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「観る将」が観た第81期名人戦第二局

4月27-28日、第81期名人戦七番勝負第二局が、静岡市の浮月楼で行われました。39歳の誕生日を迎えたばかりの渡辺明名人が巻き返すのか、先勝した藤井聡太竜王が突き放すのか、注目の一局となっています。

前日のインタビューで、渡辺名人は「まずは明日の一局に全力を尽くしたいと思います」、藤井竜王は「しっかり良い状態で明日を迎えて、2日間集中して精一杯戦いたいと思っています」と話しています。


渡辺名人の工夫

金屏風と生け花に彩られた対局室に、藤井竜王が白い着物に細い縦縞の袴と爽やかな水色の羽織で入室すると、渡辺名人は紺色の着物に灰茶色の袴と青灰色の羽織で入室します。先手の藤井竜王が飛先の歩を突くと、渡辺名人は角道を開け雁木調の駒組みを進めます。渡辺名人が16手目に△5四歩と突くと、藤井竜王は早くも34分の熟考で7筋に金を上がって持久戦調の駒組みを選択します。

時間を使って慎重な駒組み

渡辺名人もじっくり時間を使って陣形を整備し、藤井竜王が27手目を50分以上考えたところで昼休となりました。各9時間の持ち時間の内、残り時間は渡辺名人が8時間8分、藤井竜王が7時間7分と1時間程の差が付いています。

矢倉対左高美濃

藤井竜王が昼休を挟む58分の長考で5筋に角を引いて矢倉に組むと、渡辺名人も5筋に角を引いて転回を図ります。藤井竜王が3手角で2筋に角を上がると、渡辺名人は87分の長考で9筋の歩を交換して香を走ります。藤井竜王が歩を打って収めると、渡辺名人は金を上がって左高美濃に組みます。

攻撃の準備

藤井竜王が右桂を跳ねて攻撃態勢を整えると、渡辺名人も左桂を跳ねて備えます。藤井竜王は薄くなった1筋を狙って1筋の歩を突きますが、渡辺名人は角を7筋に上がって間接的に飛車を睨み、先手の桂の動きを牽制します。藤井竜王が56分の長考で1筋の歩を伸ばすと、渡辺名人は飛車を9筋に寄って端に戦力を集めます。藤井竜王が考慮中に定刻となり、次の43手目を封じました。AIの評価値は藤井竜王の53%とほぼ互角、残り時間は渡辺名人が5時間23分、藤井竜王が4時間27分と1時間程の差で変わりません。

端攻め

藤井竜王の封じ手は、1筋の香を上がって端攻めを狙う手でした。読みを外されたのか渡辺名人は66分の長考で角を6筋に上がって9筋を睨み、藤井竜王が飛車を1筋に寄ると、玉を入城させて受けます。藤井竜王が59分の長考で3筋の歩を突き捨て、角で取って1筋を睨むと、渡辺名人は力強く△3四金と上がって角に当てます。次の51手目を藤井竜王が考慮中に昼休となりました。AIの評価値は藤井竜王の57%とわずかに傾いてきました。残り時間は渡辺名人が3時間58分、藤井竜王が2時間57分となっています。

自重

ABEMAでは先手が角を切って踏み込む手が有力と解説していましたが、昼休が明けると藤井竜王は2筋に角を引いて自重します。渡辺名人が桂を跳ねて金の退路を作ると、藤井竜王は9筋の歩を突いて香を取りにいきます。渡辺名人が桂を交換してから9筋の香を走ると、藤井竜王は54分の長考で香で香を取ります。AIの評価値は、渡辺名人の52%とほぼ互角に戻っています。

何か所も駒がぶつかる複雑な中盤戦

渡辺名人が飛車で香を取り返すと、藤井竜王は▲6六香と角取りに打ちます。渡辺名人が78分の長考で角を見捨てて△9八飛成と竜を作ると、藤井竜王は1筋を突き捨ててから香で角を取ります。渡辺名人が6筋に桂を打ち、銀を引かせてから△2四香と打って飛角両取りを狙うと、藤井竜王が次の67手目を考慮中に夕休となりました。AIの評価値は細かく揺れながら、ほぼ互角を保っています。残り時間は渡辺名人が2時間2分、藤井竜王が1時間1分となっています。

電光石火の寄せ

藤井竜王が残り1時間を切り、夕休を挟む33分の熟考で6筋の香を成って銀に当てると、渡辺名人は飛角両取りに△2七香成と攻め合います。藤井竜王は既に読み切っているのか、少考で両取りに構わず金取りに▲2六桂と打つと、渡辺名人は44分の熟考で残り1時間を切り金を2筋に上がってかわします。藤井竜王は打ったばかりの桂を1筋に跳ねて王手し、渡辺名人が玉を3筋に上がってかわすと、2筋の金頭を歩で叩きます。後手玉は見た目以上に狭く、持ち駒に歩しかないので受けが難しくなっており、AIの評価値は藤井竜王の71%と大きく傾いてきました。

最後の反撃

渡辺名人は更に28分考えて竜で桂を取って王手し、藤井竜王が金を引いて受けると、桂を打って王手を続けます。藤井竜王が玉を5筋にかわすと、渡辺名人は△7九竜と金を食いちぎり、飛角両取りを掛けていた成香で角を取ります。藤井竜王が成香で銀を取って後手玉に迫ると、渡辺名人は金を打って王手し、更に王手飛車取りに角を打って飛車を取ります。先手玉には詰みがなく、藤井竜王が歩で王手すると後手陣には受けがなく、渡辺名人は投了を告げました。

まとめ

本局は渡辺名人が左美濃に構えて9筋からの端攻めを狙うという工夫を見せると、藤井竜王も1筋からの端攻めを目指す珍しい展開となりました。渡辺名人が金を上がる力強い受けで先手からの端攻めを阻止し、角を犠牲に竜を作って攻め込んだ辺りでは、AIの評価値は互角ながら後手好調を思わせる局面となりました。苦しいと感じていた藤井竜王は、飛角両取りに構わず金取りに桂を打って後手玉の上部から反撃に転じ、渡辺名人に「もうダメにしてる」と思わせる(渡辺名人のTwitterより)痛烈な一撃を浴びせました。AI的にはまだまだ難解な状況だったようですが、藤井竜王は瞬く間に後手玉を受けなしに追い込み、渡辺名人の連続王手を凌いで勝ち切りました。
連勝の好スタートを切った藤井竜王は、対局直後のインタビューで「本局は苦しい将棋だったので、しっかり振り返って次につなげられたらと思います」と反省を口にしています。どんな状況でも変わらない向上心は、最年少名人獲得に向け隙を感じさせません。
渡辺名人は疲れ切った表情で「中盤でポッキリ折れてしまったので、そのようなことがないようにやっていきたいかなと思います」と絞り出すように話しましたが、歴史に残るシリーズとなるよう次局以降の巻き返しに期待したいと思います。

名人戦は朝日新聞社・毎日新聞社・日本将棋連盟が主催しています。
本稿は4月17日に発行された名人戦・順位戦における棋譜利用ガイドライン(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#junni)に従うため、表現の見直しを行っています。


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