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「観る将」が観た第94期棋聖戦第三局

7月3日、第94期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第三局が、静岡県沼津市の沼津御用邸東附属邸第1学問所で行われました。ここまで1勝1敗のタイスコアとなっており、藤井聡太棋聖が勝って防衛まであと1勝とするのか、佐々木大地七段が勝って奪取に王手を掛けるのか、注目の一局となっています。

前夜祭では、藤井棋聖は「シリーズの行方を左右する重要な一局と感じています。精一杯熱戦にできるよう頑張りたいと思っています」、佐々木七段は「自分自身全身全霊を尽くし、2人で美しい棋譜を紡いでいきたいと思っています」と挨拶しています。


佐々木七段が右玉

白を基調とした対局室に、佐々木七段が薄緑色の着物と鶯茶の袴に紺色の羽織で入室し、藤井棋聖が薄黄色の着物と細い縦縞の袴に淡い水色の羽織で入室します。先手の藤井棋聖が角換わりに誘導し、佐々木七段は堂々と受けて立ち、相腰掛け銀の将棋となります。佐々木七段が右玉の趣向を見せると、藤井棋聖は7筋に引いていた玉を6筋に戻します。

藤井棋聖の端桂

佐々木七段が6筋に銀を引いて陣形を整えると、藤井棋聖は13分の少考で▲9七桂と跳ねます。佐々木七段は意表を突かれたのか、56分の長考で銀を4筋に上がりますが、藤井棋聖は飛車を8筋に回します。佐々木七段は玉を6筋に引いて戦場から遠ざかりますが、藤井棋聖は8筋の歩を交換して銀で取ります。

佐々木七段が玉を中住まいに避難

佐々木七段が玉を5筋に戻すと、藤井棋聖は4筋の歩を突いて銀を引かせてから、8筋に桂を跳ねてぶつけます。佐々木七段が銀を引いて受けると、藤井棋聖が次の57手目を考慮中に昼休となりました。佐々木七段の趣向に藤井棋聖が研究手をぶつけましたが、AIの評価値はほぼ互角の範囲で揺れています。各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井棋聖が3時間0分、佐々木七段が2時間32分となっています。

長考の応酬

藤井棋聖が昼休を挟む46分の長考で▲4六角と据えると、佐々木七段は42分の熟考で3筋の歩をぶつけます。藤井棋聖は読みを外されたのか、更に40分考えて角で取りますが、佐々木七段は7筋の歩を突き捨ててから桂を交換します。佐々木七段が△7六桂と王手すると、藤井棋聖は玉を上がってかわします。中盤の難所に差し掛かり、両者とも惜しみなく時間を使っていますが、AIの評価値は藤井棋聖の58%とわずかに傾いています。

顔面受け

佐々木七段は歩を打って先手の飛車を2筋に追い、△8五飛と銀を取りますが、藤井棋聖は▲7六玉と顔面受けで桂を取って後手の飛車を追い返します。藤井棋聖が歩で飛車の利きを止めると、佐々木七段は7筋の銀を上がって先手玉に圧力を掛けます。藤井棋聖が36分の熟考で玉を8筋に寄せ、後手から角を打たれる傷を消すと、佐々木七段は何度かため息をついて42分考え、飛車を下段に引きます。両者とも残り1時間を切り、懸命に攻撃の糸口を探ります。

佐々木七段の決断

先手玉は四段目で孤立していますが、先手陣はバラバラの金銀と下段飛車が良く利いて隙がありません。藤井棋聖が角を4筋に戻すと、残り時間が切迫してきた佐々木七段は9筋の歩を突き捨て、8筋の歩も成り捨ててから△9五香と走ります。藤井棋聖が同香と応じると、佐々木七段は香を犠牲に得た歩を8筋に合わせます。藤井棋聖は玉を7筋に引き、佐々木七段が8筋の歩を取り込むと、歩で飛頭を叩きます。

藤井棋聖の玉捌き

この歩を取ると両取りの筋があるので、残り10分となった佐々木七段は飛車を7筋にかわします。藤井棋聖が玉を6筋から5筋に早逃げすると、佐々木七段は7筋に歩を垂らして金取りに△7七銀と畳み掛けます。藤井棋聖が香を打って金に紐を付けると、これ以上攻めがつながらない佐々木七段は銀を6筋に引き成ります。藤井棋聖が飛車を走ると、佐々木七段は歩で追い返してから玉を4筋に早逃げします。AIの評価値は藤井棋聖の73%と傾いてきました。

手堅い受け

藤井棋聖が8筋の歩を成り捨て、9筋の香を成って飛車に当てると、佐々木七段は飛車を7筋に戻します。藤井棋聖は8筋に歩を垂らし、佐々木七段が玉を3筋に早逃げすると、8筋に"と金"を作ります。佐々木七段は銀を"と金"と交換し、飛車先を通して△7五飛と走りますが、藤井棋聖は手堅く持ち駒の銀を投じて受けます。先手玉は金銀3枚が守る安全地帯に逃げ込み隙がなく、後手陣は先手の飛車の侵入を防ぐのは難しい状況となり、佐々木七段はここで潔く投了を告げました。

まとめ

本局は藤井棋聖が得意の角換わりに誘導し、佐々木七段は右玉という趣向を見せました。藤井棋聖が端桂から飛車を8筋に回す研究手で応じると、佐々木七段は機敏に玉を5筋に戻して7筋から反発しました。藤井棋聖が顔面受けで後手からの攻撃を受け止めると、時間に追われた佐々木七段は香を犠牲に攻め掛かりましたが届きませんでした。
藤井棋聖は防衛まであと1勝となり、対局後には「ここまでの3局はどれも難しい将棋だったと思うので、しっかり振り返ってまた次局も頑張りたいと思います」と話しています。
佐々木七段は「厳しいカド番ですが、気持ちを奮い立たせて良い将棋にして、フルセットに持っていけるよう頑張りたいと思います」と話しており、先手番となる次局での作戦が注目されます。
第四局は7月18日に予定されていますが、その前に両者は王位戦七番勝負の第一局と第二局を戦う日程になっています。若い2人による夏の十二番勝負は始まったばかりであり、熱い勝負になることを期待したいと思います。

本稿は「ヒューリック杯棋聖戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#kisei)
第94期ヒューリック杯棋聖戦第三局 主催:産経新聞社、日本将棋連盟

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