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「観る将」が観た第53期新人王戦三番勝負第一局

10月3日、新人王戦三番勝負第一局が関西将棋会館で行われました。新人王戦は、26歳以下で六段以下の棋士、女流棋士4名、アマチュア1名、奨励会三段リーグ上位者によるトーナメント戦で、決勝のみ三番勝負が行われます。若手にとっては登竜門とも言うべき棋戦で、過去の優勝者には羽生善治九段や森内俊之九段、渡辺明名人、藤井聡太竜王らが名を連ねています。

今期の決勝三番勝負は、黒田尭之五段と服部慎一郎五段(9月30日付で昇段)の顔合わせとなっています。
黒田五段は2019年プロ入りの26歳で、井田四段、宮田三段、西山女流二冠、阿部(光)七段を降して勝ち上がっています。服部五段は2020年プロ入りの23歳で、横山四段、古賀四段、佐々木(大)七段、齋藤(優)三段を破って勝ち上がっています。

戦型は横歩取り

振り駒で後手となった黒田五段が横歩取りに誘導し、服部五段は横歩を取って中住まいに構えます。黒田五段は6筋に玉を上がってから飛車を2筋に回し、服部五段に歩を打たせてから△2二飛と引きます。服部五段も飛車を8筋に回しますが、黒田五段は玉を7筋に寄せて飛成を防ぎます。

金の進撃

お互いに陣形の整備に戻り、黒田五段は左金を四段目に進めて攻撃態勢を整えます。服部五段が玉を6筋に引いて左辺への移動を図ると、黒田五段が次の52手目を考慮中に昼休となりました。各3時間の持ち時間の内、残り時間は黒田五段が1時間43分、服部五段が2時間18分となっています。

端の駆け引き

黒田五段は昼休をはさむ20分の考慮で4筋の歩を突き捨ててから、飛車を4筋に回して歩を取り返します。服部五段は悠然と玉を7筋に移動し、歩を打って後手の飛車を追い返します。黒田五段が1筋の香を1つ上がって端攻めを匂わせると、服部五段は2筋の歩を1つ突いて金を2筋に寄せるスペースを作ります。

銀の進撃

黒田五段が再び4筋の歩を合わせて桂をぶつけると、服部五段は銀を上がって受けます。黒田五段は17分考えて残り時間が1時間を切り、桂を交換してから△9三銀~△8四銀と守りの銀を前線に繰り出します。服部五段は6筋の銀を上がって7筋の歩を支えますが、黒田五段は7筋の歩をぶつけて玉頭戦を仕掛けます。

玉頭戦

服部五段は銀取りに▲7六桂と打ちますが、黒田五段は△7五銀とぶつけて銀交換します。服部五段は▲8四歩と合わせ、歩で取らせて▲8四同桂と王手で跳ねます。黒田五段が6筋に玉を逃がすと、服部五段は桂を9筋に成り捨てて飛車先を通します。

顔面受け

黒田五段は飛頭を歩で叩いて吊り上げると、王手で△6六桂と打ち一気に先手陣を崩します。服部五段は飛車取りに▲3二銀と打ち込み、金取りに▲4三銀不成と引いて挟撃態勢を作ります。黒田五段が再び飛頭を歩で叩いて近づけ、玉を7筋に戻す顔面受けで先手の飛成を防ぐと、服部五段も残り時間が1時間を切り▲8三歩と垂らします。

飛車の封印

黒田五段が玉と桂で飛車を追ってから取られそうな金を引いて銀に当てると、服部五段は構わず▲8二歩成と"と金"を作ります。黒田五段が飛車の利きを遮断して△8四銀と飛車に当てると、服部五段は"と金"で香を取り、飛車を取らせて▲8五同桂と王手で跳ねます。黒田五段が玉を引いてかわすと、先手陣は飛車の打ち込みに弱い陣形になっており、服部五段はここで投了を告げました。

まとめ

本局は黒田五段が横歩取りに誘導し、左金を四段目まで繰り出す積極的な動きを見せました。服部五段がギリギリの受けで凌ぐと、黒田五段は守りの銀を9筋経由で戦場に送り出し、激しい玉頭戦となりました。服部五段が飛車先突破したかに見えましたが、黒田五段は桂の一撃で先手陣を弱体化させ、玉で飛車を追って銀と交換し勝負を決めました。
三番勝負の第一局を制した黒田五段は、次局に向けて「安心はせずに、次に向けていろいろと考えていきたい」と話しました。服部五段も「軌道修正をして中終盤でしっかり読めるようにと思っています」と話しており、若手同士らしい熱戦を期待したいと思います。

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