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「観る将」が観た第46期棋王戦五番勝負第三局

3月7日、新潟グランドホテルで行われた棋王戦第三局を観た感想です。
1勝1敗で迎えた本局は、勝った方が本シリーズの勝利に王手を掛ける重要な対局となりました。

本局は後手の糸谷八段が得意の一手損角換わりなどではなく、自身が過去にあまり経験のない横歩取りに誘導し、渡辺棋王は本局の立会人の名前が付いた青野流に構えました。糸谷八段としては、相手の研究を外す戦型選択だったのかもしれません。糸谷八段は飛車で横歩を取った後に五段目に引く新手を見せました。しかしこの後の構想に糸谷八段の誤算があったのか、渡辺棋王が33手目に垂らした▲2四歩が激痛で、早くも形勢は渡辺棋王に傾いたようです。

糸谷八段は昼休を挟む63分の長考で角道を止めました。渡辺棋王は得になる手順が多く迷うところでしたが、飛車と角を交換してから角で香を取って馬を作り自陣に引き、駒得しながら自陣を固める盤石の手順を選びます。更に相手に馬を取らせる間に飛車を取り、敵陣に▲2二飛と打ち込み▲1六角と遠見の角を打った辺りでは終局も近い雰囲気が出てきました。

糸谷八段は盤面中央に角を打って粘ります。渡辺棋王が角を切って寄せに入りました。糸谷八段の玉は四段目に引きずり出されて彷徨います。素人目には絶体絶命に見えましたが、糸谷八段の玉は寄りそうで寄らない、凄まじい生命力を発揮しています。糸谷八段は苦しい時間帯が長く続いていましたが、懸命に逆転の糸口を探ります。持ち駒の2枚の飛車の内1枚を犠牲にして銀を2枚取りながら竜を作り、△2五角と打って反撃体制を作りました。

AIの評価値はずっと渡辺棋王の勝勢を示していますが、糸谷八段が離席中に渡辺棋王が苦しそうにため息を漏らす回数が増えてきました。ABEMA解説の阿久津八段は「流れは糸谷さんに来ている」と解説しています。

糸谷八段はここで、桂捨てから△6六銀と打つ勝負手を放ちます。首を傾げながら考える渡辺棋王の持ち時間は、とうとう糸谷八段より少なくなりました。残り4分まで考えた渡辺棋王は▲5三飛車と王手で打ち、相手に合い駒させることにより自玉の安全度を高めます。最後に勝ちを読み切った渡辺棋王は、落ち着いた手つきで相手に王手竜取りを掛けさせ、攻めを切らして寄せ切りました。

本局は糸谷八段の構想に誤算があり、序盤早々に形勢が傾いてしまいました。しかし糸谷八段が五番勝負の開幕前に「玉捌きを見て欲しい」と語っていた通り、ハラハラさせながらも決め手を与えない粘りの中盤戦を魅せてくれました。渡辺棋王は対局後「逆転されちゃったなと思ってやっていた」と語りましたが、最後に腰を落として踏みとどまり貴重な勝利を手にすることになりました。

この結果、渡辺棋王はあと1勝で防衛に成功し9連覇を達成することになりました。2局続けて序盤に形勢を損ねてしまった糸谷八段としては、次局は先手番で主導権を握って戦いたいところです。本局と同様、最終盤までどちらが勝つかわからない熱戦を期待したいと思います。

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