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「観る将」が観た第64期王位戦第三局

7月25-26日、伊藤園お~いお茶杯第64期王位戦七番勝負第三局が北海道小樽市の「料亭湯宿 銀鱗荘」で行われました。連勝した藤井聡太王位が勝って防衛まであと1勝とするのか、佐々木大地七段が勝って巻き返しの狼煙を上げるのか、注目の一局となりました。

前日に行われた夕食会では、藤井王位は「集中力を高めて北海道の皆さまをはじめとして、見てくださっている方に楽しんでいただける熱戦にしたいと思います」、佐々木七段は「北海道での対局ということで、なかなか普段触れ合う機会がありませんが、今回の王位戦を通じて熱戦を多くの方に届けたいですしシリーズを盛り上げたいです」と挨拶しています。


戦型は角換わり相腰掛け銀

明るい雰囲気の対局室に佐々木七段が淡い藤色の着物に鶯茶の袴と光沢のある白い羽織で入室し、続いて藤井王位が白い着物に灰色の袴と明るい青色の羽織で入室します。先手の藤井王位が角換わりに誘導し、相腰掛け銀の将棋となります。佐々木七段が4筋に上がった玉を5筋に寄せ、右金を三段目に上がると、藤井王位は玉を8筋に入城します。佐々木七段は玉を6筋に寄せ、藤井王位が銀を引いて銀矢倉を組むと、同様に4筋に銀を引きます。

角換わりの間合い

藤井王位が飛車を5筋~6筋に動かして戦機を探ると、佐々木七段は左金を動かして間合いを測ります。藤井王位が銀を再び5筋に腰掛けると、佐々木七段も金を3筋に戻します。藤井王位が42分の熟考で4筋の歩をぶつけ、佐々木七段が次の54手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値は佐々木七段の55%とわずかに傾いています。各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王位が6時間53分、佐々木七段が6時間10分となっています。

長考の応酬

佐々木七段が昼休を挟む82分の長考で同歩と応じると、藤井王位は83分の長考を返して桂で取ります。佐々木七段が銀を4筋に上がってかわすと、藤井王位は歩を打って桂を支えます。佐々木七段が更に48分長考し、1筋の歩を突き捨てて香頭を歩で叩くと、藤井王位は20分程考えて次の61手目を封じました。AIの評価値は藤井王位の55%とわずかに傾き、残り時間は藤井王位が4時間35分、佐々木七段が4時間2分となっています。

佐々木七段の大長考

藤井王位の封じ手は大方の予想通り香で歩を取る手で、佐々木七段はすぐに香取りに角を打ち込みます。藤井王位は飛車を回して香を守り、佐々木七段が3筋に馬を作ると、▲3三歩と金頭を叩きます。佐々木七段は152分の大長考の末に金を引いてかわし、藤井王位が次の67手目を考慮中に昼休となりました。残り時間は藤井王位が3時間41分、佐々木七段が1時間30分と2時間以上の大差となっています。

銀と馬の駆け引き

昼休が明けると、藤井王位は銀を引いて馬に当て、佐々木七段が馬を2筋に引いてかわすと、1筋の歩を伸ばします。佐々木七段が歩を打って香の利きを遮断すると、藤井王位は1筋の歩を成り捨てて桂で取らせます。藤井王位が再び銀を5筋に上がると、佐々木七段も銀を5筋に上がって対抗します。

藤井王位の連続長考

藤井王位が58分の長考で4筋に金を上がって銀と連結させつつ4筋の歩を支えると、佐々木七段は39分の熟考で残り39分となり、じっと馬を引きます。藤井王位が更に50分の長考で1筋の香を走ると、佐々木七段は歩を打って飛車の利きを止めます。藤井王位は桂香交換して取った桂を馬銀両取りに打ち、佐々木七段が馬をかわすと、飛車を2筋に寄って飛成を見せます。

わずかな隙

佐々木七段が2筋に金を上がって受けると、藤井王位は銀桂交換し、後手陣に生じたわずかな隙に▲4二銀と打ち込みます。馬を先手玉を睨む好位置に引き付けた佐々木七段は、8筋の歩を突き捨ててから1筋の歩を成って飛車に当てますが、藤井王位は飛車を6筋にかわして守りに利かせます。佐々木七段は△4一香と打って目障りな銀に働きかけますが、AIの評価値は藤井王位の67%と傾いてきました。

藤井王位の竜

藤井王位は▲5一角と王手し、佐々木七段が飛車と角銀の2枚替えに応じると、王手香取りに飛車を打ち込んで竜を作ります。佐々木七段が銀を投じて守りを固めると、藤井王位は竜を引いて間接的に後手玉を睨みます。佐々木七段が7筋の歩をぶつけると、ABEMAでは取る手は危険と解説されていますが、藤井王位は残り68分から39分を使って堂々と同歩と応じます。

佐々木七段の反撃

佐々木七段が空いたスペースに歩を打って銀を吊り上げ、飛銀両取りに△5八角と打つと、藤井王位は飛車を浮いて銀取りを防ぎます。佐々木七段が6筋の歩もぶつけると、藤井王位は玉を上がって馬の利きから逃れます。佐々木七段の強烈な反撃に、AIの評価値はほぼ互角に戻っています。

優劣不明の激戦

藤井王位の勝ちパターンかと思われた将棋が一転して優劣不明の激戦となり、両者の一手一手に全国の将棋ファンの視線が釘付けとなります。佐々木七段が6筋の歩を取り込んで飛車に当てると、藤井王位は飛車を引いてかわします。佐々木七段は△7六角成と銀を食いちぎり、△4三馬と引いて自玉の守りに利かせつつ間接的に先手玉を睨みます。非常に厳しい一手に見えましたが、AIの評価値は再び藤井王位の84%と大きく傾きます。

絶妙な切り返し

藤井王位はわずか6分でAIの推奨する▲4四香のタダ捨てを発見し、後手の馬を元の位置に戻して金取りに▲1一角と打ち込みます。藤井王位の絶妙な切り返しに、佐々木七段は時折額に手を当てて残り5分まで考え、自玉の上部脱出を阻んでいる4筋の桂を銀で食いちぎります。藤井王位は金を取って馬を作り、佐々木七段が馬をぶつけて交換すると、4筋の銀を取って後手玉に迫ります。佐々木七段は王手飛車取りに銀を打ち込み、金と交換して下駄を預けます。後手玉には長手数の即詰みが生じており、藤井王位が王手を続けると、佐々木七段は投了を告げました。

まとめ

本局は角換わりの最先端の研究がぶつかり合い、佐々木七段は1筋の端攻めから作った馬に命運を託しましたが、藤井王位は銀を引いていったんは馬を押さえ込みました。藤井王位は徐々に駒得を重ねてリードを奪いましたが、代償として馬を好位置に据えた佐々木七段の渾身の反撃を浴びて優劣不明の激戦となりました。最後は藤井王位が絶妙の切り返しを魅せ、鮮やかな即詰みに討ち取りました。
藤井王位は3連勝で防衛まであと1勝となりましたが、次局に向け「第四局は後手番になるので、これまで以上にしっかり準備をして良いコンディションで臨みたいと思います」と慎重な姿勢を貫いています。
佐々木七段は「課題が色々とあるので、しっかりクリアして良い状態で臨めるよう切り替えていきたいと思います」と話しており、得意の先手番で藤井王位を苦しめる熱戦を期待したいと思います。

本稿は「お~いお茶杯王位戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#oui)
伊藤園お~いお茶杯第64期王位戦第三局 主催:新聞三社連合、日本将棋連盟

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