「観る将」が観た第6期叡王戦段位別予選 藤井二冠戦
12月3日に行われた、叡王戦段位別予選八段戦の藤井二冠のCブロック2-3回戦を観た感想です。
この予選は、持ち時間が各1時間と短いため、10時・14時・19時と開始時間が3通りあり、この日のように勝者が同日にもう1局指すことも多くなっています。前期の本戦ベスト4以上がシードされていますが、藤井二冠は予選からの出場となっています。
2回戦 対 長沼八段
長沼八段は1986年プロ入りの55歳で、居飛車も振り飛車も指しこなすオールラウンダーです。「駒取り坊主」の異名を持つ実利を重視した棋風だそうで、藤井二冠とは初めての顔合わせとなります。
振り駒で先手となった長沼八段は、振り飛車も匂わせながら雁木模様の駒組みを進め、藤井二冠も慎重に相手の指し手を見ながら雁木を組み、居玉のまま9筋の位を取りました。長沼八段が飛車を3筋に移して▲3五歩と仕掛けると、藤井二冠は強く4筋の歩を伸ばして凌ぎます。長沼八段も▲4四銀と打ち込み相手陣をバラバラにしますが、藤井二冠はギリギリのところで突破を許さず、△2八銀から桂香を拾いに行きます。苦しくなった長沼八段は▲7一角から敵玉に迫りますが、藤井二冠は角取りを放置して△9六歩から反撃し、最後は長手数の即詰みに討ち取りました。
本局は、長沼八段が積極的に攻め込んだように見えましたが、藤井二冠が強気の受けを魅せ、9筋の位を活かした反撃に転じてからは鮮やかに寄せ切りました。対局後、長沼八段が記者からの「熱戦でした」の声に対し、全力を尽くした者が見せるサバサバした笑顔が印象的でした。
3回戦 対 杉本八段
杉本八段は1990年プロ入りの52歳で。言わずと知れた藤井二冠の師匠です。振り飛車党で、藤井二冠とは今年竜王戦3組の優勝決定戦で顔を合わせて以来、公式戦では通算3回目の対局となります。10時からの2回戦では畠山(鎮)八段に土俵際での逆転勝利を収め、3回戦に駒を進めてきました。
対局前、杉本八段はタイトル保持者となった藤井二冠に敬意を表し、先に入室して下座に荷物を置きました。藤井二冠は空いていれば下座に座るつもりだったようですが、杉本八段の荷物を見て無言で上座に着きました。将棋界ではタイトル保持者が上座に着くのは常識ですが、このやりとりに師弟の絆の深さを感じます。
振り駒で後手となった杉本八段は、得意の四間飛車に構え美濃囲いに組みました。続いて銀冠に組み換えるかと思わせる△8四歩を見た藤井二冠は、▲9八香と穴熊を目指します。ここで杉本八段が△5四銀から攻撃の姿勢を見せたため、藤井二冠は予定を変更して▲7八銀と左美濃に組みました。
杉本八段が△5一角~△7四歩と角の転回を図ると、藤井二冠も▲6五歩~▲5五角と角の活用を図ります。杉本八段は飛車交換から先に敵陣に飛車を打ち込み、馬を作って攻め立てます。藤井二冠も▲6一飛と敵陣に打ち、いったん引いた角を▲4六角と出て決戦の順を選びます。寄せ切れなければ負けかという難解な局面となりましたが、最後は解説の戸部七段が「美しい」と言う寄せを魅せ、相手の歩頭に▲6四桂と打って角道を遮断したところで杉本八段の投了となりました。
本局は、序盤に杉本八段の研究手順により、藤井二冠は▲7八銀とした辺りは「ちょっと失敗したかな」と思っていたようですが、杉本八段の攻撃に対して冷静な受けを続け、反撃に転じてからは鮮やかな寄せを魅せてくれました。対局後には、師弟らしく熱のこもった感想戦をしていましたが、藤井二冠が時折見せるほっとしたような笑顔が印象的でした。
今後の展望
この結果、藤井二冠は次のCブロック本戦出場者決定戦に進みます。相手は広瀬八段か糸谷八段か、または両者を破った棋士との対局になります。誰が勝ち上がってきても段位別予選屈指の好カードとなりますが、藤井二冠には是非予選・本戦を勝ち抜け、豊島叡王への挑戦権を獲得して欲しいと期待しています。
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