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「観る将」が観た第82期名人戦七番勝負第三局

5月8-9日、名人戦七番勝負第三局が、東京都大田区の羽田空港第1ターミナルで行われました。ここまで2勝0敗とリードした藤井聡太名人が防衛まであと1勝と迫るのか、豊島将之九段が1つ返して巻き返しの狼煙を上げるのか、注目の一局となりました。

対局前日のインタビューでは、藤井名人は「内容的には課題が多く残ったと思っているので、それを踏まえて第三局は良い内容にできるよう、明日からは精一杯頑張りたいと思っています」、豊島九段は「手応えとしては第一局の方が良かったので、序盤などを見直して熱戦にできるよう、第三局以降を指せたらと思っています」と話しています。


豊島九段は雁木を選択

飛行機が見える対局室に、豊島九段が淡い水色の着物に灰色の袴と濃紺の羽織で入室すると、藤井名人は藤色の着物に亜麻色の袴と空色の羽織で入室します。後手の豊島九段が角道を止め、雁木模様の駒組みを進めると、藤井名人は3筋の歩をぶつけてから銀を2筋に繰り出します。

藤井名人の仕掛け

豊島九段は4筋の歩を伸ばして角道を通し、藤井名人が34分の熟考で3筋の歩を取り込み、飛車を3筋に寄って銀に当てると、角を交換してから歩で銀を支えます。藤井名人は飛車を2筋に戻し、豊島九段が銀を6筋に繰り出すと、金を7筋に上がって陣形を引き締めます。次の34手目を豊島九段が考慮中に昼休となりました。各9時間の持ち時間の内、残り時間は藤井名人が7時間38分、豊島九段が7時間42分となっています。

豊島九段の大長考

豊島九段が昼休を挟む107分の長考で玉を4筋に寄ると、藤井名人は40分熟考して3筋に歩を打ち、銀を引かせてから1筋に銀を上がって棒銀の攻めを見せます。豊島九段は7筋の歩をぶつけて攻め合い、藤井名人が6筋に銀を上がって先受けすると、再び133分の大長考で7筋の歩を取り込みます。

藤井名人が棒銀で攻勢

藤井名人が2筋の歩を交換して銀で取ると、豊島九段は△2二歩と低く受けます。藤井名人が考慮中に定刻となり、更に10数分考えて次の45手目を封じました。ABEMAでは先手の方が指し手がわかりやすいと解説されており、AIの評価値は藤井名人の56%とわずかに傾いています。残り時間も藤井名人が5時間53分、豊島九段が3時間42分と2時間以上の差が付いています。

豊島九段が顔面受け

藤井名人の封じ手は、後手陣の金銀を睨み、棒銀の威力を加える▲1六角でした。豊島九段は金を5筋に上がって備え、藤井名人が2筋に歩を合わせると、玉を自ら3筋に寄せて守りに加えます。藤井名人が41分の熟考で▲2二歩成と踏み込み、銀を金と交換してから竜を作ると、豊島九段は歩で竜を追い返します。

豊島九段の辛抱

豊島九段は持ち駒の銀を自陣に投じて辛抱し、藤井名人が3筋に桂を跳ねると、飛車先の歩を交換してチャンスを待ちます。藤井名人が次の63手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値は藤井名人の63%となっており、ABEMAでは評価値以上に先手が指し易いと解説されています。残り時間は藤井名人が4時間2分、豊島九段が2時間44分と差が縮まっています。

お互いに陣形を整備

昼休が明けるとすぐ、藤井名人は4筋の歩を交換して竜で取り、豊島九段が4筋の銀頭に歩を打って守ると、竜を2筋に戻します。豊島九段は2筋の歩を突いて玉の懐を拡げ、藤井名人が9筋の歩を突いて角の王手を防ぐと、玉を開けたスペースに収めます。

藤井名人が7筋から攻勢

藤井名人が▲3八角と引いて遠く8筋の後手の飛車を狙うと、豊島九段は△5四銀と前進し、攻め合いに舵を切ります。藤井名人は51分の長考で7筋に歩を垂らし、豊島九段が桂で取ると、更に桂頭を歩で叩きます。豊島九段は桂を6筋に跳ねてかわし、藤井名人が7筋に"と金"を作って飛車に当てると、銀で取ります。

飛車を追う藤井名人

藤井名人が銀の支えを失った6筋の桂を銀で取ると、豊島九段は8筋に歩を合わせます。この歩を取ると王手竜取りの筋があるので、藤井名人が銀で7筋の歩を取り払うと、豊島九段は7筋の銀頭を歩で叩きます。藤井名人は飛銀両取りに▲8三金と打ち、残り1時間を切った豊島九段が飛車を引いてかわすと、取れる銀を取らずに▲7二金と飛車を追います。

飛車を見捨てての反撃

豊島九段は飛車を浮いてかわしますが、藤井名人は更に7筋の歩を銀で取って飛車に当てます。豊島九段は飛車を諦めて8筋に"と金"を作り、飛車を取らせる代わりに"と金"で金を剥がしてから玉頭を歩で叩きます。藤井名人が次の93手目を考慮中に夕休となりました。AIの評価値は藤井名人の74%と大きく傾き、残り時間も藤井名人が2時間11分、豊島九段が49分と大差が付いています。

夕休明け直後の決着

先手には2筋を継ぎ歩で攻め、吊り上げた銀を狙って1筋に桂を打つ寄せがあり、ABEMAでは後手がこの攻めを防ぐのは難しいと解説されています。藤井名人は夕休が明けると玉を6筋に寄ってかわし、豊島九段が8筋の銀を取ると、2筋に歩を合わせます。既に覚悟していたのか、この手を見た豊島九段はすぐに投了を告げました。

まとめ

本局は豊島九段が雁木を選択し、自ら角道を通して角交換する趣向を見せました。藤井名人が機敏に仕掛けると、豊島九段は何か誤算があったのか、長考を重ねて受けに回りました。藤井名人は棒銀で竜を作ると、後手の飛車を攻めてリードを拡げ、持ち時間を2時間以上残しての快勝となりました。
3連勝で早くも防衛まであと1勝となった藤井名人は、対局後に抱負を聞かれ「来週またすぐにあるので、しっかり良い状態で臨めるようにしたいと思います」と答えました。豊島九段は「結構早い段階で均衡が崩れてしまったので、もう少し保っていける感じで指せたらと思います」と淡々と話しており、先手番となる次局での巻き返しに期待したいと思います。

名人戦は朝日新聞社・毎日新聞社・日本将棋連盟が主催しています。
本稿は名人戦・順位戦における棋譜利用ガイドライン(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#junni) に従っています。

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