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「観る将」が観た第37期竜王戦 6組ランキング戦決勝~10代精鋭の激突~

5月21日に竜王戦の6組ランキング戦決勝が行われました。藤本渚五段と山下数毅三段という期待の若手同士の顔合わせとなり、ABEMAでは急遽LIVE放映を行うという将棋界大注目の一局となりました。


両者のプロフィール

藤本渚五段
2022年10月プロ入りの18歳で、現役最年少棋士です。昨年度は勝率0.850と、歴代1位に迫る記録で大ブレイクしました。新人王戦準優勝・加古川青流戦優勝と、若手の登竜門と言われる棋戦で活躍し、王位戦では菅井八段を破って王位リーグ入りし、佐藤(天)九段や豊島九段らA級棋士を次々に倒してリーグ優勝まであと一歩と迫りました。順位戦はC級2組を9勝1敗の好成績で1期抜けし、五段昇段を果たしています。
今期竜王戦では齊藤裕也四段、冨田誠也四段(当時)、黒田尭之五段、小山怜央四段、古森悠太五段を破って決勝に進出しています。

山下数毅三段
奨励会三段の15歳です。中学3年で参戦した昨年度の三段リーグは、前期13勝5敗(次点)、後期11勝7敗で、惜しくも6人目の中学生棋士を逃しました。
今期竜王戦では小林康太郎アマ、浦野真彦八段、今泉健司五段、長沼洋八段、瀬川晶司六段、井出隼平五段を破って決勝に進出し、既に来期の5組昇級を決めています。本局に勝って優勝すれば次点が付与されるため、プロ入りの権利(次点2回によるフリークラス編入)が得られます。

山下三段の仕掛け

振り駒で後手となった藤本五段が角道を止め、得意の雁木に構えると、山下三段は3筋の歩をぶつけてから銀を2筋に繰り出して仕掛けます。藤本五段は4筋の歩を伸ばして角道を通し、名人戦第三局と同じ局面になりましたが、山下三段が34分の熟考で金を7筋に上がって手を変えると、角を交換してから飛車取りに△6四角と打ちます。

藤本五段の垂れ歩

山下三段が飛車を1筋に寄ってかわすと、藤本五段は3筋の歩を交換してから、3筋に歩を垂らします。山下三段が自陣に▲4八角と打って歩成を防ぐと、藤本五段が次の34手目を考慮中に昼休となりました。各5時間の持ち時間の内、残り時間は藤本五段が4時間7分、山下三段が3時間53分となっています。

藤本五段の角

藤本五段は昼休を挟む41分の長考で5筋の歩を突き、山下三段が6筋の歩を突くと、更に37分の熟考で7筋の歩を交換して角で取ります。ここまでほぼ互角の範囲で揺れていたAIの評価値は、山下三段の62%とわずかに傾いています。山下三段が59分の長考で歩を打って角を追うと、藤本五段は時折がっくりした仕草を見せ、角を5筋に引いて銀に当てます。

間接的に向かい合う角

山下三段は飛車で3筋の垂れ歩を取りつつ銀に紐を付け、藤本五段が角を再び6筋に戻して1筋の香を狙うと、4筋の歩を突き捨てて後手の角の利きを止めてから▲3七角と出ます。藤本五段は3筋の銀頭に歩を打ち、山下三段が銀で4筋の歩を取りつつかわすと、△3三桂と跳ねて銀頭を狙います。

陣形整備

山下三段が6筋の歩を伸ばし、後手の角を追ってから5筋の歩を突いて銀の退路を作ると、藤本五段は6筋の歩を交換して銀で取ります。山下三段は玉を7筋に引いて戦場から遠ざけ、藤本五段が桂を7筋に跳ねると、6筋に歩を打って桂跳ねを防ぎます。藤本五段が5筋に金を上がって陣形を整えると、山下三段は5筋の歩をぶつけて仕掛けます。AIの評価値はほぼ互角に戻っています。

