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「観る将」が観た第80期順位戦B級1組 藤井三冠6回戦

9月30日に順位戦B級1組6回戦、藤井聡太王位・叡王・棋聖と横山泰明七段の対局が行われました。藤井三冠は2回戦で稲葉八段に敗れて4勝1敗となっており、来期A級入りを目指して負けられない戦いが続きます。横山七段もここまで3勝2敗となっており、昇級に向けこれ以上負けられません。

先手の横山七段は相掛かりに誘導し、藤井三冠も受けて立ちました。藤井三冠が先に飛先の歩を交換し四段目に引きます。横山七段も飛先の歩を交換をすると、藤井三冠は角を交換して△3三角と飛車取りに自陣角を打ちます。横山七段が▲2六飛と引き、藤井三冠が32手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値は全くの互角、残り時間は藤井三冠が5時間17分、横山七段が5時間5分とほぼ並んでいます。

昼休明け、藤井三冠は飛車に当てて△4四角と出ます。横山七段が飛車を3筋に寄せると、藤井三冠は桂を跳ねてから△2六歩と打ち、先手の右辺を窮屈な形にします。横山七段が飛車を5筋に寄せ▲3六歩と右桂の活用を図り、藤井三冠が44手目を考慮中に夕休となりました。AIの評価値は藤井三冠の65%と少し傾いてきました。残り時間は藤井三冠が2時間49分、横山七段は2時間19分と30分程藤井三冠が多く残しています。

夕休明け、藤井三冠は△8五桂と跳ねて飛角と連携した攻撃を狙います。横山七段は▲3七角と自陣に打って、角成を見せつつ自陣の右辺の悪形の解消を図ります。藤井三冠は桂で先手の角を追いながら1筋の歩を伸ばしますが、横山七段はじっと▲1八歩と打って凌ぎます。藤井三冠は角を切って得た銀を△2七銀と打ち込み、角金両取りから金を剥がし、更に△4六金と飛車取りに打って流れるように攻め立てます。

横山七段は防戦一方となりましたが、丁寧に受け続け決め手を与えません。藤井三冠は40分程残していた時間を使って一手一手慎重に考えながら、△4七銀成から金と成銀でじわじわと先手玉に迫ります。横山七段は秒読みに追われて一度手にした玉を元に戻し、更に1分考えて玉の早逃げで懸命に粘ります。藤井三冠は先手玉を9筋まで追い詰めてから角を取り、8筋の飛車も攻撃に参加させて寄せ切りました。

本局は藤井三冠が序盤に打った自陣角が、飛先の歩を交換してきた相手の飛車の動きを制限し、先手の左辺に睨みを利かし、最後は銀と刺し違えて総攻撃の号砲を鳴らしました。横山七段が中盤に打った自陣角は、逆に後手からの標的になってしまい、最後は取られて寄せに使われる結果となってしまいました。お互いに自陣に打った角の優劣が勝敗を分けたように思います。AIの評価値では、夕休の時点で既に藤井三冠に傾いていましたが、横山七段が辛抱強く繰り出す受けの勝負手により日付をまたぐ熱戦となりました。対局後、藤井三冠は「なかなか決め手の見つからない時間が長かった」と話しましたが、終盤まで時間を残し緩みなく寄せ切る完勝となりました。

この結果、藤井三冠は5勝1敗となり「昇級を目指せる位置だと思うので、残り6局全力を尽くしてそれを目指したい」と話しました。全勝の佐々木(勇)七段や1敗で並ぶ千田七段との対局を残しており、A級未経験の3人による昇級争いから目が離せません。次の7回戦では郷田九段との対局が組まれていますので、好局を期待したいと思います。

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