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「観る将」が観た第62期王位戦第二局

7月13-14日、お~いお茶杯第62期王位戦七番勝負の第二局が、北海道旭川市の花月会館で行われました。第一局は挑戦者の豊島将之竜王が後手番で快勝しており、藤井聡太王位にとっては本局が早くも正念場となっています。
前日の会見で、藤井王位は「序盤から一手一手しっかり読みを入れて指したい」、豊島竜王は「いつも通り積極的に指していけたら」と話しています。

先に豊島竜王が夏らしく爽やかな薄緑の着物に薄黄色の羽織で入場し、すぐに藤井王位が貫録を漂わせる藍色の着物に濃緑の羽織で入場しました。本局が初めての立合いとなる広瀬八段が対局開始を告げ、先手の豊島竜王が飛先の歩を突くと、藤井王位はいつも通りお茶を口にしてから飛先の歩を突きます。

豊島竜王は角換わりの将棋に誘導し、お互いに早繰り銀の駒組みを進めます。豊島竜王が1筋の位を取ると、藤井王位も9筋の位を取ります。藤井王位は先に7筋から仕掛けましたが、豊島竜王が▲7六歩と受けると、更に8筋から攻め掛かるのを見送りいったん銀を引き上げます。豊島竜王は昼休を挟んで108分の大長考の末、▲6八玉と居玉を解消します。藤井王位が4筋に玉を上がったことで、豊島竜王の研究からは外れたのかもしれません。

藤井王位は相手の玉の位置が変わったのを見て、84分の長考で再び△7五歩と仕掛けます。豊島竜王も▲3五歩と攻め合いを選択し、藤井王位は歩を取り合った後△5四角と自陣に据えます。豊島竜王は熟考の末▲6五歩と銀取りに突き角道を遮断すると、藤井王位はここでまた73分使って42手目を封じました。残り時間は藤井王位が3時間44分、豊島竜王が4時間41分と、約1時間の差となっています。AI評価値は豊島竜王の58%と少し傾いています。

藤井王位の封じ手は、銀取りに突き出された歩を角で取る手でした。銀取りに7筋の歩を突いて攻め合う手も考えられたようですが、いったん受けに回る方針のようです。豊島竜王が2筋の歩を突き出すと、藤井王位はまたも67分の長考に沈み歩で取ります。藤井王位は劣勢を感じているのか一手一手時間を使い、△3五銀~△3六歩と相手陣に嫌味を付けます。残り時間は2時間以上の差が付きました。

豊島竜王は飛車を浮き、▲4六角と打って攻勢に転じます。藤井王位が△7六歩と突くと、豊島竜王は60分の長考で▲6六銀と守りの銀を銀取りで前進させます。藤井王位は手抜いて△8六歩と反撃しますが、豊島王位も強く▲5五銀と前進して角を奪います。お互いにノーガードで相手陣に迫り、AI評価値は豊島竜王の73%と傾いていますが、一手間違えれば逆転もあり得る激しい終盤戦に突入しました。

色々な攻め筋があって選択肢の広い豊島竜王は、77手目に腰を落ち着けて約1時間の残り時間から34分考えて玉を早逃げします。対局後の感想戦では、この辺りの局面を念入りに検討していましたが、豊島竜王としては「どの手順もスッキリしなかった」ようです。藤井王位はじっと香を取ってから△8九龍と王手し、豊島竜王が銀で合駒した瞬間ついにAI評価値が藤井王位の62%と逆転します。

相手に持ち駒を使わせた藤井王位は自陣に手を戻し、豊島竜王は猛然と敵玉に迫ります。▲7五角の王手に藤井王位が△5一玉と逃げると、豊島竜王は残り13分まで考え▲6四歩と突きます。藤井王位もここで残り8分まで考え、△6四同歩と取ります。残り時間もほぼ並び、もうどちらが勝つのかわからない激闘となりました。

豊島竜王は2枚の角で後手の玉頭を睨む形を作りましたが、藤井王位は構わず△7七桂と寄せ合いを目指します。豊島竜王は残り3分まで考え▲6三銀と打って詰めろを掛けますが、藤井王位は駒音高く△6九竜と王手します。先手玉には即詰みが生じたようで、藤井王位は慎重に2分使って△3七銀と王手を続けます。豊島竜王は残り1分まで考え、▲3七同桂とと取りますが、既に手つきに力はありません。豊島竜王は数手指し続けましたが、藤井王位が△2六竜と王手したのを見て無念の投了となりました。

本局は、藤井王位が放った自陣角が押さえ込まれ、序盤の構想では第一局に続いて豊島竜王が優勢の局面を築きました。中盤に藤井王位の反撃に怯まず守りの銀で相手陣に迫った辺りでは、AIの評価値も徐々に豊島竜王に振れ、豊島竜王が藤井王位に大きく勝ち越しているのも納得できる迫力がありました。しかし藤井王位が逆転に向けた執念で複雑化した局面は、最後は中盤に3筋に垂らした歩が先手玉の詰みに大きく貢献し、初めから予定通りだったかのように見事な詰め上がりとなりました。

これで本シリーズは1勝1敗のタイとなりました。7月21-22日に行われる第三局に向け、藤井王位は「気持ちを新たにして精一杯戦いたい」、豊島竜王は「気持ちを切り替えてコンディションを整えて頑張りたい」と語りました。7月25日には、豊島叡王に藤井王位が挑戦する叡王戦五番勝負も始まります。両者による真夏の激闘は始まったばかりであり、将棋界の歴史に残る名勝負が続くことを期待したいと思います。

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