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第4回ABEMAトーナメント決勝

春先から我々を楽しませてくれた第4回ABEMAトーナメントも、いよいよ9月18日に決勝を迎えました。ここまで勝ち上がってきたのは、予選Aリーグ1位で本戦ではチーム広瀬とチーム菅井を破ったチーム藤井「最年少+1」と、予選Cリーグ1位で本戦ではチーム稲葉とチーム永瀬を破ったチーム木村「エンジェル」です。両チームとも、ドラフト終了時点で私が優勝候補と予想していたチームですが、試合を重ねる毎に結束力を強め、最高の雰囲気で戦っているという共通点があります。お互いに全メンバーが力を出し切り、決勝に相応しい熱戦となることが期待されます。

■一局目 伊藤匠四段 ● vs 〇 木村一基九段
チーム木村は一局目からリーダー登場です。振り駒で先手となった伊藤四段は相掛かりに誘導し、先に木村九段が、続いて伊藤四段が飛先の歩を交換します。伊藤四段は後手の中段の飛車を攻めますが、木村九段は△4四角と先手の香を狙います。伊藤四段は桂を奪って▲3四桂と王手銀取りに打ちます。木村九段も銀で角を取り、△5六桂と飛車金両取りに打って先手の玉頭から攻め掛かります。伊藤四段は▲5六角から角を切って後手玉に迫ります。難しい終盤戦となりましたが、最後は木村九段が一瞬の隙を突き、△3五角成と先手の攻撃の拠点となっていた桂を奪い、自玉の安全を確保してから寄せ切りました。

■二局目 藤井聡太三冠 〇 vs ● 池永天志五段
一局目を落としたチーム藤井はリーダーが巻き返しを図ります。先手の池永五段が矢倉に誘導し、藤井三冠も受けて立ちます。池永五段が3筋から仕掛け、藤井三冠は角で牽制します。角交換の後、藤井三冠は△3九角から馬を作りますが、池永五段は2筋から反撃します。藤井三冠も8筋から突破を図りますが、池永五段は▲7八玉と顔面受けで凌ぎます。藤井三冠は細い攻めをつなぎ△8六歩と追撃しますが、池永五段は手抜いて▲4五桂と攻め合いを選択します。池永五段は奪った銀を▲9六銀と打って懸命に粘りましたが、藤井三冠は△3六銀と詰めろ飛車取りに打ち着実に寄せ切りました。

■三局目 高見泰地七段 ● vs 〇 佐々木勇気七段
チーム木村は本戦に入ってから6戦全勝の佐々木七段が登場し、高見七段との同門対決が実現しました。先手の高見七段が矢倉に誘導し、佐々木七段も受けて立ちました。佐々木七段は金矢倉に、高見七段は土居矢倉に組みます。佐々木七段が5筋から仕掛けると、高見七段は少し時間を使って4筋の歩を突き返します。高見七段は桂損ながら後手陣を乱し、金で後手の角を攻めます。佐々木七段は角交換して△4六角と打ち、飛車を5筋に回して角金との2枚替えに成功します。高見七段は時間ギリギリまで考えて攻め合いを選択しますが、佐々木七段は堅実に凌ぎ切って勝利を掴みました。

■四局目 伊藤匠四段 〇 vs ● 木村一基九段
両チームとも順番を崩さず、一局目と同じ顔合わせとなりました。先手の木村九段が相掛かりに誘導し、伊藤四段も受けて立ちました。伊藤四段が先に飛先の歩を交換し、木村九段も飛先の歩を交換してから五段目に引きます。木村九段は3筋の歩も交換し、伊藤四段は角交換して△3三歩と受けます。伊藤四段は△2四歩~△2三金と先手の飛車に圧力を掛けますが、木村九段は▲3二角~▲1四角成と馬を作ります。伊藤四段は△3五角と切り返し、角を切って先手の馬を取ります。難しい中盤戦となり、両者時間を使って考えています。木村九段は▲2三角と打ち馬を作りますが、伊藤四段は△3四桂から角と馬を交換し、鮮やかに寄せ切りました。

