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「観る将」が観た第48期棋王戦挑決トーナメント 藤井竜王vs豊島九段

10月17日、棋王戦コナミグループ杯の挑決トーナメント準々決勝、藤井聡太竜王と豊島将之九段との対局がありました。藤井竜王は2回戦からの出場で、中川八段、久保九段を降して勝ち上がっています。前期ベスト4の豊島九段は3回戦からの出場で、阿久津八段を破っています。本局の勝者はベスト4となり、敗者復活戦のある戦いに臨む重要な対局となっています。

両者は昨年度以降タイトル戦での対局を重ねてきましたが、これまでの対戦成績は藤井竜王の17勝11敗となっています。藤井竜王にとっては六冠目のタイトルを目指し、豊島九段にとっては無冠返上を目指す負けられない一局です。


藤井竜王の仕掛け

振り駒で先手となった藤井竜王が角換わりに誘導し、豊島九段も受けて立ち相腰掛け銀の将棋となります。角換わり特有の手待ちが続きましたが、藤井竜王は飛車を七段目に浮き、豊島九段が銀を腰掛けたタイミングで4筋に桂を跳ねて仕掛けます。豊島九段が銀を4筋に引くと、藤井竜王は飛先の歩を交換して下段に戻します。豊島九段が4筋の歩を突いて桂を取りにいくと、藤井竜王は1筋の歩を突き捨ててから7筋の歩をぶつけます。

豊島九段の自陣角

豊島九段が手抜いて4筋の桂を取ると、藤井竜王も7筋の歩を取り込み桂に当てます。豊島九段は取られそうな桂を6筋に跳ね、取らせることにより先手陣に空間を作ってから△2二角と打って先手陣を睨みます。藤井竜王が4筋の歩を取り込むと、豊島九段は7筋の銀頭を歩で叩き、8筋に銀を引かせてから4筋の銀を上がって先手からの桂打ちに備えます。藤井竜王はここで手を止め、26分の熟考で▲4六角と据えます。次の66手目を豊島九段が31分考えたところで昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井竜王が3時間21分、豊島九段が3時間19分とほぼ並んでいます。

豊島九段が攻勢

豊島九段は昼休を挟む68分の長考で△7五桂と打ち、先手の玉頭攻めを図ります。藤井竜王が31分考えて角を6筋に飛び出して打たれた桂に当てると、豊島九段は桂を8筋に成り捨てます。藤井竜王が更に44分考えて金で取ると、豊島九段は金頭を歩で叩きます。先手陣は形を大きく乱されたものの、藤井竜王は角で歩を取り、AIの評価値は藤井竜王の67%と大きく傾いています。

藤井竜王の辛抱

豊島九段は何か誤算があったのか60分の長考で6筋に歩を垂らしますが、藤井竜王も52分の長考で金を5筋に寄せて玉頭の守りに利かせます。豊島九段が更に34分考えて5筋の銀をぶつけると、藤井竜王は銀を4筋に引いて交換を避けます。豊島九段は6筋の歩を成り捨てて金で取らせると、角のラインを活かして銀を前進し金にぶつけます。藤井竜王は銀を引いて金に紐を付けて辛抱しますが、豊島九段は金銀交換してから△5五角と攻防の好所に飛び出します。

豊島九段の勝負手

両者とも残り時間が1時間を切り、藤井竜王は22分使って持ち駒の銀を角取りに打って自陣を引き締めます。豊島九段も17分使って角で1筋の香を食いちぎり、△8二香と打つ勝負手を放ちます。藤井竜王がもらった角を▲7五角打と攻防に利かせて席をはずすと、豊島九段は何度か頭に手をやってしばらく考え、香で角を取り返して取った角を飛車取りに打ちます。藤井竜王は飛車を1つ浮いてかわしますが、攻め駒が不足する豊島九段は残り10分まで考えてじっと馬を作ります。

電光石火の逆襲

藤井竜王が8筋に歩を打って飛車の直射を遮ると、豊島九段は馬で飛車を追います。藤井竜王が角を引いて7筋の守りにも利かせつつ後手陣を睨むと、豊島九段は金を打って先手の飛車に圧力を掛けます。藤井竜王が2筋に桂を打って後手玉の上部を封鎖すると、豊島九段は馬を寄って飛車に当て下駄を預けます。藤井竜王は構わず、落ち着いた手つきで金頭を歩で叩き、▲4四香と打って銀と金を田楽刺しにします。豊島九段は銀香交換に応じますが、既に攻防共に見込みなく、次の手を指さずに投了を告げました。

まとめ

本局は藤井竜王の仕掛けに対し、豊島九段が対局後に「無理攻めになってしまった」と悔いた桂打ちからの玉頭攻めに託しました。昼前に藤井竜王の据えた角が、豊島九段の予定していた作戦を阻止する好手だったのかもしれません。豊島九段の攻撃は一手間違えればたちまち先手陣が崩壊する激しいものでしたが、藤井竜王は辛抱して決め手を与えず、再度の角打ちから逆襲に転じると、瞬く間に後手陣を受けなしに追い込みました。
藤井竜王は対局後「棋王戦でベスト4は初めてなので、次局も集中して精一杯指せればと思います」と淡々と語りましたが、敗者復活のあるベスト4に残ったことで、自身初の棋王挑戦が現実味を帯びてきました。次の準決勝では佐藤天彦九段との対戦が決まっておりますので、好局を期待したいと思います。

棋王戦コナミグループ杯は、共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟が主催しています。

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