「観る将」が観た第9期叡王戦五番勝負第二局

4月20日、叡王戦五番勝負第二局が石川県加賀市のアパリゾート佳水郷で行われました。先勝した藤井聡太叡王が一気に防衛まであと1勝と迫るのか、伊藤匠七段が高く厚い壁を乗り越えてタイスコアに戻すのか、楽しみな一局となりました。

前日に行われたインタビューで藤井叡王は「一手一手しっかり考えて面白い将棋にしていきたいなと思っています」、伊藤七段は「先手番ですので、うまく主導権を握れるような展開にできればと」と話しています。

藤井叡王の趣向

広々とした対局室に、伊藤七段が紫紺の着物と明るい灰色の袴に光沢のある白い羽織で入室すると、藤井叡王は白い着物と灰茶色の袴に淡い水色の羽織で入室します。先手の伊藤七段が角換わりに誘導すると、藤井叡王は珍しく10手目に△3三角と上がり、△3三金型の角換わりとなります。

伊藤七段が1筋を突き越し

藤井叡王は△6四銀と早繰り銀を見せ、伊藤七段が1筋を突き越して位を取ると、17分の考慮で玉を3筋に寄り、先手からの継ぎ歩攻めに備えます。伊藤七段は3筋の歩を突き、藤井叡王が7筋の歩を交換して銀を繰り出すと、▲3七桂と跳ねて後手の金を狙います。

藤井叡王が飛車を横に転回

藤井叡王は8筋の歩をぶつけて銀交換してから△4六飛と歩を取り、伊藤七段が30分の熟考で金取りに▲8三角と打ち込むと、歩で金を守ります。次の39手目を伊藤七段が考慮中に昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井叡王が2時間39分、伊藤七段が2時間22分となっています。

後手の飛車を追う伊藤七段

昼休が明けるとすぐ、伊藤七段は桂を7筋に跳ね、藤井叡王が38分の熟考で8筋に歩を合わせると、飛車取りに▲5五銀と打ちます。藤井叡王が飛車を3筋にかわすと、伊藤七段は▲4七角成～▲4六銀～▲7六歩と飛車を追い、金取りに▲4五桂と跳ねます。

難解な中盤戦

藤井叡王が構わず△6四角と打って2枚替えを狙うと、残り1時間を切った伊藤七段は金桂交換してから▲3七銀上と補強します。36分の熟考で残り32分となった藤井叡王は△4五銀と打ち、伊藤七段が飛車取りに▲6六金と打つと、銀を交換してから馬取りに△3五桂と打ちます。何か所も駒がぶつかる難解な局面となり、ずっとほぼ互角の範囲内で揺れていたAIの評価値は、藤井叡王の57％とわずかに傾いています。

取られそうな飛車を金と交換

伊藤七段が▲3六馬とかわすと、残り10分を切った藤井叡王は取られそうな飛車を金と交換し、△8七歩成と飛び込んで金に当てます。ごく自然な手順に見えましたが、AIの評価値は伊藤七段の68％と大きく傾きます。伊藤七段が残り5分まで考え、2筋の歩を突き捨ててから▲8七金と"と金"を取ると、1分将棋となった藤井叡王は馬取りに△4五銀と打ちます。

飛車を見捨てての玉頭攻め

この銀を銀で取ると後手の角の利きが飛車に当たりますが、伊藤七段が力強く▲4五同銀と応じると、藤井叡王は取れる飛車を取らずに△4五同桂と銀を取り返し、先手の玉頭攻めを図ります。伊藤七段は▲4五同馬と桂を取り、藤井叡王が角で飛車を取って馬を作ると、▲4四歩と合わせて後手の玉頭に迫ります。

鮮やかな即詰み

藤井叡王は△4七飛と打って詰めろを掛け、伊藤七段が連続王手してから▲3五馬と5筋の歩を支えて詰めろを逃れると、△6七銀と打って詰めろを続けます。伊藤七段は王手銀取りに▲4三桂と打ち、藤井叡王が△6二玉とかわすと、▲5三銀不成と王手を続けます。藤井叡王が△7三玉とかわすと、後手玉には即詰みが生じたようで、伊藤七段は▲8四銀とタダ捨てし、▲8五飛と王手を続けます。藤井叡王は水を口にしてから脇息を引き、一瞬宙に視線を送ってから投了を告げました。

まとめ

本局は藤井叡王が前例の少ない形の角換わりを選択し、お互いに序盤から小刻みに時間を使ってバランスを保ちました。何か所も駒がぶつかる難解な局面となり、藤井叡王が飛金交換して攻め込んだのに対し、伊藤七段は飛車を見捨てて玉頭攻めを敢行しました。藤井叡王は詰めろを掛けて下駄を預けましたが、伊藤七段は王手を続けながら詰めろを逃れ、最後は鮮やかな即詰みに討ち取りました。
藤井叡王に対する公式戦初勝利でタイスコアに戻した伊藤七段は、「なかなか勝てていなかったので一つ結果が出たことは良かったですけど、まだ番勝負が続くので引き続き頑張りたいと思います」と先を見つめて話しました。藤井叡王は「今後も名人戦含めて対局が続くことになるので、良いコンディションで対局に臨めるようにしていきたいと思います」と話しており、次局以降も熱戦が続くことを期待したいと思います。

叡王戦は、株式会社不二家が主催し、レオス・キャピタルワークス株式会社が特別協賛、中部電力・株式会社豊田自動織機・豊田通商株式会社・AMD・アパリゾート佳水郷が協賛しています。棋譜等は下記サイトをご覧ください。棋譜等は下記サイトをご覧ください。

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