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「観る将」が観た第80期順位戦B級1組 藤井三冠7回戦

10月19日に順位戦B級1組7回戦、藤井聡太王位・叡王・棋聖と郷田真隆九段の対局が行われました。B級1組の一斉対局は21日に予定されていますが、藤井三冠の竜王戦第二局の移動日と重なるため前倒しになったようです。藤井三冠は2回戦で稲葉八段に敗れて4勝1敗となっており、来期A級入りを目指して負けられない戦いが続きます。郷田九段は今期はここまで3勝3敗となっており、昇級に向けこれ以上負けられません。

郷田九段はタイトル獲得通算6期、順位戦A級在籍通算13期、竜王戦1組在籍通算18期の強豪で、前期は12月まで昇級圏内にいましたが、終盤失速して惜しくも1勝足りずに昇級を逃しています。藤井三冠との対局は銀河戦での1局があり、藤井三冠が勝利しています。格調高い棋風で知られ長考派の郷田九段としては、初めて長時間の対局で藤井三冠と相対することになります。

先手の郷田九段の作戦が注目されましたが、角換わりに誘導しました。藤井三冠も受けて立ち、相腰掛け銀の将棋となりました。藤井三冠は9筋の端歩を手抜き、銀取りに△6五桂と跳ねて仕掛けます。郷田九段は55分の長考で▲6六銀と上がって受け、藤井三冠が飛先の歩を交換したところで昼休となりました。AIの評価値はほぼ互角、残り時間は藤井三冠が5時間35分、郷田九段が4時間47分と50分程差が付いています。

昼休明け、郷田九段は▲9七角と打って飛車を追い、▲6四角と後手の桂を支える歩を取ります。藤井三冠が△6三金と角取りに上がると、郷田九段は▲8二歩と飛頭に打って後手の飛車を4筋に追いやってから▲8六角と引きます。桂交換となった後、ABEMAの解説陣が「先手も後手も攻めの構想が難しい」と話している中、藤井三冠は9筋の歩を突き捨ててから△6四桂と据えて攻撃態勢を整えます。

藤井三冠は7,6,4筋の歩も突き捨て、郷田九段は熟考を重ねて応じます。藤井三冠が少考で△4五銀と先手の桂の利きに飛び出すと、郷田九段は銀桂交換に応じます。郷田九段が夕休直前に▲2四歩と反撃に転じ、藤井三冠が74手目を考慮中に夕休となりました。AIの評価値はほぼ互角、残り時間は藤井三冠が3時間52分、郷田九段が1時間27分と2時間以上の大差になりました。

藤井三冠が夕休を挟み95分の大長考で△2四同銀と応じると、郷田九段は▲4六桂と設置してから継ぎ歩と垂れ歩で後手の玉頭に迫ります。藤井三冠はここで△6七歩と先手の玉頭を叩きます。この歩は玉でも金でも取れますが、取ると△5五桂で両取りが掛かるため、郷田九段は玉をかわして受けます。それでも藤井三冠は△5五桂と打って先手玉に圧力を掛けると、△8五金と角取りに進めます。郷田九段は働きの弱い角を見捨て、取らせる間に香を補充し▲2三香と王手で打ち込みます。AIの評価値は徐々に傾き、藤井三冠の75%となっています。

郷田九段は残り31分から24分使って▲2一香成と桂を取りますが、藤井三冠は△6八歩成と王手を入れてから落ち着いて△2一玉と成香を取って自玉の安全を確保します。郷田九段は飛車取りに▲3七桂と打って下駄を預けますが、藤井三冠は鋭く▲4七桂成から寄せに入ります。後手の駒台に香が乗ったことで、先手玉には詰めろが掛かっているようです。△5九角を見た郷田九段は潔く投了を告げました。

本局は序盤に郷田九段が角を打って後手の飛車を押さえ込んだかに見えましたが、中盤には藤井三冠が逆に先手の角を押さえ込み4筋に回した飛車を活用する形になりました。対局後「やってみたい指し方ではあった」と話していますので、ある程度研究していた手順だったようで、その構想力が光ります。郷田九段は4筋の歩を突かれて飛車を活用された辺りでは既に形勢を悲観していたようで、それ以降は「自信がある局面はなかった」と話しています。終盤の藤井三冠は、持ち駒を含めてすべての駒が先手玉を詰めるのに必要な駒となり、無駄のない美しい寄せを魅せてくれました。

この結果、藤井三冠は6勝1敗となり、A級への昇級にまた一歩前進しました。対局後には「まだ自力の目があるので残りも昇級を目指して頑張りたい」と力強く話しています。郷田九段は3勝4敗と負けが先行しましたが、「まだ先はたくさんあるので一局ずつ頑張っていきたい」と話しており、巻き返しに期待したいと思います。

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