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「観る将」が観た第63期王位戦第四局

8月24-25日、お~いお茶杯第63期王位戦七番勝負第四局が、徳島市の渭水苑で行われました。8月15-16日に佐賀県嬉野市の和多屋別荘で予定されていた対局が延期となり、第三局から1か月以上の間隔をおいての一局となっています。ここまで藤井聡太王位が2勝1敗とリードしていますが、豊島将之九段としては心機一転巻き返しを図りたいところだと思います。前日のインタビューで、藤井王位は「しっかり一手一手考えて戦っていければ」、豊島九段も「普段通り自分らしい将棋を指せれば」と話しています。


戦型は角換わり相腰掛け銀

豊島九段が濃紺の着物に純白の羽織で入室し、間もなく藤井王位が白の着物に薄い藤色の羽織で入室します。定刻となり、先手の藤井王位はいつも通りお茶を口にしてから飛先の歩を突き、角換わり腰掛け銀の駒組みを進めます。角換わり特有の手待ちが数手続き、先手玉が5八、後手玉が4二に動いた瞬間に藤井王位が▲4五銀とぶつける新手を見せました。

王位の趣向に挑戦者が均衡を保つ

豊島九段が40分の熟考で銀を真直ぐ上がってかわすと、藤井王位は銀を引いて再びぶつけます。豊島九段はここで銀交換に応じ、玉を5筋に寄って6三の地点に利きを足します。お互いに自陣の傷を消す手が続き、藤井王位が51手目を考慮中に昼休となりました。藤井王位の趣向に対して豊島九段が時間を使って均衡を保ち、AIの評価値は全くの互角、各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王位が6時間58分、豊島九段が6時間3分となっています。

難解な局面に長考の応酬

藤井王位は昼休を挟む74分の長考で▲4七玉と三段目に上がり、更に5筋の歩を突いて自玉のコビンを開ける大胆な構想を見せます。豊島九段が50分の長考で自陣に角を打ち先手の桂頭を睨むと、藤井王位も60分の長考で金を自玉の脇に引き付けます。豊島九段が30分程考えたところで定刻となり、更に1分程考えてから次の56手目を封じました。AIの評価値はほぼ互角の範囲で揺れています。残り時間は藤井王位が4時間35分、豊島九段が3時間56分となっています。

意表を突く封じ手

豊島九段の封じ手は、先手の歩頭に持ち駒の銀を叩きつけ、飛車先突破を狙う△8六銀でした。立会の木村九段が封じ手を読み上げると、ABEMA聞き手の香川女流四段が「えっ、えっ!」と驚きの声を上げています。この手は私が知る限り、昨日のABEMAの解説やYoutubeの解説動画ではまったく触れられていません。藤井王位は1分程前傾姿勢で盤面を見つめた後、羽織を脱いで考えます。AIの評価値は藤井王位の60%とわずかに傾いています。

飛車先突破

藤井王位は56分考えて同歩と取り、▲5六角と自陣に据えて攻防に利かせます。豊島九段が8筋の歩を成って銀に当てると、藤井王位は銀を引いて逃れ、更に48分考えて7筋の歩をぶつけます。豊島九段は"と金"を7筋に寄せて攻め合いますが、藤井王位は構わず7筋の歩を取り込み桂に当てます。豊島九段が飛車を成り込み銀に当てると、藤井王位は金を寄せて銀に紐を付けます。豊島九段が3筋の歩を突き捨て桂頭を叩くと、藤井王位が次の71手目を考慮中に昼休となりました。AIの評価値は藤井王位の68%と振れてきました。残り時間は藤井王位が2時間18分、豊島九段が2時間52分となっています。

挑戦者の大長考

昼休が明けるとすぐ、藤井王位は3筋の歩を伸ばして銀に当てます。豊島九段が110分の大長考の末に竜で香を取ると、藤井王位は歩で銀を取り、更に7筋の桂も取ります。藤井王位が3筋の金取りに銀を打つと、豊島九段は香を打って詰めろを掛けます。藤井王位が歩で受けると、豊島九段は歩で桂を取ってから王手で△3六角と飛び出します。豊島九段の残り時間は1時間を切り、AIの評価値は藤井王位の88%と大きく傾きました。

最短の寄せ

藤井王位は玉をかわしてから36分考え、残り時間が1時間を切ってから銀で金を取り、▲4一銀とタダで取られる位置に王手で放り込みます。ABEMAでは西田五段が「思い浮かぶけど怖くて指せない手」と解説しています。この銀を取れば後手玉には詰めろが掛かりますが、銀を相手に渡したことで先手玉もかなり危険な状態に見えます。豊島九段が31分考えて同玉と取ると、藤井王位は銀を打って詰めろを掛けます。豊島九段は歩を成って王手を掛けますが、藤井王位がすぐに玉を引いてかわすと、潔く投了を告げました。

まとめ

本局は藤井王位が積極的に銀をぶつけて仕掛け、玉を三段目に上げて2枚の金で守るというあまり見かけない陣形を敷きました。豊島九段は意表を突く封じ手で銀を犠牲に"と金"と竜を作りましたが、藤井王位は自陣に角を打ってギリギリの受けで凌ぎます。藤井王位が一瞬の隙を突いて反撃すると、豊島九段は2時間近い大長考に沈みましたが、既に挽回不可能な差が付いてしまったことを納得するための時間だったのかもしれません。最後は藤井王位らしく、難解ながら自玉の不詰めを読み切り最短の寄せで決着を付けました。
これで藤井王位は3勝1敗となり、王位3連覇まであと1勝となりました。竜王戦の挑戦者も決まり、次局で防衛を決めたいところだと思います。
豊島九段は対局後「多くの方にご心配をお掛けしましたが、今日の対局は体調的には問題なく指せたので、次局以降も頑張っていきたい」と話しています。王位戦第五局の前には王座戦第一局も予定されており、万全の体調で熱戦を魅せて欲しいと思います。

本稿は「お~いお茶杯王位戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#oui)
お~いお茶杯第63期王位戦第四局 主催:新聞三社連合、日本将棋連盟

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