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「観る将」が観た第65期王位戦七番勝負第一局

7月6-7日、伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦七番勝負が名古屋市の徳川園で開幕しました。永世棋聖に続き2つ目の永世称号の資格獲得を目指す藤井聡太王位に挑むのは、意外なことに王位戦では初めての挑戦となる渡辺明九段です。

前日に行われた会見では、藤井王位は「どういった展開になるか始まってみないとわからないですけれど、全力を尽くして明日から観ている方に楽しんでいただける将棋を指したいと思っています」、渡辺九段は「長く戦えるように頑張っていきますので、是非ABEMAで視聴応援していただければと思っています」と意気込みを話しています。


左高美濃と左美濃

金屏風が設けられた広い対局室に渡辺九段が灰色に濃灰色の模様が入った着物に亜麻色の袴と焦げ茶色の羽織で入室し、続いて藤井王位が薄黄色の着物に細い縦縞の袴と水色の羽織で入室します。振り駒で先手となった藤井王位は飛先の歩を伸ばし、渡辺九段が角道を開け、相居飛車では少し珍しい左高美濃に組むと、3筋に桂を跳ねてから左美濃の陣形を敷きます。

早くも渡辺九段が長考

藤井王位が4筋の歩を突くと、渡辺九段は早くも60分の長考で飛先の歩を伸ばします。藤井王位は銀を4筋に上がり、渡辺九段が9筋の歩を突くと、銀を5筋に腰掛けます。渡辺九段は5筋の歩を突き、藤井王位が次の23手目を考慮中に昼休となりました。各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王位が6時間5分、渡辺九段が6時間40分となっています。

藤井王位が右四間飛車

藤井王位は昼休を挟む44分の長考で飛車を4筋に回し、渡辺九段が7筋に桂を跳ねると、更に68分長考して9筋の端歩を受けます。渡辺九段は金を5筋に上がって備え、藤井王位も金を5筋に上がって陣形を引き締めると、6筋の歩を突いて桂跳ねの土台を作ります。藤井王位は6筋の歩を突き、渡辺九段が飛車を引くと、1筋の端歩を突き合います。

渡辺九段は右玉へ

藤井王位は玉を7筋に引いて戦場から遠ざけ、渡辺九段が6筋の銀を上がって陣形を整えると、ようやく4筋の歩を交換して銀で取ります。渡辺九段が歩を打って銀を追い返してから、玉を6筋に上がって右玉に構えると、藤井王位は飛車を引いて下段飛車にします。渡辺九段が角を2筋に引くと、藤井王位の考慮中に定刻となり、次の45手目を封じました。AIの評価値はほぼ互角、残り時間は藤井王位が4時間16分、渡辺九段が4時間9分と拮抗しています。

千日手含みの展開

藤井王位の封じ手は、飛車を2筋に戻す手でした。渡辺九段が千日手含みで角を3筋に戻すと、藤井王位は38分の熟考で角を5筋に引きます。渡辺九段が玉を7筋に寄ると、藤井王位は銀を6筋に上がって雁木に組み替えます。渡辺九段が金を6筋に寄ってから飛車を5筋に回すと、藤井王位は狙われそうな銀を4筋に引いて先受けします。

渡辺九段が桂跳ね

渡辺九段は飛車を8筋に戻して手待ちし、藤井王位が5筋の歩を突くと、角を4筋に引きます。藤井王位は角を6筋に上がり、渡辺九段が桂を3筋に跳ねると、次の59手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値はほぼ互角、残り時間は藤井王位が2時間18分、渡辺九段が2時間46分となっています。

千日手が成立

藤井王位が昼休を挟む46分の長考で4筋に歩を打って桂跳ねに備えると、渡辺九段は飛車を2筋に回します。藤井王位は7筋に桂を跳ね、渡辺九段が角を5筋に上がると、金を8筋に寄せます。渡辺九段は玉を6筋に引き、お互いに1筋の香を1つ上がります。局面は膠着状態となり、お互いに玉や角の位置を変えて手待ちします。藤井王位が角の往復運動をすると、渡辺九段も金の往復を繰り返し、千日手が成立しました。

指し直し局は相掛かり

指し直し局は30分後、既に残り1時間を切っていた藤井王位の持ち時間を1時間とし、同じ時間を渡辺九段の持ち時間に加えて2時間20分として再開されました。先後を入れ替えて先手となった渡辺九段は相掛かりに誘導し、藤井王位が飛先の歩を交換して浮き飛車に構えると、角を6筋に上がって飛車に当てます。

渡辺九段の作戦

藤井王位は飛車を7筋に寄せて縦歩取りを狙い、渡辺九段が桂を7筋に跳ねると、角道を開けます。渡辺九段は角を交換して▲8二角と打ち込み、藤井王位が香を上がってかわすと、飛車を浮きます。意表を突かれたのか藤井王位は21分の熟考で飛車を5筋に回し、渡辺九段が銀を6筋に上がって玉頭を補強すると、4筋に角を打って飛車に当てます。

