見出し画像

「観る将」が観た第48期棋王戦挑決トーナメント 藤井竜王vs久保九段

9月1日、棋王戦の挑決トーナメント3回戦、藤井聡太竜王と久保利明九段との対局がありました。藤井竜王は2回戦からの出場で、中川八段を降して勝ち上がっています。久保九段も2回戦からの出場で、山崎八段を破っています。

久保九段はは1993年プロ入りの47歳で、棋王3期と王将4期の獲得経験があります。振り飛車御三家の一角を占める人気棋士で「捌きのアーティスト」と呼ばれる華麗な差し回しを特長としています。藤井竜王との対戦成績は3勝3敗と互角で、昨年は順位戦で顔を合わせて藤井竜王が勝っています。


四間飛車対穴熊

振り駒で後手となった久保九段が四間飛車に振ると、藤井竜王は慎重に時間を使いながら穴熊を目指します。久保九段は自玉の囲いを後回しにして急戦の構えを見せ、先手の囲いを牽制します。藤井竜王が端に玉を収めると、久保九段が次の32手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値はほぼ互角、各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井竜王が3時間3分、久保九段が3時間12分となっています。

意表の仕掛け

昼休が明けるとすぐ、久保九段が4筋の歩をぶつけて仕掛けます。まだ囲いが完成していない藤井竜王が49分の長考で同歩と応じると、久保九段は9筋の歩を突き捨て、更に6筋の歩も交換して角銀両取りに△6五桂と跳ねます。藤井竜王が角を交換してから銀を4筋に引いてかわすと、久保九段はノータイムで9筋に歩を垂らします。藤井竜王が更に30分考えて香で垂れ歩を取ると、久保九段も22分考えて銀を上がり自陣への角打ちを防ぎます。AIの評価値は藤井竜王の65%と少し傾いてきました。

激しい攻め合い

藤井竜王が桂取りに▲6六角と打って反撃に転じると、久保九段は45分の熟考で構わず△8四銀と前進し、先手の浮いた香を狙います。藤井竜王は桂を取って馬を作り、飛車と刺し違えてから桂を自陣に打って香に紐を付けます。久保九段は7筋の歩を突き捨ててから銀で香を食いちぎり、金桂両取りに角を打ちます。藤井竜王が残り35分まで考えて金に紐を付けると、久保九段は角で桂を取ります。

久保九段の勝負手

久保九段の残り時間も1時間を切り、藤井竜王は▲8一飛と打ち込みます。久保九段が取られそうな香を走って詰めろを掛けると、藤井竜王は歩の連打で香の利きを遮ります。AIの評価値はほぼ互角に戻って揺れています。久保九段は残り7分となり、50秒の声を聞いて△7七歩と金頭を叩きます。藤井竜王が桂で歩を取って角に当てると、久保九段は更に2分考えて相手の歩頭に△8六桂と勝負手を放ちますが、AIの評価値は藤井竜王の94%と大きく傾きました。

鮮やかな即詰み

藤井竜王は桂で角を取り、久保九段が角で王手すると、玉を引いてかわします。久保九段は桂で金を取り、取った金を先手の玉頭に打ち込みます。先手玉はかなり危険な状態に見えますが、藤井竜王は読み切ったのか相手の角の横の狭いスペースにかわします。秒読みに追われた久保九段が香を成って詰めろを掛けて下駄を預けると、藤井竜王は後手の玉頭を歩で叩き、そのまま長手数の即詰みに討ち取りました。

まとめ

本局は穴熊に潜ろうとした藤井竜王の陣形が完成する前に、久保九段が研究と思われる積極的な仕掛けを見せ、いきなり激しい戦いに突入しました。藤井竜王は強気の受けから反撃に転じましたが、久保九段は怯まずに攻め合い難解な終盤戦となりました。素人目には久保九段があと一歩のところまで迫りましたが、藤井竜王はギリギリの凌ぎから華麗な即詰みに討ち取りました。
藤井竜王は意外なことに、棋王戦では初めてのベスト8に勝ち上がりました。次戦は豊島九段と阿久津八段の勝者との対戦になりますが、勝てば敗者復活戦のあるベスト4に進出します。六冠目のタイトルを目指し、次の対局にも勝ち上がることを期待したいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?