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「観る将」が観た王位・女流王位記念対局2023

毎年恒例となっている王位と女流王位の記念対局が12月31日にYouTubeで公開され、観戦記が1月1日に東京新聞と中日新聞に掲載されました。王位4連覇中の藤井聡太王位と、女流王位5連覇中の里見香奈女流王位が、4年連続で顔を合わせています。

この記念対局は、王位の持ち時間が10分、女流王位の持ち時間が1時間というハンデが付けられていますが、過去3年の両者の対局ではいずれも藤井王位が勝利を収めています。

記念対局に先立って行われたインタビューで、里見女流王位は「藤井さんとはなかなか対局することはできないので、自分の全力をぶつけられるように集中して頑張りたいと思っております」、藤井王位は「こちらは初めから持ち時間の少ない状況での対局になるので、しっかりと集中して熱戦にできるよう全力を尽くしたいと思います」と話しています。

なお里見女流王位は、昨年結婚したというおめでたいニュースを1月1日に発表しました。今後は「福間香奈」として活動するとのことですが、本稿では収録当時の旧姓で記述させていただきます。


得意の中飛車

先手の里見女流王位が得意の中飛車に振り美濃囲いに構えると、藤井王位は超速から銀対向で応じます。里見女流王位が銀冠に組み替えると、藤井王位は左高美濃に囲い、5筋に引いた角を△8四角と転回します。

藤井王位の仕掛けに里見女流王位が逆襲

里見女流王位は角を6筋に引き、早くも持ち時間を使い切った藤井王位が7筋の歩を交換して銀をぶつけると、少し時間を使って▲6五銀とかわしつつ5筋への攻撃態勢を作ります。藤井王位は銀を引いて再度ぶつけますが、里見女流王位は構わず5筋の歩を交換して銀をぶつけ、金銀交換して飛車で取ります。

里見女流王位の飛車の捌き

藤井王位が囲いを崩して銀を4筋に上がって飛車に当てると、里見女流王位はいったん飛車を引きます。藤井王位は歩を打って飛車の利きを止めますが、里見女流王位は▲7四金と打って角を引かせ、金銀交換してから再び飛車を走ります。少し項垂れた仕草を見せた藤井王位は角で飛車成りを防ぎ、里見女流王位が飛車を7筋に回すと、歩で飛車成りを防ぎます。

里見女流王位の垂れ歩

里見女流王位は飛車を5筋に戻し、藤井王位が6筋の歩を伸ばすと、飛車をいったん引きます。藤井王位は8筋の歩をぶつけ、里見女流王位が5筋に歩を垂らすと、自陣に金を投じて歩成を防ぎます。里見女流王位は8筋の歩を角で取り、藤井王位が金で5筋の垂れ歩を取ると、再び▲5三歩と垂らします。

角取りと飛車取りの応酬

藤井王位は歩で飛車の利きを止め、里見女流王位が7筋に歩を垂らすと、金で5筋の垂れ歩を取ります。里見女流王位は7筋に"と金"を作り、藤井王位が金を引いて陣形を整えると、"と金"で桂を取ってから▲5四歩と垂らします。藤井王位が角取りに銀を打つと、里見女流王位も飛車取りに銀を打ちます。

銀の取り合い

藤井王位が飛車を浮いてかわすと、里見女流王位は▲5三桂と打ち込み、金に当てつつ後手の角の利きを止めます。藤井王位は金を5筋に寄ってかわし、里見女流王位が角で銀を取ると、飛車で銀を取り返します。里見女流王位が飛車を走ると、藤井王位は飛車を8筋に戻して飛成を目指します。

軽快な桂の成り捨て

里見女流王位も持ち時間を使い切り、6筋に銀を打って攻め駒を足すと、藤井王位は飛車を走って竜を作ります。里見女流王位は桂を6筋に成り捨て、空けたスペースに▲5三歩成と飛び込みます。藤井王位が3筋に銀を埋めて粘ると、里見女流王位は慌てず▲5四歩と攻め駒を足します。藤井王位が角頭を歩で叩いて催促すると、里見女流王位は"と金"で角を取ってから、取られそうな角を9筋に引きます。

里見女流王位の手厚い攻め

藤井王位は5筋に歩を打って受けますが、里見女流王位は構わず5筋の歩を成り捨て、▲5三同銀成と踏み込みます。藤井王位は8筋に歩を打って先手の角の利きを止め、里見女流王位が持ち駒の角を打って殺到すると、金と成銀の交換に応じます。藤井王位は持ち駒の銀を投じて馬に当てますが、里見女流王位は馬を引いて竜に当てます。竜と馬を交換しても先手の攻めは途切れず、先手陣は無傷のまま攻撃の糸口もなく、藤井王位はここで潔く投了を告げました。

まとめ

本局は早々に持ち時間を使い切った藤井王位が7筋から仕掛けましたが、里見女流王位は銀をかわして5筋から逆襲に転じました。藤井王位は何か誤算があったのか防戦一方となり、里見女流王位は再三の垂れ歩で後手陣を崩し、自陣は無傷のまま攻め切りました。
里見女流王位は「少しでも競り合える将棋を目指して臨んだ。指しやすくなってからも一手でも緩い手を指すと咎められるプレッシャーがあって一手一手考えた。自分らしい攻め方で勝つことができたのが嬉しく、藤井八冠との充実した対局になった」と振り返っています。
記念対局で女流棋士が勝つのは、2010年に甲斐智美女流王位が広瀬章人王位(いずれも当時)に勝って以来とのことですが、全八冠を制覇して絶対王者となった藤井王位に対して(持ち時間のハンデはあるにせよ)平手で快勝した将棋は、里見女流王位にとって大きな自信になったと思いますし、振り飛車党の将棋ファンに夢を与える一局だったと思います。

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