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「観る将」が観た第63期王位戦第三局

7月20-21日、お~いお茶杯第63期王位戦七番勝負第三局が、兵庫県神戸市の中の坊瑞苑で行われました。ここまで1勝1敗のタイスコアとなっており、藤井聡太王位にとっても挑戦者の豊島将之九段にとっても、負けられない一局となりました。前日のインタビューで、藤井王位は「持ち時間も8時間ありますので、一手一手しっかり考えて指したいと思っています」と語ると、豊島九段も「自分らしい将棋を指して、熱戦にできればと考えています」と話しています。


戦型は角換わり相腰掛け銀

藤井王位が先に薄茶色に縞模様の着物に濃い灰色と黒の羽織で入室し、間もなく豊島九段が白の着物に明るい灰色の羽織で入室します。定刻になり先手の豊島九段が飛先の歩を突くと、藤井王位はいつも通りお茶を口にしてから飛先の歩を突きます。豊島九段が角換わりに誘導し、ABEMA解説の井出五段や千葉七段によれば一昔前の相腰掛け銀の駒組みが続きます。

王位の仕掛け

20歳になったばかりの藤井王位には経験に乏しい形なのか、小刻みに時間を使って指し手を進めます。お互いに相手の狙いを消してじっくりした駒組みが続きましたが、藤井王位が21分の考慮で6筋の歩を突いて仕掛けると、豊島九段は30分程手を止め、次の41手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値はまったくの互角、各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王位が6時間15分、豊島九段は6時間35分と拮抗しています。

両者譲らず激しい攻防

豊島九段は昼休が明けるとすぐ同歩と応じ、藤井王位も同桂と応じて銀に当てます。豊島九段が46分の長考で▲6四歩と金頭を叩くと、藤井王位は銀桂交換してから金を引きます。豊島九段は銀取りに▲6六桂と打ちますが、藤井王位は構わず80分の長考で桂取りに△5九角と打ち込みます。豊島九段は角を打って桂を支えますが、藤井王位も更に銀を打って追撃します。あちこちで駒がぶつかる難解な局面となり、AIの評価値は藤井王位の59%と少し傾いています。豊島九段が56分程考えたところで定刻となり、更に数分考えてから次の51手目を封じました。残り時間は藤井王位が3時間36分、豊島九段は4時間44分と1時間以上差が付いています。

金のタダ取り

豊島九段の封じ手は、飛車を寄って後手から狙われている桂を支える手でした。藤井王位は7筋の歩をぶつけますが、豊島九段は構わず取れる銀を取らずに飛金両取りに桂を跳ねます。藤井王位は飛車を浮いてかわし、金をタダで取らせる代わりに7筋の歩を取り込みます。豊島九段が6筋の歩を成り込んで後手の飛車の横利きを止めて角成を目指すと、藤井王位は玉を早逃げして入城します。豊島九段は100分程の長考に沈み、次の59手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値は藤井王位の57%となっており、残り時間は藤井王位が2時間56分、豊島九段は1時間59分と逆転しています。

大長考の末の決断

豊島九段は昼休を挟む183分の大長考の末、▲5三角成と攻め合いを決断します。豊島九段の残り時間は36分となりました。AIの評価値は藤井王位の73%と差が開きましたが、後手陣には先手の成駒が3枚侵入し、一手間違えれば形勢が大きく揺れ動く難解な局面が続いているようです。藤井王位は8筋の突き捨てを入れてから7筋に伸ばした歩で桂を取り、金取りに桂を打ちます。豊島九段は銀で桂を食いちぎり、金取りで歩頭に▲2四桂と打って後手玉に迫ります。

一歩千金

藤井王位は歩で自陣に迫る桂を取り払い、先手の玉のすぐ傍に△8七歩と垂らします。この手は詰めろではありませんが、豊島九段が反撃する際、あまり駒を渡せないという制約を与えているようです。豊島九段は34分考えて残り2分の秒読みの中、金で垂れ歩を払います。藤井王位も相手にあまり駒を渡せない中、金取りに桂を打ち先手玉に迫ります。豊島九段は飛車を2筋に寄せて後手の玉頭を睨みますが、藤井王位は銀を犠牲に先手の飛車を追い払います。先手玉を詰ますには歩が1枚足りない状況でしたが、藤井王位は飛車で"と金"を食いちぎって補充し鮮やかな即詰みに討ち取りました。

まとめ

本局は豊島九段が急戦を匂わせましたが、藤井王位が慎重に相手の狙いを消し、角換わりで7-8年前まで流行していたという駒組みになりました。藤井王位にとっては経験の少ない形だったはずですが積極的に仕掛けると、豊島九段が強く反発して何か所も駒がぶつかり合う激しい将棋になりました。豊島九段が3時間超えの長考で後手陣に踏み込み、お互いに相手に渡す駒によっては自玉が詰まされるという難しい局面になりましたが、藤井王位は飛車を切って補充した歩で即詰みに討ち取るという派手な決め手を魅せました。
この結果、本シリーズは藤井王位が2勝1敗でリードする形となり、先手番の本局を落とした豊島九段は少し苦しくなってきました。次の第四局は8月15日からの予定となっており3週間以上の間が空きますので、両者が対局後のインタビューで口を揃えた通り「しっかり準備して」、好局となるよう期待したいと思います。

本稿は「お~いお茶杯王位戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#oui)
お~いお茶杯第63期王位戦第三局 主催:新聞三社連合、日本将棋連盟

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