■五局目 藤井聡太三冠 〇 vs ● 佐々木勇気七段
チーム木村は順番を変えて、好調の佐々木七段が相手を藤井三冠と読んで自ら出陣します。佐々木七段はぶつけたい作戦がいくつかあると話していましたが、後手番で横歩取りに誘導します。角交換の後、佐々木七段は△2八角~△1九角成と香を取って馬を作り、藤井三冠も▲7二角~▲7一角成と桂を取って馬を作ります。藤井三冠は取れる銀をすぐには取らず、▲7五桂~▲8三桂成と成桂を作って銀を取ります。佐々木七段は△3五香から反撃しますが、藤井三冠は持ち駒の銀を打って手堅く受けます。攻めあぐねた佐々木七段は自陣に手を入れ、先手の馬を追います。藤井三冠は▲5六金と盤面中央を制圧し、▲5五香~▲6五桂と後手の玉頭に迫ります。最後は飛車を捕獲した藤井三冠が▲4二飛~▲3二飛成とタダ捨てし、8九にいた飛車を▲2九飛と回して王手するという華麗な手順で即詰みに討ち取りました。

■六局目 高見泰地七段 ● vs 〇 池永天志五段
チーム木村はこの日初めて先行されましたが、池永五段が笑顔を見せて出陣します。先手の池永五段が矢倉に誘導し、高見七段も受けて立ちました。池永五段は早囲いから金矢倉、高見七段は銀矢倉に構えます。池永五段が右銀を▲6六銀と移動させ7筋から仕掛けると、高見七段は△6五桂と捨て△3九角から馬を作ります。高見七段は9筋の端攻めを絡めて先手の玉頭から攻め掛かりますが、駒得の池永五段は堅実に受け続けます。池永五段は入玉を果たし自玉を安全にしてから後手陣に迫ります。負けられない高見七段も入玉を目指して粘りますが、池永五段は後手玉の退路を断ち寄せ切りました。

■七局目 藤井聡太三冠 〇 vs ● 木村一基九段
両チーム一進一退の3勝3敗となり、リーダー同士の大一番が実現しました。先手の藤井三冠が相掛かりに誘導し、木村九段も受けて立ちました。藤井三冠が先に、続いて木村九段も飛先の歩を交換します。藤井三冠は7筋の歩を突き、▲5六角と打って後手の桂頭を狙います。桂交換の後、藤井三冠は▲8四歩と垂らし"と金"を作って銀を取ります。木村九段も竜を作って△8六桂と反撃します。藤井三冠はギリギリの受けから竜を捕獲し、後手陣に飛車を打ち込み反撃に転じます。木村九段も先手玉に迫りますが、藤井三冠は正確な速度計算で寄せ、最後は即詰みに討ち取りました。

■八局目 高見泰地七段 〇 vs ● 佐々木勇気七段
王手を掛けたチーム藤井は高見七段が「決着を付けに行く」と力強く宣言して出陣します。カド番のチーム木村は佐々木七段を投入し、三局目と同じ顔合わせとなりました。先手の佐々木七段が「一番自信のある」という角換わりに誘導し、高見七段も受けて立ち相腰掛け銀の将棋となりました。佐々木七段は9筋に続いて4筋の位を取り、高見七段は間合いを測りつつ手待ちします。佐々木七段が▲4六角と打って打開すると、高見七段は角を狙って銀を前進させます。高見七段が角の退路を狭めに9筋の歩をぶつけると、佐々木七段は1筋の端攻めで綾を付けます。高見七段は角を追って9筋を突破し、1筋にも"と金"を作って挟撃態勢を作ります。佐々木七段は後手の玉頭から攻め掛かりますが、高見七段は角の王手で金を合い駒に使わせると、最後は角を切ってこの金を奪い即詰みに討ち取りました。

