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「観る将」が観た第94期棋聖戦第二局

6月23日、第94期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第二局が、兵庫県洲本市のホテルニューアワジで行われました。先勝した藤井聡太棋聖が勝って防衛まであと1勝とするのか、佐々木大地七段が勝ってタイスコアに戻すのか、注目の一局となっています。

前夜祭では、藤井棋聖は「第一局は色々と反省点も見つかったと思うので、それを踏まえてより良い内容の将棋を指したいと思います」、佐々木七段は「持ち味を生かして精一杯の熱戦にしたいと思います」と挨拶しています。


戦型は相掛かり

落ち着いた雰囲気の対局室に、佐々木七段が白い着物と灰色の袴に棋士仲間から贈られたという濃紺の羽織で入室し、藤井棋聖が青緑色の着物と灰色の袴に白い羽織で入室します。先手の佐々木七段が挑戦権獲得の原動力となった相掛かりに誘導し、飛先の歩を交換して八段目に引くと、藤井棋聖も飛先の歩を交換します。

佐々木七段の誘い

佐々木七段が角頭を受けずに銀で4筋の歩を支えると、藤井棋聖は誘いに乗って△8七歩と角頭を叩きます。佐々木七段は角を9筋にかわして飛車に当て、藤井棋聖が飛車を引くと、角を7筋に飛び出します。藤井棋聖は角道を開け、佐々木七段が銀を腰掛けると、7筋の歩を突いて角を追います。佐々木七段が角を6筋に引いてぶつけると、藤井棋聖は角交換に応じてから銀を3筋に上がります。

間合いを測る熟考

佐々木七段が7筋に桂を跳ねると、藤井棋聖は47分の熟考で玉を4筋に寄ります。佐々木七段がじっと1筋の歩を突くと、藤井棋聖は5筋に金を上がって陣形を引き締めます。佐々木七段が次の39手目を30分以上考えて昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井棋聖が2時間27分、佐々木七段が2時間56分となっています。

両者の銀の進撃

佐々木七段は昼休を挟む39分の熟考で6筋に銀を上がり、藤井棋聖が銀を4筋に前進すると、更に59分の長考で7筋に銀を突進して歩を取ります。藤井棋聖が飛車を浮いて銀に当てると、歩得を得た佐々木七段は悠然と銀を6筋に引き上げます。56分の長考で残り1時間を切った藤井棋聖が5筋に銀を前進すると、佐々木七段はすぐに8筋の飛頭を歩で叩きます。互角が続いていたAIの評価値は、佐々木七段の56%とわずかに傾きます。

佐々木七段の馬

藤井棋聖が飛車を4筋にかわすと、佐々木七段は飛車の利きがなくなった隙に銀香両取りの角を打ち込みます。藤井棋聖は7筋に桂を跳ねて銀取りを防ぎ、佐々木七段が香を取って馬を作ると、△4六銀と先手陣に迫ります。佐々木七段が歩で飛車を近づけてから銀を引いて飛車に当てると、藤井棋聖は飛車を3筋にかわします。両者の読みが合っているのか、バタバタと指し手が進んでいます。

佐々木七段が大きく駒得

佐々木七段は馬を8筋に引いて銀に当てますが、藤井棋聖は構わず△3七銀不成と飛び込みます。佐々木七段は飛車を5筋にかわし、藤井棋聖が銀を4筋に引き成ると、馬で銀を取ります。藤井棋聖は成銀を銀と交換し、飛車取りに銀を打ちますが、佐々木七段は33分の熟考で残り35分となり、▲7三馬と桂を取って自陣の守りにも利かせます。佐々木七段が大きく駒得し、AIの評価値も64%と傾いています。

藤井棋聖の逆襲

藤井棋聖が残り4分まで考えて銀で飛車を取り、取った飛車を金と交換する代わりに竜を作ると、佐々木七段は桂を跳ねて自陣の壁を解消して退路を確保します。藤井棋聖が角で王手し、更に竜を引いて詰めろを掛けると、佐々木七段は銀を温存して歩で竜の横利きを止めますが、AIの評価値は藤井棋聖の58%と逆転模様です。

王手馬取り

藤井棋聖は金で王手し、佐々木七段が玉を6筋に引いてかわすと、△7六角成と馬を作って先手玉の退路を塞ぎ詰めろを掛けます。佐々木七段が桂を成り捨ててから飛車で王手すると、藤井棋聖は歩で合い駒します。髪をかきむしって残り2分まで考えた佐々木七段は、銀で王手を続けてから取った金で後手玉を2筋まで追い、▲5五馬と王手を掛けつつ飛車の利きを通して馬に当てます。

藤井棋聖の大技

藤井棋聖は銀で王手を防ぎますが、佐々木七段は▲7六飛成と馬を取って詰めろを逃れます。藤井棋聖は銀で馬を取り返し、佐々木七段が玉を7筋に早逃げすると、取られそうな銀を6筋に引いて先手玉の上部脱出に備えます。佐々木七段は1分将棋に突入し、竜を敵陣に侵入し2筋に桂を打って後手玉の退路を塞ぎます。藤井棋聖は先手の玉頭を歩で叩き、佐々木七段が玉を8筋に上がってかわすと、△7八竜と金を食いちぎって決めに掛かります。この竜を取ると先手玉は即詰みになるようで、藤井棋聖らしい豪快な技が決まったかに見えます。

華麗な返し技

佐々木七段は秒読みに追われながらも落ち着いた手つきで、後手の銀の利きに▲5五角と打って王手します。藤井棋聖は意表を突かれたのか、残り時間を使い切って1分将棋に突入し、やむなくこの角を銀で取りますが、AIの評価値は佐々木七段の64%と再び逆転模様です。角を犠牲に自玉に迫る銀を遠ざけた佐々木七段は竜を取り返し、逆に後手玉に詰めろを掛けます。藤井棋聖は角で王手してから自玉の退路を作りますが、佐々木七段は後手陣に飛車を打ち込み、そのまま鮮やかに寄せ切りました。

まとめ

本局は佐々木七段が準備していた作戦に、藤井棋聖が堂々と応じて中盤まで互角の戦いとなりました。佐々木七段は後手の飛車を追って作った隙に角を打ち込み、馬を作って香銀桂を奪って優勢の局面を築きましたが、藤井棋聖も銀を突進して飛車と交換し、竜を作って形勢を入れ替えました。藤井棋聖は竜を切って豪快に決めにいきましたが、佐々木七段は藤井棋聖自身が「素晴らしい手」と絶賛した角のタダ捨てで切り返し寄せ切りました。藤井棋聖にはリスクの少ない勝ち方もあったのかもしれませんが、藤井棋聖のお株を奪うような佐々木七段の華麗な返し技を称えたいと思います。
佐々木七段は持ち前の粘り腰を発揮し、両者1勝1敗のタイスコアとなりました。タイトル戦初勝利となった佐々木七段は、「色々な方に応援していただいていたので、まずは一つ勝てて次につなげられたのは良かったと思います」と話しています。
次局に向け、佐々木七段は「後手番なので、しっかり準備して熱戦にできるよう頑張りたいと思います」、藤井棋聖は「本局は中盤ではっきり苦しくしてしまったので、もっと競り合いにできるように頑張りたいと思います」と話しており、白熱の好勝負を期待したいと思います。

本稿は「ヒューリック杯棋聖戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#kisei)
第94期ヒューリック杯棋聖戦第二局 主催:産経新聞社、日本将棋連盟

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