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「観る将」が観た第82期名人戦七番勝負第二局

4月23-24日、名人戦七番勝負第二局が、千葉県成田市の「成田山 新勝寺」で行われました。先勝した藤井聡太名人がリードを拡げるのか、本局では先手番となる豊島将之九段がタイスコアに戻すのか、注目の一局となりました。

対局前日のインタビューでは、藤井名人は「序盤から一手一手考える将棋になるのかなと思っているので、その中でできる限り高い精度で指していって、難解な中終盤に持ち込むような将棋にできればと思っています」、豊島九段は「これまでやってきたことを活かしつつ、第一局で9時間の将棋を経験できたのでそれも活かしつつ指していければと思います」と決意を述べています。


戦型は相掛かり

子ども達を含む関係者が見守る対局室に、豊島九段が深緑の着物に亜麻色の袴と金色の羽織で入室すると、藤井名人は茄子紺の着物に灰色の袴と濃い藤色の羽織で入室します。先手の豊島九段が相掛かりに誘導し、飛車先の歩を交換すると、藤井名人は早くも26分の熟考で角道を開けます。豊島九段も角道を開け、藤井名人が飛先の歩を交換すると、飛車を3筋に寄せて縦歩取りを狙います。

豊島九段はひねり飛車

藤井名人は26分考えて飛車の横利きで3筋の歩を守り、豊島九段が玉を4筋に上がると、玉を4筋に寄せます。豊島九段は27分の熟考で7筋に桂を跳ね、藤井名人が銀を4筋に上がって中央を補強すると、7筋の歩を伸ばしてひねり飛車を目指します。次の30手目を藤井名人が考慮中に昼休となりました。各9時間の持ち時間の内、残り時間は藤井名人が7時間18分、豊島九段が7時間56分となっています。

藤井名人の天王山の角

藤井名人が昼休を挟む61分の長考で△5五角と飛び出すと、豊島九段も57分長考し、じっと6筋に銀を上がります。藤井名人は9筋に桂を跳ね、豊島九段が更に77分の大長考で角頭に歩を打って飛車の直射を遮ると、8筋に桂を跳ねてぶつけます。

豊島九段が決戦を回避

先手には桂を6筋に跳ね違えて激しい戦いを挑む手もありましたが、豊島九段は44分の熟考で玉を3筋に引いて戦場から遠ざけ、藤井名人は桂を交換してから角を4筋に引いてひとまず落ち着かせます。豊島九段が考慮中に定刻となり、次の39手目を封じました。各9時間の持ち時間の内、残り時間は藤井名人が5時間21分、豊島九段が4時間31分と50分程の差となっています。

藤井名人の仕掛け

豊島九段の封じ手は、2筋に歩を打って自陣の傷を消す手でした。藤井名人は桂を3筋に跳ね、豊島九段が飛車を7筋に回すと、93分の大長考で5筋の歩を突きます。豊島九段が銀を6筋に上がると、藤井名人は飛車取りに△6四桂と打って引かせてから、1筋の歩をぶつけます。豊島九段が次の47手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値は藤井名人の63%と少し傾き、残り時間は藤井名人が3時間12分、豊島九段が3時間46分となっています。

藤井名人が飛車を捕獲

豊島九段は昼休を挟む52分の長考で同歩と応じ、藤井名人が1筋に歩を垂らすと、▲1四桂と打って後手の香の利きを止めます。藤井名人は桂香交換して△8五桂と打って飛車を捕獲し、豊島九段が1筋に"と金"を作ると、飛桂交換してから△1五飛と打って突破を目指します。豊島九段は玉自ら2筋に上がって1筋を守り、藤井名人が飛車で"と金"を取ると、角を5筋に引いて右辺への転回を図ります。

豊島九段が後手の飛車を押さえ込み

藤井名人は2筋に桂を跳ね、豊島九段が▲2六桂と打って飛車の捕獲を狙うと、2筋の歩を突いて飛車の逃げ場所を作ります。豊島九段が飛頭を歩で叩いて3筋に追い、1筋に桂を跳ねてぶつけると、次の66手目を藤井名人が考慮中に夕休となりました。先手は駒損ながら後手の飛車を押さえ込み、AIの評価値はほぼ互角に戻っています。残り時間は藤井名人が1時間13分、豊島九段が1時間55分となっています。

