEMAの解説陣から思わず「えぇっ!」という声が漏れます。この手はAIの推奨手ではありませんが、藤井竜王は金で取らせて△8八飛成と竜を作り、自陣の傷を消しつつ最短の寄せを目指します。

流れは逆転

佐藤九段が金底の歩を打って金を守ると、藤井竜王は△2四歩~△5三桂と飛車を追ってから△2一銀と自玉に迫る"と金"を取ります。佐藤九段は1分将棋に突入し、5筋の歩を突いて飛車の横利きを通して銀に当てます。藤井竜王が構わず△7八歩成と"と金"を作って金に当てると、佐藤九段は金を寄り手順に玉を固めます。ABEMAでは藤井猛九段が「流れは逆転ですよ」と解説していますが、AIの評価値は藤井竜王の81%となっています。

佐藤九段の一間竜

藤井竜王が銀を引いてかわすと、佐藤九段は指をしならせて▲2三桂成と飛び込み、金で取らせて▲4三飛成と王手で一間竜の形を作ります。藤井竜王は歩で守り、佐藤九段が▲5二角と追撃すると、△4一玉とかわします。攻め続けるしかない佐藤九段は竜で銀を食いちぎってから▲6三角成と金を取って馬を作りますが、藤井竜王は銀取りに△4五桂と跳ねます。

長手数の即詰み

佐藤九段は力なく2筋の銀頭を歩で叩き、金で王手してから▲4一馬と詰めろを掛けて下駄を預けます。藤井竜王はノータイムで竜を切って王手し、連続王手で迫ります。先手玉には長手数の即詰みが生じており、藤井竜王が桂で王手したところで、佐藤九段は服装を整え投了を告げました。

まとめ

本局は佐藤九段が得意とする矢倉対急戦の将棋に誘導しましたが、藤井竜王は新構想で応じて主導権を握りました。藤井竜王は自陣の傷を残したまま攻め続けて先手に飛金両取りの機会を与えず、馬切りの強襲で後手陣に竜を作ることで傷を消しました。佐藤九段は棋王戦挑決トーナメントで藤井竜王に勝った時と同様に玉の早逃げで延命し、一間竜の形を作って逆襲しましたが、既に読み切っていたと思われる藤井竜王は落ち着いて勝ち切りました。
藤井竜王は5勝1敗となり、前日に1敗で並んでいた豊島九段が敗れたため、単独トップに立ちました。最年少名人獲得に向け、まずは挑戦権を獲得できるよう期待したいと思います。
佐藤九段は1勝5敗と苦しい状況が続きますが、名人経験者でもあり今後の巻き返しに期待したいと思います。

通算300勝達成

藤井竜王はこの日の1勝で、プロ入り通算300勝(未放映のテレビ対局を含む)を達成したそうです。銀河戦とNHK杯の結果が想像できてしまうのは残念ですが、当たり前のように最年少記録を更新していく藤井竜王の節目の勝利を素直に祝福したいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?