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第36期竜王戦決勝トーナメント準決勝~伊藤六段の竜王戦ドリーム~

7月27日に竜王戦決勝トーナメント準決勝で、稲葉陽八段と伊藤匠六段が顔を合わせました。稲葉八段は1組で、渡辺名人(当時)、丸山九段、木村九段、羽生九段を下して優勝し、決勝トーナメントは準決勝からの出場です。伊藤六段は5組で優勝し、決勝トーナメントでは出口六段、大石七段、広瀬八段、丸山九段を倒して勝ち上がってきました。

稲葉八段は順位戦でもA級に君臨する強豪で、今年度の成績は3勝3敗です。両者は前期も決勝トーナメント3回戦で顔を合わせており、稲葉八段が力の差を見せつける圧勝で勢いに乗る伊藤五段(当時)を一蹴しています。伊藤六段の今年度の成績は14勝2敗と好調で、前期のリベンジなるかという点でも注目の一戦となりました。

振り駒で先手となった伊藤六段が前期の角換わりとは変えて相掛かりに誘導し、稲葉八段は角道を開けずに早繰り銀を見せます。伊藤六段が飛先の歩を交換すると、稲葉八段は5筋の位を取ってから角道を開けます。伊藤六段が再び飛先の歩を合わせて3筋の横歩も取ると、稲葉八段も飛先の歩を交換します。

稲葉八段が7筋の歩を取り込み、飛車を7筋に寄せると、伊藤六段は力強く▲7七金と上がって銀を支えます。稲葉八段は5筋の歩をぶつけ、伊藤六段が7筋の飛頭を歩で叩くと、5筋の歩を成り捨てて先手玉を孤立させてから飛車を8筋にかわします。先手陣は乱され、形勢は早くも稲葉八段に傾き始めたようです。

伊藤六段が焦らず右金を5筋に引き寄せ、陣形の立て直しを図ると、稲葉八段は3筋の桂頭を攻めます。伊藤六段は桂交換して駒損を回避し、3筋に歩を垂らしてから▲4五桂と打ち直して後手陣に嫌味を付けます。稲葉八段は一気に先手陣を攻略するのは難しいと見たか、自陣を引き締め、1筋の歩を伸ばして懐を拡げます。

伊藤六段は3筋の歩を成り捨てて桂取りに▲3四歩と打ち、稲葉八段が桂交換に応じると、取り返した歩が角に刺さります。稲葉八段は角を3筋にかわしてから銀取りに△8四桂と打ちますが、伊藤六段が▲5五角と銀を取った手が桂香両取りで後手陣を睨みます。やむなく稲葉八段は飛角交換してから桂で銀を取り返しますが、一瞬の隙を捉えて反撃した伊藤六段が逆転模様です。

伊藤六段が▲3三桂と後手陣に楔を打つと、稲葉八段は△1二銀と打って詰めろを逃れます。伊藤六段が▲1四桂と追撃し、▲2四歩と詰めろを掛けると、攻防ともに見込みがなくなった稲葉八段は投了を告げました。

本局は相掛かりの力戦となり、稲葉八段が先手陣を乱してリードを奪いました。伊藤六段は我慢強く決め手を与えず、一瞬の隙を突いて形勢を入れ替えると、瞬く間に後手陣を攻略して寄せ切りました。
伊藤六段は5組優勝者としては初めての挑戦者決定戦に進出し、1組3位の永瀬王座との三番勝負に挑みます。永瀬王座が1組最後の砦として貫録を示すのか、強豪を次々に撃破して勢いに乗る伊藤六段が竜王戦ドリームを結実させるのか、31日に始まる三番勝負を楽しみにしたいと思います。

竜王戦は読売新聞社が主催しています。
本稿は竜王戦・棋譜等利用ガイドライン(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ryuuou)に従っています。

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