「観る将」が観た第73期王将戦第一局
1月7-8日、第73期ALSOK杯王将戦七番勝負第一局が栃木県大田原市のホテル花月で行われました。全八冠を保持する藤井聡太王将に挑むのは、振り飛車党の第一人者菅井竜也八段です。
両者の対戦成績は藤井王将の9勝4敗です。今年度は叡王戦五番勝負でも顔を合わせ、菅井八段が全局三間飛車を採用して熱戦を繰り広げ、藤井叡王が3勝1敗で防衛しています。
1月1日に北陸で発生した能登半島地震直後の開催となり、開幕前夜の会見で藤井王将は被災者へのお見舞いを述べた後、「こうして対局できることに感謝しつつ全力で臨みたいと思っています」と話しています。菅井八段は険しい表情で、「少しでも良い将棋を指して、将棋を通して力に代えてもらえればと思います」と話しています。
三間飛車相穴熊
対局室に菅井八段が濃紺の着物と細い縦縞の袴に白い羽織で入室すると、藤井王将は茄子紺の着物と鶯茶の袴に淡い水色の羽織で入室します。市長による振り駒の結果、先手となった菅井八段が初手に角道を開け、三間飛車に振って穴熊に囲うと、藤井王将も穴熊を目指します。
早くも藤井王将が1時間越えの長考
菅井八段が4筋と3筋の歩を突いてから左金を4筋に寄せると、藤井王将は61分の長考で右銀を引いて松尾流穴熊を目指します。菅井八段は左金を3筋に寄せて引き締め、藤井王将が角を2筋に覗くと、飛車を4筋に回して歩を支えます。藤井王将が飛車を浮き、菅井八段が次の43手目を考慮中に昼休となりました。各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王将が6時間25分、菅井八段が6時間29分となっています。
両者の我慢比べ
昼休が明け、菅井八段は6筋の歩を伸ばし、藤井王将が飛車を寄って角頭の歩を狙うと、銀を6筋に引いて歩を守ります。藤井王将は銀を引いて松尾流穴熊を完成させ、菅井八段が9筋の歩を突くと、51分熟考して9筋の歩を突き合います。菅井八段は9筋の香を1つ上がって後手の角のラインから外し、藤井王将が飛車を8筋に戻すと、飛車を下段に引いて仕掛けのタイミングを計ります。
菅井八段が1時間越えの長考で封じ手
藤井王将がじっと角を3筋に戻すと、菅井八段は長考に沈み、定刻後も数分考え続け、83分の長考で次の53手目を封じました。お互いに時間を投じて隙を見せず、形勢はほぼ互角です。各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王将が4時間21分、菅井八段が4時間4分となっています。
藤井王将の仕掛け
菅井八段の封じ手は、▲4七飛と浮く手でした。藤井王将が8筋の歩を突き捨ててから、4筋の歩を伸ばして角をぶつけると、菅井八段は銀を上がって角交換を拒否します。藤井王将は4筋の歩を交換してから飛車を引き、菅井八段が5筋の歩を突くと、52分の長考で7筋の歩を突きます。菅井八段が次の63手目を考慮中に昼休となりました。各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王将が6時間25分、菅井八段が6時間29分となっています。
3か所でぶつかり合う歩
菅井八段が昼休を挟む45分の長考で5筋の歩をぶつけると、藤井王将は7筋の歩をぶつけます。菅井八段は構わず3筋の歩をぶつけ、藤井王将が48分の熟考で7筋の歩を取り込んで角に当てると、6筋に角を引いてかわします。ほぼ互角の範囲で揺れていたAIの評価値は、藤井王将の62%とわずかに傾き始めています。
難解な中盤戦
藤井王将は角を4筋に上がり、菅井八段が飛車を5筋に寄せると、41分の熟考で残り44分となり、△3五角と出てぶつけます。菅井八段は銀を引いて角交換を拒み、藤井王将が更に14分考えて5筋の歩を取ると、飛車を7筋に回します。藤井王将は△4五歩と打って先手の銀の前進を防ぎ、菅井八段が角取りに▲3六歩と打つと、角を5筋に引いてかわします。難解な局面が続き、AIの評価値はほぼ互角に戻っています。
藤井王将の"と金"攻め
菅井八段が6筋の歩を突き捨ててから、銀を4筋に引いて守りを固めると、藤井王将は8筋に歩を垂らし、菅井八段が角を7筋に上がって受けると、構わず△8八歩成と"と金"を作ります。菅井八段が取れる"と金"を取らずに7筋に歩を垂らすと、藤井王将は18分考えて残り8分となり、"と金"を引いて角に当てます。菅井八段は角を天王山に逃がし、藤井王将が更に"と金"を引いて飛車に当てると、飛車を上がってかわします。AIの評価値は、藤井王将の67%と再び傾いてきました。
菅井八段の勝負手
藤井王将は飛車を浮いて角に当て、菅井八段が角を上がってぶつけると、5筋に歩を垂らします。菅井八段が「そっかぁ」とつぶやいて一度席を外し、角を交換してから5筋の金頭を歩で叩くと、藤井王将は金を6筋に寄ってかわしつつ飛車に当てます。菅井八段は飛車を見捨てて4筋に歩を垂らし、藤井王将が5筋に"と金"を作ると、4筋の歩を成り捨ててから、金の両取りに▲5二角と打つ勝負手を放ちます。
藤井王将の攻防の角
藤井王将は"と金"で銀を剥がしてから金で飛車を取り、菅井八段が4筋の金を取って馬を作ると、△6四角と攻防に据えます。菅井八段が残り55分となって4筋に歩を垂らすと、藤井王将は持ち駒の銀を自陣に埋めて馬に当てます。菅井八段が構わず5筋に"と金"を作ると、藤井王将は先手陣に飛車を打ち込んで攻め合います。
痛烈な桂打ち
菅井八段は金を引いて飛車に当て、藤井王将が桂を取って竜を作ると、取られそうな馬を引いて自玉を睨む角に当てます。藤井王将は金取りに△4七桂と打ち、菅井八段が自陣に金を埋めて粘ると、金桂交換してから4筋の歩を伸ばして拠点を作ります。菅井八段は4筋の歩を成り捨てて底歩を打ちますが、藤井王将が△4七金と畳み掛けると、まだ王手も掛かっていない状況ですが潔く投了を告げました。
まとめ
本局は相穴熊の将棋となり、駒がぶつかることなく1日目を終えました。2日目に藤井王将が積極的に仕掛け、難解な中盤戦が続きましたが、藤井王将が8筋に作った"と金"で桂香を拾うのではなく、先手の大駒を封じ込めて主導権を握りました。菅井八段は飛車を見捨てて馬を作る勝負手を放ちましたが、藤井王将は小駒で先手陣を切り崩し、形勢に大差を付けて投了に追い込みました。
幸先良く先勝した藤井王将は「序盤の構想に課題が残ったので、第二局に向けて修正したい」と話しましたが、相手に付け入る隙を与えない完勝だったと思います。
菅井八段は「中終盤での読みの精度が反省点。次は集中して頑張りたい」と話しており、次局以降の熱戦を期待したいと思います。
ALSOK杯王将戦は、毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟が主催し、ALSOKが特別協賛、囲碁将棋チャンネル、立飛ホールディングス、inゼリー、富士フイルムが協賛しています。棋譜は公式サイトをご覧ください。
本稿は「王将戦における棋譜利用ガイドライン」に従い、利用許諾を得ています。 (https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ousho)
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