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「観る将」が観た第43回JT杯準決勝 藤井竜王vs稲葉八段

11月6日に将棋日本シリーズJTプロ公式戦(JT杯)準決勝、藤井聡太竜王(王位・叡王・王将・棋聖)と稲葉陽八段の公開対局が、名古屋市のポートメッセなごや第3展示館で行われました。JT杯はタイトル保持者と前年度賞金ランク上位の12名で行われるトーナメントで、持ち時間10分(切れたら1手30秒未満、他に各5分の考慮時間あり)の早指し棋戦です。

藤井竜王は前回は準優勝しており、今回は2回戦で羽生九段を破って勝ち上がっています。稲葉八段は1回戦で山崎八段、2回戦で豊島JT杯を降しており、初の決勝進出を目指しています。両対局者が紹介され、藤井竜王は濃紫色の着物に薄紫色の羽織で、稲葉八段は白い着物に灰緑色の羽織で登場すると、会場は盛大な拍手に包まれます。

戦型は角換わり

振り駒で先手となった藤井竜王が角換わりに誘導し、稲葉八段は受けて立ち右玉に構えます。稲葉八段がいったん△4二銀と引くと、藤井竜王は飛先の歩を交換します。稲葉八段が雁木風のバランス重視の陣形に構えると、藤井竜王は銀矢倉を組みます。ここで解説の三浦九段が封じ手を宣言しました。

藤井竜王の自陣角

藤井竜王の封じ手は三浦九段の予想を外し、後手陣の左右を睨む▲5六角でした。稲葉八段も予想外だったのか少考して持ち時間を使い切り、5筋の歩を突いて先手の角を4筋に引かせます。稲葉八段が飛車を浮いて7筋の桂頭を守ってから△5三玉と上がると、藤井竜王は1筋の歩を突き捨てて▲1四歩と垂らします。

稲葉八段の手筋の桂

稲葉八段が△5四銀右と中央の厚みを築くと、藤井竜王は1筋の歩を成り捨て、更に香頭を叩いて吊り上げ▲1四角と香を取ります。稲葉八段が△3六角と合わせると、藤井竜王も持ち時間を使い切り角交換に応じます。藤井竜王が取られそうな桂を跳ねて桂交換すると、稲葉八段は金取りに△8六桂と手筋の歩頭桂を放って反撃します。AIの評価値は藤井竜王の63%とわずかに傾いています。

お互いに端攻め

藤井竜王が金を6筋にかわすと、稲葉八段は9筋の歩をぶつけます。藤井竜王が手抜いて飛車を1筋に回すと、稲葉八段は3筋の歩を成り捨ててから9筋の歩を取り込みます。藤井竜王は構わず▲1一飛成と竜を作りますが、稲葉八段は9筋の歩を成り捨て、桂で取らせて△9八歩と叩きます。AIの評価値は藤井竜王の80%と傾いてきました。

藤井竜王の猛攻

藤井竜王が▲7一角と王手で打ち込むと、持ち駒に角と歩しかない稲葉八段は角で合い駒するしかありません。藤井竜王が角を交換してから▲5一竜と王手すると、稲葉八段は金を寄って逃れます。藤井竜王が再度▲7一角と王手すると、稲葉八段は玉を6筋にかわしますが、藤井竜王は竜を寄って王手を続けます。AIの評価値は藤井竜王の97%と大きく傾いています。

稲葉八段の辛抱

稲葉八段がやむなく角で合い駒すると、藤井竜王は考慮時間を使って▲6五桂と後手の歩頭に桂を放ちます。稲葉八段も考慮時間を使い、歩で取ると寄せられてしまうので桂で取り、藤井竜王が歩で取り返すと銀で取り払います。藤井竜王が▲4七桂と追撃すると、稲葉八段は△5四銀引と桂跳ねを防ぎます。藤井竜王が▲6六香と後手の玉頭の歩を狙うと、稲葉八段は△7二桂と打って凌ぎます。AIの評価値は藤井竜王の91%と、稲葉八段の辛抱が続いています。

一瞬の隙

藤井竜王が取られそうな桂を▲8五桂と跳ねて歩を外すと、AIの評価値がほぼ互角に戻ります。ここで後手には飛車を一段目に引く妙手があったようですが、稲葉八段が自然に△8五同飛と取ると、AIの評価値は再び藤井竜王に大きく振れます。銀で飛車を追って自陣の安全を確保した藤井竜王は▲6五歩~▲6四歩と後手の玉頭から攻め掛かります。稲葉八段は△6四同桂と応じますが、藤井竜王は▲6五香と進め、銀で取らせて王手銀取りに▲5五桂と跳ねます。

三度目の角打ち

稲葉八段は玉を5筋にかわしますが、藤井竜王は角を交換して三度目となる▲7一角と打ちます。稲葉八段が角を打って金に紐を付けると、藤井竜王は桂で銀を取ります。稲葉八段は金で成桂を取りますが、後手玉には即詰みが生じているようです。藤井竜王が角で金を食いちぎり▲5二金と王手すると、稲葉八段は投了を告げました。

まとめ

本局は藤井竜王が後手陣の左右を睨む自陣角を放ち、1筋の香を奪って突破しました。稲葉八段も手筋の歩頭桂を放ち9筋から攻め掛かりますが、藤井竜王が切れ味鋭く踏み込んで後手玉に迫りました。稲葉八段は辛抱を重ねて粘り、人間には気づきにくいチャンスが一瞬訪れましたが活かせず、最後は藤井竜王が後手玉を即詰みに討ち取りました。
これで藤井竜王は昨年に続いて決勝への進出を決め、11月20日に斎藤慎太郎八段とお互いに初優勝を目指す対戦が予定されています。藤井竜王としては竜王戦、順位戦、棋王戦の対局の狭間となりますが、万全の体調で好局を魅せてくれるよう期待します。

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