盤面中央での小競り合い

藤本五段が4筋の銀頭を歩で叩くと、山下三段は5筋の歩を取り込んで角に当てます。藤本五段が銀で歩を取ると、山下三段は5筋の銀頭に歩を打ち返します。銀を取り合う激しい変化もあったようですが、藤本五段が銀を6筋に引いてかわすと、山下三段も銀を5筋に引いてかわします。藤本五段は金を4筋に上がり、山下三段が5筋の銀を上がって歩を支えると、玉を4筋に上がって居玉を解消します。盤面中央で静かな睨み合いが続いています。

藤本五段の桂跳ね

山下三段は玉を8筋に上がって矢倉に入城し、藤本五段が飛車を引いて下段飛車に構えると、金を6筋に上がって金矢倉を完成します。藤本五段が玉を3筋に引くと、山下三段は4筋の歩を交換して角で取ります。藤本五段は6筋に歩を合わせ、山下三段が3筋に桂を跳ねると、4筋の金頭に歩を打って傷を消します。上体を大きく前後に揺らして考えていた山下三段は6筋の歩を取り、藤本五段が桂で取って銀に当てると、銀を6筋に上がってかわします。

藤本五段の継ぎ歩攻め

藤本五段は8筋を継ぎ歩攻めし、山下三段がかなり迷った手つきで銀で6筋の桂を取ると、銀を交換してから8筋の歩を取り込みます。山下三段は8筋の飛頭を歩で叩きますが、藤本五段は銀を王手で打ち込んで金と交換してから、飛車で歩を取って王手します。山下三段が玉を7筋にかわし、藤本五段が次の96手目を考慮中に夕休となりました。山下三段がわずかに優勢で揺れていたAIの評価値は、藤本五段の66%と逆転模様です。残り時間は藤本五段が1時間12分、山下三段が1時間30分となっています。

藤本五段の竜と馬

夕休が明けるとすぐ、藤本五段は6筋の金頭を歩で叩いて吊り上げ、7筋の玉頭を歩で叩いて桂で取らせ、△8七金と王手で打ち込みます。山下三段が玉を6筋に上がってかわすと、藤本五段は金で桂を食いちぎり、△8九飛成と竜を作ります。山下三段が7筋に桂を打ち、竜の横利きを止めて飛角両取りを防ぐと、藤本五段は角を8筋に飛び出して王手し、5筋に飛び込んで馬を作ります。AIの評価値は藤本五段の73%と大きく傾いています。

山下三段が馬を捕獲

山下三段は自陣に銀を打って馬の可動域を狭め、藤本五段が6筋の銀頭を歩で叩くと、▲5四銀と前進して反撃の糸口を探ります。残り1時間を切った藤本五段が銀交換に応じると、山下三段は銀をもう1枚自陣に投じて馬を捕獲します。藤本五段は6筋の歩を伸ばして金に当て、山下三段が馬を取ると、金を取って王手してから竜で桂を取ります。

鮮やかな即詰み

山下三段が4筋に歩を垂らして下駄を預けると、藤本五段は竜と桂で王手し、飛車取りに銀を打ち込みます。山下三段は飛車を諦めて後手陣に角を打って守りに利かせますが、藤本五段は更に桂を打って攻め駒を足し、飛車を取って即詰みに討ち取りました。

まとめ

本局は矢倉対雁木の最新形の将棋となり、盤面中央を制圧した山下三段が優勢の局面を築きました。苦しくなった藤本五段は6筋に綾を求めて桂を跳ね、継ぎ歩攻めから先手の玉頭に殺到し、竜と馬を作って一気に寄せ切りました。山下三段が序中盤の非凡な構想力を見せましたが、トッププロをもなぎ倒してきた藤本五段は圧巻の終盤力で貫録を示しました。
6組優勝で決勝トーナメント出場を決めた藤本五段は「6組で一番下からということなので、挑んでいく気持ちで頑張りたいと思います」と意気込みを語りました。惜しくも史上初となる奨励会員のランキング戦優勝を逃した山下三段は、「厳しい戦いばかりで実力不足を痛感しました」と今期の竜王戦を振り返りましたが、近い将来にプロ入りして活躍することを確信させる快進撃だったと思います。

竜王戦は読売新聞社が主催しています。
本稿は竜王戦・棋譜等利用ガイドライン(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ryuuou) に従っています。

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