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「観る将」が観た第13期女流王座戦挑戦者決定戦

9月5日、リコー杯第13期女流王座戦の挑戦者決定戦が行われました。前期挑戦者の加藤桃子女流四段と、前期は挑決で敗れた西山朋佳女流三冠が、2期連続で顔を合わせることとなりました。

加藤(桃)女流四段は女流王座を通算4期獲得しており、今期は1回戦から中村(真)女流四段、堀女流1級、渡部女流三段を降しています。西山女流三冠は女流王座を通算2期獲得しており、今期は今井女流1級、伊藤女流四段、上田女流四段を破っています。両者の対戦成績は奨励会時代を含め、西山女流三冠が11勝、加藤(桃)女流四段が9勝と拮抗しています。


居飛車対三間飛車の相穴熊

振り駒で後手となった西山女流三冠が三間飛車に振り、金銀3枚の穴熊に囲うと、加藤女流四段も松尾流穴熊に囲います。西山女流三冠が18分考えて飛車を4筋に振り直すと、加藤女流四段は27分の熟考で2筋の歩をぶつけます。西山女流三冠が角で取ると、加藤女流四段は6筋の歩を突き捨てます。次の49手目を加藤女流四段が考慮中に昼休となりました。各3時間の持ち時間の内、残り時間は両者とも2時間4分で並んでいます。

加藤女流四段の金の進軍

昼休が明け、加藤女流四段は3筋の歩をぶつけ、西山女流三冠が銀を上がって6筋の歩を支えると、4筋の歩もぶつけます。西山女流三冠が1筋の香を上がって角の利きから外すと、加藤女流四段は4筋の歩を取り込みます。西山女流三冠は7筋の歩をぶつけ、加藤女流四段が6筋に歩を垂らすと、7筋の歩を取り込んで角に当てます。加藤女流四段は金で取り、西山女流三冠が歩で金頭を叩くと、力強く▲8五金と上がってかわします。

加藤女流四段の端攻め

西山女流三冠が6筋の歩を伸ばして角で取らせ、7筋の歩を伸ばすと、加藤女流四冠は6筋の歩を成り捨てて、後手陣を乱してから9筋の歩をぶつけます。西山女流三冠は角頭を歩で叩き、加藤女流四段が角を4筋に引くと、△4四飛と待望の飛車の活用を図ります。加藤女流四段が9筋の歩を取り込むと、西山女流三冠は△9六歩と打って香を吊り上げます。

西山女流三冠の辛抱

残り1時間を切った西山女流三冠が、7筋の歩を成り捨ててから△7五歩と打って先手の角の利きを止めると、加藤女流四段も残り1時間を切り、▲3七角と銀を睨んで後手の飛車の動きを牽制します。西山女流三冠は△4六歩と打って先手の角の利きを止めて辛抱しますが、自らの飛車と角の利きも止まります。

飛車取りと角取り

加藤女流四段は飛頭を歩で叩き、西山女流三冠が5筋にかわすと、▲6七金と寄って歩を支えます。西山女流三冠が金頭を叩いて吊り上げてから△3三角と引いて金に当てると、加藤女流四段は5筋の歩を伸ばして飛車に当てます。西山女流三冠は構わず△4七歩成と角に当てますが、加藤女流四段は取れる飛車を取らずに▲2三飛成と飛び込みます。

金の取り合い

西山女流三冠が"と金"で角を取ると、加藤女流四段は竜で香を取ります。西山女流三冠は銀で5筋の歩を払って飛車を助けつつ金に当てますが、加藤女流四段は6筋の金頭を歩で叩いて攻め掛かります。お互いに金を取り合い、西山女流三冠が△9七歩と垂らして詰めろを掛けると、加藤女流四段は▲9八香と打って逃れます。

西山女流三冠の勝負手

西山女流三冠は6筋の"と金"を金で取り、加藤女流四段が竜で取り返すと、先手の玉頭を歩で叩いて吊り上げてから、△7一金と打って竜に当てます。加藤女流四段が竜で金を食いちぎり、香頭に▲9三金と打ち込むと、残り8分となった西山女流三冠は△7三桂と勝負手を放ちます。この桂跳ねは9筋の守りを薄くしますが、8筋の金取りになっており、自玉の退路を拡げています。

包囲網

加藤女流四段が残り17分から9分を投じて▲8六金打と手堅く受けると、西山女流三冠は攻防に△6五角と打ちます。加藤女流四段は金で香を食いちぎり、▲9三歩成と王手で飛び込み、西山女流三冠が△8一玉とかわすと、▲6三金と打って後手玉の退路を塞ぎます。西山女流三冠は△8二銀と上がって玉の退路を作りますが、加藤女流四段は"と金"で後手玉を追ってから▲6二歩と打って逃がしません。

両者秒読みの攻防

西山女流三冠が△7二香と打って詰めろを逃れつつ反撃の種を蒔くと、1分将棋となった加藤女流四段は▲6四香と打って詰めろを続けます。西山女流三冠は飛車で香を取るしかありませんが、加藤女流四段は"と金"で銀を取って後手玉を8筋に引き戻してから、金で飛車を取ります。

毒饅頭

ようやく攻撃にターンが回ってきた西山女流三冠は、タダ捨てで△9九飛と王手で打ち込みます。この飛車は、取ると先手玉に長手数の即詰みが生じる毒饅頭でしたが、加藤女流四段は冷静に歩で合い駒して難を逃れます。加藤女流四段が▲9三桂から後手玉に迫ってから銀で飛車を取ると、西山女流三冠は△8五桂と金を取って王手し、形を作ってから投了を告げました。

まとめ

本局は対抗形で相穴熊の将棋となり、加藤女流四段が力強く金を前進して玉頭を制圧し、端から攻め掛かりました。西山女流三冠は角の利きを止めて先手からの攻撃を緩和しますが、加藤女流四段は取れる飛車を取らずに竜を作って攻め込みました。西山女流三冠は逆転の狙いを秘めた勝負手を放ちますが、加藤女流四段は冷静に対処し逃げ切りました。
感想戦終了後には、里見女流王座と加藤女流四段の記者会見が行われました。加藤女流四段は「挑戦者になれたので、タイトル獲得に向けて全力で臨みたいと思います」と挨拶し、二強がタイトルを分け合う状況に関し「諦めるのはよくないので食らいつきたいです。盛り上げつつも虎視眈々と狙っていきたい」と力強く話したのが印象的でした。里見女流王座は「加藤さんは勢いある将棋で挑戦権を決められた印象があります。五番勝負は自分の力を出し切れるように精一杯頑張りたいです」と話しており、10月に開幕する五番勝負が熱戦になることを期待したいと思います。

リコー杯女流王座戦は、株式会社リコーと日本将棋連盟が主催しています。棋譜等は下記サイトをご覧ください。


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