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「観る将」が観た第81期順位戦A級 藤井竜王9回戦

3月2日に順位戦A級最終9回戦の一斉対局があり、藤井聡太竜王(王位・叡王・王将・棋聖)は稲葉陽八段との対局となりました。藤井竜王は6勝2敗で広瀬章人八段と並んでトップに立っており、両者がともに勝てばプレーオフとなります。稲葉八段はここまで4勝4敗で残留を決めており、本局は来期の順位を賭けた戦いとなります。

両者のこれまでの対戦成績は藤井竜王の5勝2敗ですが、昨年度のB級1組順位戦では稲葉八段が勝っています。


戦型は角換わり相腰掛け銀

先手の藤井竜王が角換わりに誘導し、稲葉八段は受けて立ち相腰掛け銀の将棋となります。稲葉八段は飛車を4筋に回して先手からの仕掛けに備えますが、藤井竜王は構わず4筋の歩をぶつけます。稲葉八段が玉を3筋に引いて飛車の利きを通すと、藤井竜王はこのタイミングで2筋の歩もぶつける工夫を見せます。

飛車の引き場所

稲葉八段が早くも53分の長考で△2四同歩と応じると、藤井竜王は4筋の歩を取り込みます。稲葉八段は飛車で4筋の歩を取り返し、藤井竜王が歩で追い返すと、二段目に引きます。次に後手が6筋の金を三段目に上がると好形になるので、藤井竜王は次の53手目を30分以上考えて昼休となりました。AIの評価値は藤井竜王の61%とわずかに傾いています。各6時間の持ち時間の内、残り時間は藤井竜王が4時間58分、稲葉八段が4時間32分となっています。

藤井竜王が角銀交換の踏み込み

藤井竜王は昼休を挟む42分の長考で飛金両取りに▲5一角と打ち込み、稲葉八段が飛車を5筋にかわすと、▲3三角成と銀を食いちぎって開戦します。稲葉八段が金で角を取り返すと、藤井竜王は4筋の歩を伸ばします。稲葉八段が歩で受けると、藤井竜王は30分の熟考で1筋の歩を突き捨て、3筋の歩も突き捨てます。

稲葉八段の攻防の角

藤井竜王が▲4五銀と前進して援軍を送ると、稲葉八段は△2三角と打って守りつつ、遠く先手陣を睨みます。藤井竜王は1筋の香を犠牲に歩を補充すると、▲3四歩と金頭を叩いて引かせます。藤井竜王が▲2四飛と走ると、稲葉八段は2枚目の角を△6九角と打ち攻防に利かせます。

藤井竜王の長考

藤井竜王は81分の長考で▲5四銀と銀交換し、▲4三銀と歩頭に打ち込みます。稲葉八段が銀を取ると、藤井竜王は▲4三同歩成と"と金"を作って飛金に当てます。この"と金"を取ると角を取られて竜を作られるので、稲葉八段は△6七銀と打って詰めろを掛けます。

早くも終盤戦

藤井竜王が自陣に銀を打って詰めろを逃れると、稲葉八段が次の78手目を考慮中に夕休となりました。AIの評価値は藤井竜王の74%と傾いています。各6時間の持ち時間の内、残り時間は藤井竜王が2時間15分、稲葉八段が2時間9分と拮抗しています。

稲葉八段の勝負手

稲葉八段は夕休を挟む29分の熟考で△4三金と"と金"を取り、藤井竜王が▲2三飛成と角を取って竜を作り金に当てると、△8六歩と先手玉頭に歩を伸ばす勝負手を放ちます。藤井竜王は7分の少考で▲4三竜と金を取って詰めろを掛けると、稲葉八段は△3二銀と自陣に手を戻します。

急転直下の決着

藤井竜王は▲4一金とタダ捨ての王手を掛け、銀で取らせてから▲3三歩成と後手玉に迫ります。何か誤算があったのか、稲葉八段は25分考えて△8七歩成と王手し、藤井竜王が玉で取ると更に18分考えて△3三桂と"と金"を取ります。藤井竜王が▲1三角の王手から後手玉を受けなしに追い込むと、稲葉八段は駒台に手をかざして投了を告げました。

まとめ

本局は両者とも研究十分の序盤から、藤井竜王が早めに2筋の歩を突き捨てる工夫を見せ、「考えたことがなかった」と言う稲葉八段の作戦を封じることに成功しました。藤井竜王は後手陣の隙を咎めて駒損を厭わぬ速攻を仕掛け、稲葉八段の渾身の反撃をがっちり受け止めると、電光石火の寄せで瞬く間に後手玉を追い詰めました。どんな大一番でも普段通り最善の道を追求する藤井竜王が、粘りが持ち味の稲葉八段を20時前に投了に追い込み、持ち時間を2時間以上残しての快勝となりました。
藤井竜王は今期の順位戦を7勝2敗で終え、この日菅井八段を破った広瀬八段と並びました。3月8日に両者によるプレーオフが行われ、勝者が渡辺名人への挑戦権を獲得します。藤井竜王には是非とも挑戦権を獲得し、最年少名人獲得に挑んで欲しいと期待しています。

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