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「観る将」が観た第13期加古川青流戦決勝三番勝負第一局

11月4日、加古川青流戦決勝三番勝負の第一局が兵庫県加古川市の「鶴林寺」で行われました。加古川青流戦は、四段・奨励会三段上位者・女流棋士2名・アマチュア3名によるトーナメント戦で、決勝のみ三番勝負が行われます。若手にとっては登竜門とも言うべき棋戦で、過去の優勝者には永瀬拓矢九段や佐々木勇気八段が名を連ねています。持ち時間は各1時間と短く、フルセットになった場合は第二局と同日に第三局が行われます。

藤本渚四段は2022年10月にプロ入りした18歳で、先日行われた新人王戦でも決勝三番勝負に進出しています。今期は高田明浩四段、里見香奈女流五冠(当時)、狩山幹生四段、井田明宏四段を破って決勝に駒を進めました。

吉池隆真三段も18歳(学年は藤本四段より1つ上)で、今期の新人王戦でもベスト4に進出しています。今期は川村悠人三段、小山直希四段、森本才跳四段、齊藤裕也四段、横山友紀四段を破って決勝に駒を進めました。


左美濃対雁木

振り駒で先手となった吉池三段が5手目に4筋の歩を突く趣向を見せ、飛先の歩を交換してから▲7七角と上がって後手からの飛先の歩交換を防ぎます。藤本四段は雁木に組み、吉池三段が右四間飛車に構えると、3筋の歩を伸ばします。吉池三段は左美濃を組んでから3筋の歩を突き捨て、飛車を3筋に寄せて歩を取り返します。

藤本四段の仕掛け

藤本四段が7筋の歩を交換して銀を繰り出すと、吉池三段は角頭に▲7六歩と打ち、銀で取らせてから▲6六角とかわします。藤本四段は8筋の歩を突き捨てて△8八歩と桂頭を叩き、吉池三段が▲7七桂とかわすと、打ったばかりの歩を成り捨てます。吉池三段は銀で取り、藤本四段が△4二角と引くと、▲7八銀と戻します。

吉池三段の反撃

藤本四段が3筋の飛頭を叩いてから8筋の飛車を走ると、吉池三段は4筋の歩をぶつけて反撃します。藤本四段が△3四歩と打って飛車を追い、△8八飛成~△9九竜と香を取ると、吉池三段は▲6五銀とぶつけます。藤本四段は△7五歩と打って銀を支え、吉池三段が4筋の歩を取り込んで銀を引かせてから▲5四銀と出てると、じっと△9七竜と引いて歩切れを解消します。

飛車を見捨てての攻勢

両者ほぼ同時に持ち時間を使い切り、吉池三段が▲3四飛と走ると、藤本四段は△3三歩と打って受けます。吉池三段は構わず▲4三歩成と飛び込み、藤本四段が飛車を取ると、▲3二"と"と金を取って角に当てます。藤本四段は△6四角とかわし、吉池三段が▲1一角成と香を取って馬を作ると、△4九飛と打ち込みます。形勢はわずかに吉池三段が指し易くなってきたようです。

藤本四段の2枚竜

藤本四段は△2九飛成と桂を取って2枚目の竜を作り、吉池三段が▲4四馬と好所に引き付けると、△5三香と打って馬の利きを遮りつつ銀に当てます。吉池三段は▲6六香と角取りに打ち返し、藤本四段が△7七銀不成と桂を食いちぎって王手し、△7六歩と伸ばして銀に当てると、▲6四香と角を取ります。藤本四段は△7七歩成と銀を取って王手し、吉池三段が馬で取ると、△3八竜と王手します。先手玉は左右から攻め込まれ、形勢は混沌としてきたようです。

藤本四段の攻防の角

吉池三段が歩で竜の利きを止めると、藤本四段は△7七竜と馬と刺し違えてから、△5四香と銀を取ります。吉池三段は▲8四角と王手し、藤本四段が△7三銀と打って防ぐと、▲6三香成と詰めろを掛けます。後手玉は先手の成駒に包囲され、藤本四段は△4四角と王手しつつ守りにも利かせますが、形勢は再び吉池三段に振れてきたようです。

息を吹き返した後手玉

ここでは取られそうな角を引いてぶつける手が有力だったようですが、吉池三段は歩で角の利きを止め、藤本四段が△6三銀と成香を取ると、王手角取りに▲4一飛と打って▲4四飛成と角を取って竜を作ります。藤本四段は△8四銀と角を取り返し、吉池三段が▲5三金と王手すると、△7一玉とかわします。後手玉は息を吹き返し、形勢は藤本四段に大きく傾いたようです。

王手竜取りに二段ロケットの逆襲

吉池三段は▲6三金と銀を取って後手玉に迫りますが、藤本四段は△8五桂~△8六角と先手玉を追ってから、△5一香と自陣の守りに利かせつつ先手の玉頭への二段ロケットを設置します。吉池三段は▲7二歩~▲7三銀と王手で吊り上げ、▲6五角の王手竜取りで自玉に迫る竜を取りますが、藤本四段は△5七香成と二段ロケットを発射し、△4七歩と追撃します。

盤石の寄せ

吉池三段は▲4三飛と打って間接的に後手玉を睨みますが、藤本四段は△3七銀と打って詰めろを掛けます。吉池三段は角で歩を取って詰めろを逃れ、藤本四段が成香で角を取ると、▲6四金と引いて飛車の利きで王手します。藤本四段は玉を9筋にかわし、吉池三段が▲4七竜と自陣に手を戻すと、△5七桂の王手から先手玉を追い詰め、△6四角と金を補充します。先手玉には受けがなく、後手玉には有効な王手が掛からず、吉池三段は投了を告げました。

まとめ

本局は藤本四段が8筋から攻め掛かって竜を作りましたが、吉池三段は4筋から反撃し、飛車を見捨てての猛攻で優勢の局面が長く続きました。藤本四段は攻防の角を放ち、吉池三段の応手に生じたわずかな隙を突いて、先手の包囲網を破って形勢を入れ替えました。吉池三段は王手竜取りで竜を抜いて粘りましたが、藤本四段は香の二段ロケットで先手玉を追い詰め寄せ切りました。
翌日に行われる次局に向け、藤本四段は「第二局は先手なので、そこで決められたらいいと思っています」、吉池三段は「第一局は先手番で勝ちたかったですが、まだ明日もあるので修正していきたいです。手ごたえはありましたので、この調子でなんとか第三局までがんばりたいと思います」と話しました。両者とも力を出し切っての好局を期待したいと思います。

加古川青流戦は、加古川市・公益財団法人加古川市ウェルネス協会・公益社団法人日本将棋連盟が主催しています。棋譜等は下記サイトをご確認ください。


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