豊島九段が攻勢

夕休が明け、藤井名人が1筋の桂頭を歩で叩くと、豊島九段は桂交換してから飛車取りに▲4五桂と打ちます。藤井名人は飛車を2筋にかわし、豊島九段が3筋に桂を跳ねて銀に当てると、銀を3筋に引いてかわします。豊島九段は3筋の歩を突き、藤井名人が玉を5筋に早逃げすると、1筋に角を飛び出して後手陣を睨みつつ飛車の捕獲を狙います。

豊島九段が飛車を捕獲

残り1時間を切った藤井名人が2筋の歩をぶつけると、豊島九段は香を打って飛車を捕獲します。藤井名人は△2五桂と攻め合いますが、AIの評価値は豊島九段の67%と大きく傾いてきました。豊島九段も残り1時間を切り、一心不乱に46分熟考して飛車を取ると、藤井名人は2筋の歩を成って王手します。

大きく揺れ動く評価値

AIは銀で"と金"を取る手を推奨していましたが、豊島九段が玉を3筋に引いてかわすと、評価値は藤井名人の57%と振れます。藤井名人が"と金"で銀を剥がしてから、金で成香を取ると、AIの評価値は豊島九段の60%と揺れ動きます。難解な終盤戦となり、豊島九段が金銀両取りに▲2一飛と打ち込むと、藤井名人は先手陣の金頭を歩で叩いて攻め合います。

目まぐるしく攻守を入れ替えての激戦

豊島九段が金を取って竜を作ると、藤井名人は歩で金を取って王手してから、玉を6筋に早逃げします。豊島九段は竜で桂を取り、藤井名人が1筋の歩を成ると、香で取ります。藤井名人が香を取って馬を作ると、豊島九段は金を打って馬を追い、角をぶつけて馬と交換します。藤井名人が銀を打って自玉のコビンを守ると、残り9分まで考えた豊島九段は竜を後手陣に再侵入し銀に当てます。

地震にも動じない集中力

藤井名人も残り10分となり、銀で自玉に迫る桂を取ると、豊島九段は竜で銀を取って詰めろを掛けます。対局場に地震があり画面も揺れましたが、藤井名人は動じる様子もなく、更に銀を前進して先手玉に迫りつつ詰めろを逃れます。豊島九段が持ち駒の銀を投じて自玉を守ると、藤井名人は銀交換してから玉を7筋に早逃げします。

藤井名人の粘り

豊島九段が5筋に桂を打って後手陣の金に当てると、藤井名人も4筋に桂を打って先手陣の金に当てます。豊島九段が後手陣の金を剥がし、角を打ち込んで王手し、銀を打って後手玉に迫ると、藤井名人は持ち駒の銀を投じて粘ります。豊島九段は取られそうな自陣の金を上がってかわし、藤井名人が先手陣に角を打って先手玉に迫ると、玉を2筋に上がって早逃げします。

死闘の結末

藤井名人は2筋に桂を打って先手玉の上部脱出を防ぎ、1分将棋に突入した豊島九段が金で4筋の桂を取ると、金で王手してから馬を作って詰めろを掛けます。豊島九段は角で香を食いちぎって王手しますが、藤井名人が玉を8筋にかわすと、秒読みの声を聞きながら投了を告げました。

まとめ

本局は豊島九段が相掛かりからのひねり飛車を志向しましたが、藤井名人は角を天王山に飛び出して牽制し、先手の飛車を捕獲して攻め掛かりました。豊島九段はじっと自陣の傷を消しながらチャンスを待ち、角を右辺に転回して飛車を取り返し、AIの評価値も激しく揺れ動く大熱戦となりました。両者とも相手に決め手を与えないまま、持ち時間が10分を切っての攻防が続きましたが、最後は藤井名人が先手玉を追い詰め、遊んでいた飛車が守る8筋まで自玉を逃がして勝利を手にしました。
対局後、中盤でミスが出てしまっていると反省を口にした藤井名人は、次局に向け「本局をしっかり振り返って、第三局で良い内容の将棋が指せるよう頑張りたいと思います」と話しました。豊島九段は「序盤のかなり早い段階で悪くしてしまったので、そういう風にならないようやっていきたいと思います」と話しており、次局以降も熱戦を期待したいと思います。

名人戦は朝日新聞社・毎日新聞社・日本将棋連盟が主催しています。
本稿は名人戦・順位戦における棋譜利用ガイドライン(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#junni) に従っています。

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