【チーム藤井 5勝 vs チーム木村 3勝】
チーム藤井は、メンバーが3人とも大きく勝ち越す圧巻の内容で優勝を遂げました。これまではむしろ伊藤四段や高見七段の活躍が目立っていましたが、決勝の大舞台で負けが先行する苦しい展開になると、藤井三冠が勝って流れを引き寄せ貫録を示しました。四局目に伊藤四段が相手のリーダーに土を付けたのも大きな勝ち星でしたし、負ければフルセットという八局目に高見七段が決着を付けたのも、このチームが3人の力で勝ち上がってきたことを象徴する殊勲の星となりました。最後に高見七段が成香を引いた手は、メンバー全員の想いを背負って震えているように見えました。
チーム木村は惜しくも準優勝に終わりましたが、リーダーがメンバーの力を最大限に引き出す采配が印象的でした。対局後に勝っても負けても大きな拍手で迎えて良かったところを称える姿は、「理想の上司」と評判になりました。決勝では相手のリーダーの壁を破ることができず波に乗れませんでしたが、笑顔が絶えない作戦会議室の雰囲気も含め、素晴らしいチームだったと思います。

第4回ABEMAトーナメント振り返り

ドラフトが終わった時点で私はチーム藤井を優勝候補の1つに挙げましたが、フィッシャールールに強いという噂はあったものの初出場の伊藤四段と、前回3勝6敗で目立った活躍のなかった高見七段というメンバーを見て、藤井三冠が全勝するような活躍がなければ難しいのかなとも思っていました。しかし藤井三冠9勝2敗、伊藤四段7勝3敗、高見七段9勝4敗という成績は、リーダーだけに頼ることなく全員で勝ち取った優勝であることを示しています。

今大会では、リーダーが自ら勝ち星を重ねて勝ち上がるチームが目立ちました。優勝チームの藤井三冠が9勝2敗、準優勝チームの木村九段が9勝5敗、ベスト4の菅井八段が10勝3敗、永瀬王座が9勝2敗です。他には広瀬八段も6勝1敗と気を吐きました。木村九段と菅井八段は9局、藤井三冠は7局を後手番で指し、他のメンバーに先手番の機会を増やす気遣いを見せたのも印象に残ります。

ドラフトで指名された棋士で期待に応えたのは、伊藤(匠)四段7勝3敗、高見七段9勝4敗、近藤(誠)七段4勝2敗、佐々木(勇)七段9勝5敗、山崎八段6勝4敗、増田(康)六段6勝4敗、森内九段3勝2敗、中村(太)七段4勝3敗、村山七段4勝3敗、戸辺七段4勝3敗です。佐々木(勇)七段は本戦に入って7連勝を記録し、チームの決勝進出に大きく貢献しました。中村(太)七段の3連投3連勝も、チームを大逆転で予選突破に導く活躍でした。一巡目の指名棋士の活躍はある程度想定通りと思いますが、二巡目で勝ち越した高見七段と戸辺七段の活躍も目を引きます。次回も同じ形式で開催されれば、一巡目での指名も期待されます。

藤井三冠は第1-2回の個人戦で優勝し、第3-4回の団体戦も連覇しました。団体戦での優勝は、個人が強いだけでは成し遂げることはできません。前回もそうでしたが、藤井三冠のチームメイトは本トーナメントだけでなく、公式戦でも活躍している印象があります。羽生九段が以前「藤井さんという棋士が現れて、将棋界全体のレベルが底上げされた」と語っていましたが、将棋の内容だけでなくチームメイトとして同じ時間を過ごすだけでも影響を与えているのかもしれません。特に鮮烈なデビューを飾った伊藤(匠)四段にとって、藤井三冠と同じチームでトップ棋士を相手に互角以上に渡り合った経験が大きな財産になったことは間違いありません。伊藤(匠)四段が今回の経験を活かし、近い将来藤井三冠とタイトルを争うような存在になって欲しい、そんな期待を抱かせる大会だったような気もします。


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