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第67回 天童桜まつり「人間将棋」 藤井聡太竜王 対 佐々木大地六段

4月16-17日に開催された天童桜まつりでメインイベントとも言うべき人間将棋が行われ、17日には藤井聡太竜王と佐々木大地六段の対局が中継されました。木村一基九段の名解説もあり、思っていた以上に楽しいイベントでしたので、内容をご紹介したいと思います。

山形県天童市/天童桜まつり (city.tendo.yamagata.jp)

人間将棋とは

天童市の観光ガイドによれば「名前のとおり、甲冑を身にまとった人間が将棋駒になってプロ棋士が対局を行うイベント」だそうです。今年は感染対策のため観戦者を抽選で当選した人に絞っていますが、藤井竜王参戦の効果で11,714人の応募があり倍率は17.7倍だったそうです。藤井竜王は王将就位式後のインタビューで人間将棋について聞かれ「全ての駒を動かすというのが恒例になっているので、どうしようか考えたいと思います」と話しています。

棋士トークショー

人間将棋に先立ち、藤井竜王、佐々木(大)六段、木村九段、竹部女流四段によるトークショーがありました。対局者の2人へのアドバイスとして、木村九段が言葉遣いの違い(武者言葉)を挙げると、すかさず藤井竜王が「大変参考になったでござる」と返して笑いを取っていました。すべての駒を動かすということについては、竹部女流四段が「あまり全軍動かすことを考えずに思いどおりに指していただいて」との話がありました。意気込みを聞かれた藤井竜王は「佐々木六段と呼吸を合わせて少しでも多くの駒を動かせるように頑張りたい」、佐々木六段は「駒武者の方々にもしっかり働いていただけるように阿吽の呼吸で頑張りたい」と話しています。

いよいよ対局開始

桜が満開の舞鶴山の会場に、信長公役の役者に続いて公募で選ばれた駒武者が入陣します。続いて赤の陣羽織を身にまとった藤井竜王と、青の陣羽織を身にまとった佐々木六段が登場し矢倉に昇ります。藤井竜王が「佐々木殿と師匠の深浦殿にはよく痛い目に遭わされておるので、今日はその借りを返す絶好の機会じゃ」と意気込みを語ると、佐々木六段は「藤井殿よ、人間将棋は初めてではないな。挨拶がしっかりしておる」と返します。台本でもあるのかと思うような掛け合いで会場が笑いに包まれます。解説の木村九段と聞き手の竹部女流四段が紹介され、東軍の先手で対局開始です。

藤井竜王の仕掛けと佐々木六段の受け

佐々木六段が武者言葉を操りながら飛先の歩を動かし相掛かりに誘導すると、藤井竜王も応じて相掛かりの将棋となりました。互いに飛先の歩を交換し、藤井竜王は珍しく五段目に引くといきなり9筋から仕掛けます。将棋は真剣ですが、両者とも武者言葉で笑いを取り、和やかな雰囲気で進行しています。9筋を押し込んだ藤井竜王は、8筋の歩を合わせて飛車を取らせる代わりに角を取ります。藤井竜王が△6六角と飛び出すと、佐々木六段は取ったばかりの飛車を▲6七飛と打って応じます。藤井竜王が金取りに△9四角と打つと、佐々木六段は「激痛じゃ」と言いながら歩で金を守ります。藤井竜王は更に6筋の歩を伸ばして攻め掛かります。佐々木六段は▲2七飛寄と2筋に珍しい飛車の二段ロケットを作りますが、藤井竜王は角で金を食いちぎり先手玉に攻め掛かります。

不動駒の解消

激しい局面になりましたが、木村九段が「お互いに不動駒が5枚もある」と指摘すると、お互いが相手にそれらの駒を取って欲しいと要請します。藤井竜王が△9九角成と動けそうになかった先手の香を取ると、佐々木六段も"と金"を作って▲9一"と"と不動駒を1つずつ解消すると、会場からは拍手が起こります。佐々木六段は取った香をすかさず▲6九香と金銀の田楽刺しに打ち、藤井竜王は△3三桂と跳ねて更に不動駒を解消します。佐々木六段は1筋から端攻めし▲1一歩成と後手の不動駒だった香を取り、藤井竜王も△2九竜~△1九竜と先手の不動駒だった桂香を拾い、先手の駒がすべて動くと会場からは再び拍手です。佐々木六段は後手の2三にいる歩を動かそうと▲2四歩と打ちますが、藤井竜王は2三の歩は序盤に飛先の歩交換で既に動いていると指摘し、後手の駒も既に全軍動いていることがわかって会場からは盛大な拍手です。

公式戦さながらの寄せ

藤井竜王が「玉は包むように寄せよ」と言って△6四桂と打つと、佐々木六段は「中段玉寄せにくし」と言って▲6六玉とかわします。示し合わせたかのように将棋の格言を使いながら、息の合ったやり取りをかわします。この後藤井竜王は先手の歩頭に△7五銀と捨て一気に寄せに掛かります。先手玉には詰みが生じており、藤井竜王が「どうやら佐々木殿の玉を討ち取れそうじゃ」と言いつつ9連続王手を掛けたところで、佐々木六段は「どこに逃げてもあと一手で詰んでしまう。東軍のみんなには申し訳ないがここまでか。悔しいが、まいった」と投了を告げました。会場からは両者に暖かい拍手が贈られました。

勝利の勝鬨

信長公に西軍の勝利を報告して人間将棋は終局です。最後に勝利陣営の西軍が、藤井竜王も交えて勝鬨を挙げました。
将棋の街天童のお祭りのイベントという感覚で視聴しましたが、意外と言っては失礼かもしれませんが楽しめました。対局者が協力してすべての駒武者を動かしつつ、現代将棋ならではの機敏な仕掛けがあり、最後は長手数の即詰みに討ち取るなど、一局の将棋としても面白い内容でした。対局者が戦況や指し手の意図を話しながら指すのも初めて見ましたし、対局者が巧みに操る武者言葉も笑いを呼んでいました。将棋ファンの一人として、いつかは一度訪れてみたいお祭りだと思います。

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