渡辺九段の馬

渡辺九段は飛車を3筋に寄ってかわし、藤井王位が天王山に飛車を浮くと、角を9筋に成って馬を作ります。藤井王位は飛車を2筋に回し、渡辺九段が金を3筋に寄って飛成を防ぐと、銀を3筋に上がって歩を支えます。渡辺九段は馬を8筋に引き、藤井王位が玉を4筋に早逃げすると、飛車を5筋に回します。

渡辺九段が馬切りの強襲

藤井王位は銀を4筋上がって玉頭を補強し、渡辺九段が3筋の歩を突くと、桂を3筋に跳ねます。渡辺九段は3筋に桂を跳ねて飛車に当て、藤井王位が飛車を1つ浮いてかわすと、飛車を8筋に回します。藤井王位は歩で受けますが、渡辺九段は馬で歩を食いちぎり、▲8三同飛成と銀を取って竜を作ります。

藤井王位の自陣角

残り10分となった藤井王位は自陣に角を打って桂に紐を付けつつ飛車に当て、渡辺九段が竜を9筋にかわすと、6筋の歩を突いて自陣角の活用を図ります。残り1時間を切った渡辺九段は3筋でぶつかっている歩を取り、藤井王位が桂頭の空いたスペースに歩を打つと、3筋の歩を伸ばして桂に当てます。

急所の桂

藤井王位が桂を取って△2七飛成と竜を作ると、渡辺九段は金で竜を追ってから桂を取り返します。渡辺九段は更に歩で竜を追い、藤井王位が竜で7筋の歩を取ってかわすと、歩で竜頭を叩いて位置を変えてから角取りに▲5六桂と打ちます。2日間ずっとほぼ互角を維持していたAIの評価値は、渡辺九段の59%とわずかに傾いています。

桂の二段活用

藤井王位は角を天王山にかわし、渡辺九段が銀を打って角を捕獲すると、8筋に歩を合わせてから角銀交換に応じ、竜で8筋の歩を取ります。渡辺九段が5筋に打った桂を6筋に跳ねて角に当てると、藤井王位は角を6筋に上がってかわします。渡辺九段が15分の考慮で残り5分となり、3筋の金頭を歩で叩いて引かせてから金取りに▲8三角と打ち込むと、藤井王位は金を寄ってかわします。

藤井王位の勝負手

渡辺九段が8筋の竜を歩で追うと、藤井王位は△4六竜と銀を食いちぎり、角を飛び出して王手するる勝負手を放ちます。渡辺九段は玉を4筋に寄ってかわし、藤井王位が角を6筋に成って金に当てると、7筋に飛車を打ち込んで攻め合います。藤井王位は王手金取りに桂を打って金桂交換し、1分将棋に突入して△3七銀とタダ捨てして王手を続けますが、AIの評価値は渡辺九段の80%と大きく傾きます。

両者1分将棋の激闘

藤井王位が更に歩と金で王手を続けてから、自陣の6筋に底歩を打って下駄を預けると、渡辺九段も1分将棋となり▲5二銀と王手してから、銀で金を取ります。はっきり劣勢を意識している藤井王位は時折がっくりと脇息に持たれながらも銀で王手し、渡辺九段が角で取ると、金で角を取って王手竜取りに角を打ちます。自信に満ちた表情の渡辺九段は玉を2筋に上がってかわし、藤井王位が3筋の歩を成り捨てて王手してから竜を取ると、▲4二銀成と王手します。

衝撃の結末

後手玉には長手数の即詰みが生じているようですが、渡辺九段が飛車で底歩を取って王手し、▲3二銀と王手すると、AIの評価値は藤井王位の73%と反転します。渡辺九段は王手を続け、藤井王位が金で合い駒すると、竜で金を食いちぎって王手を続けますが届かず、投了を告げました。

まとめ

本局は渡辺九段が隙を作らずに手待ちし、藤井王位は仕掛ける機会を逸し、歩交換が1度あった以外に駒がぶつからないまま千日手が成立しました。
指し直し局は、渡辺九段が角交換から馬を作って主導権を握りましたが、藤井王位は竜切りの勝負手を放って攻め合いに持ち込みました。後手玉には長手数の即詰みが生じましたが、1分将棋に突入していた渡辺九段は読み切れず、詰みを逃れた藤井王位の逆転勝ちとなりました。
対局直後、藤井王位は「結果は幸いしましたが、内容としては反省するところが多かったと思うので、しっかり振り返ってまた集中して第二局に臨みたいと思います」、渡辺九段は「始まったばかりなので、気を取り直して頑張りたいと思います」と話しました。次局以降も白熱した将棋が続くことを期待したいと思います。

本稿は「お~いお茶杯王位戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。 (https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#oui)
伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦第一局 主催:新聞三社連合、日本将棋連盟

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