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第34期女流王位戦挑戦者決定戦

3月17日、女流王位戦の挑戦者決定戦が行われました。紅組で西山朋佳女流二冠(当時)を倒し、4勝1敗で優勝した甲斐智美女流五段と、白組で加藤桃子女流三段らを破り、5勝0敗で優勝した伊藤沙恵女流三段の顔合わせとなっています。

甲斐女流五段はタイトル獲得通算7期の実力者で、今年度はマイナビ女子オープンでも挑戦権を獲得するなど好調ですが、3月7日に現在進行中の対局すべてが終わった時点で引退するとの発表があり衝撃が走りました。一身上の都合とのことで詳細は不明ですが、最後にもう一花咲かすことができるか注目されます。

伊藤女流三段は昨年度ようやく手にした初タイトルの女流名人を、西山女流二冠(当時)の挑戦を受け失冠しており、再び戴冠に向け何としても挑戦権を獲得したいところです。

甲斐女流五段の仕掛け

振り駒で先手となった甲斐女流五段が居飛車を明示すると、伊藤女流三段は振り飛車も匂わせる立ち上がりから相居飛車の将棋を選択します。甲斐女流五段が右銀を繰り出して▲3五歩と仕掛けると、伊藤女流三段は21分の熟考で同歩と応じます。

銀交換

甲斐女流五段は▲4六銀と前進し、伊藤女流三段が3筋の歩を伸ばすと、飛車を浮いて攻撃準備を整えます。伊藤女流三段が△3四銀と出て先手の銀の動きを牽制すると、甲斐女流五段は銀取りに▲3六飛と寄ります。伊藤女流三段が4筋の歩を伸ばして銀に当てると、甲斐女流五段は銀をぶつけて交換します。

伊藤女流三段の馬

伊藤女流三段は角を交換し、持ち駒の銀を打って飛車を追い、△2七角~△5四角成と馬を作ります。甲斐女流五段が飛先の歩を交換し、次の48手目を伊藤女流三段が考慮中に昼休となりました。形勢はほぼ互角、各3時間の持ち時間の内、残り時間は甲斐女流五段が1時間52分、伊藤女流三段が2時間28分となっています。

馬を攻める甲斐女流五段

昼休明け、伊藤女流三段が△6四銀と出ると、甲斐女流五段は▲1八角と端角を打って馬にぶつけます。伊藤女流三段が△3六歩と打って馬角交換を避けると、甲斐女流五段は飛車を3筋に回します。伊藤女流三段は銀を上がって歩を支えますが、甲斐女流五段は馬取りに▲4五銀と打ちます。

飛車を攻める伊藤女流三段

伊藤女流三段は馬で7筋の歩を取ってし、甲斐女流五段が銀をぶつけて交換すると、△5四馬と戻して飛車に当てます。甲斐女流五段が15分の熟考で飛車を浮いて再び角を馬にぶつけると、伊藤女流三段は△4四馬と寄って飛車を追います。甲斐女流五段は飛車を下段に引き、伊藤女流三段が5筋の歩を突いて角成を防ぐと、▲2八歩と打って飛香両取りに銀を打たれる筋を防ぎます。

銀の突進

伊藤女流三段が15分の熟考で玉を4筋に寄って金に紐を付けると、甲斐女流五段は馬取りに▲4五銀と打ちます。伊藤女流三段が馬を6筋に引いてかわすと、甲斐女流五段は3筋に歩を連打して拠点を作り、▲5四銀と突進します。伊藤女流三段は5筋に金を上がって6三の地点を補強し、甲斐女流五段が桂を3筋に跳ねて援軍を送ると、桂頭に歩を打って催促します。形勢はわずかに伊藤女流三段に傾いてきたようです。

伊藤女流三段の押さえ込み

甲斐女流五段は25分の熟考で3筋の歩を成り捨て、更に10分考えて金取りに▲4五桂と跳ねますが、伊藤女流三段は△4四金とかわして銀に当てます。甲斐女流五段は構わず飛車を走りますが、伊藤女流三段は冷静に△3五銀と打って追い返します。甲斐女流五段は取られそうな銀を▲6五銀と引いてぶつけますが、伊藤女流三段は△5五銀とかわして中央を押さえ込みます。

角の利きを遮断

甲斐女流五段は金を上がって歩を支えますが、伊藤女流三段は△4六銀右と飛び込んで金と交換します。甲斐女流五段は▲3六角と上がって桂を支えますが、伊藤女流三段は△3五金と上がって追い返し、△3六歩と打って角の利きを遮断します。甲斐女流五段は▲5四銀と上がって桂に紐を付けつつ攻撃の拠点を作りますが、形勢は伊藤女流三段に大きく傾いています。

反撃から一気の寄せ

伊藤女流三段が△4四馬と銀に当てて受けると、甲斐女流五段は▲4二歩と玉頭を叩き、▲6五銀打と銀に紐を付けます。伊藤女流三段が冷静に△6四歩と突いて催促すると、甲斐女流五段はやむなく▲5三桂成から清算し、▲5四金と打って後手陣に圧力を掛けます。伊藤女流三段は△7六桂と打って反撃に転じ、詰めろを続けて寄せ切りました。

まとめ

本局は甲斐女流五段が積極的に仕掛けて攻め続けましたが、伊藤女流三段は馬を自陣に引き付けて手厚く守ると、金銀を前進して中央を制圧し先手の大駒に活躍の機会を与えませんでした。伊藤女流三段は先手からの攻撃が途切れると反撃に転じ、持ち時間を1時間以上残しての快勝となりました。
伊藤女流三段は里見女流王位への挑戦権を獲得し、対局後の会見では「いい将棋を指したいです。それしかないです」と話しています。女流名人を失冠した直後に掴み取った新たなチャンスに、全力を出し切れるよう期待したいと思います。
甲斐女流五段は惜しくもダブルタイトル挑戦はなりませんでしたが、既に挑戦を決めているマイナビ女子オープンでは、残り少ない女流棋士人生の集大成となる好勝負を楽しみにしています。

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