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「観る将」が観た第47期棋王戦挑決トーナメント 藤井三冠vs斎藤(慎)八段

9月17日、棋王戦の挑決トーナメント3回戦で、藤井聡太王位・叡王・棋聖にとっては三冠としての初陣となる、斎藤慎太郎八段との対局がありました。藤井三冠は2回戦で斎藤(明)四段を破り、斎藤(慎)八段は深浦九段を破って本局に臨んでいます。斎藤(慎)八段は自身初の名人挑戦を果たし、今期順位戦A級でもただ一人3連勝と好調を維持しています。両者のこれまでの対戦成績は藤井三冠の4勝2敗で、6月の叡王戦挑戦者決定戦以来の顔合わせとなりました。

両者の対局は角換わりの将棋が5局続いていましたが、振り駒で先手となった斎藤(慎)八段は本局でも角換わりに誘導します。藤井三冠も受けて立ち、相腰掛け銀の将棋になりました。先手の▲6六歩を見た藤井三冠は6筋の歩を突き捨ててから△7三桂~△6五桂と仕掛けます。斎藤(慎)八段も▲4五桂と跳ね、飛先の歩を交換して飛車を下段に引きます。藤井三冠は飛先の歩を交換して三段目に飛車を引きます。斎藤(慎)八段が▲2二歩と手裏剣を飛ばして後手陣を乱してから3筋の歩を突いたところで昼休となりました。AIの評価値はほぼ互角、残り時間は藤井三冠が3時間0分、斎藤(慎)八段が3時間33分と30分程の差がついています。

昼休明け、藤井三冠も△8八歩と手裏剣を飛ばしましたが、斎藤(慎)八段は取らずに桂を跳ねてかわします。藤井三冠は歩を成り捨ててから桂交換し、斎藤(慎)八段は3筋の歩を伸ばします。昼休以降、長考が続く藤井三冠は、36分考えて△4五銀と桂を取ります。早くも残り時間は1時間を切りましたが、斎藤(慎)八段は2時間48分残しています。AIの評価値は斎藤(慎)八段の65%と傾いてきました。

藤井三冠は時折深くうなだれ、形勢を悲観しているように見えます。藤井三冠は△6六桂と金の両取りに打ち、斎藤(慎)八段は手抜いて▲5五角と金取りに打ちます。藤井三冠は△7八桂成と金を取り、自陣の金取りを受けずに△7五歩と銀取りに打ち攻め合いを目指します。AIの評価値は斎藤(慎)八段の73%とかなり傾いてきましたが、攻め合いになると先手玉も詰まされる手順もあるようでかなり危険な状態です。

斎藤(慎)八段は37分考えて決戦を避け、いったん▲6七銀と引いてから▲2五桂と3筋突破を狙います。藤井三冠は3筋を受けずに、先手の攻撃の要となっている角取りに△6五金と打ちます。激しく扇子を振り連続長考となった斎藤(慎)八段も持ち時間が1時間を切り、手に汗握る熱戦になりました。

斎藤(慎)八段が後手玉の退路を狭めようと金取りに▲6二歩と打つと、藤井三冠は残り41分から22分使って△7一金と避けます。斎藤(慎)八段も残り51分から40分使って▲7二歩と追撃します。ついに残り時間は逆転しました。AIの評価値は斎藤(慎)八段の65%前後で揺れていますが、もうどちらが勝つのかわからない激闘です。

斎藤(慎)八段は3三の地点で清算し、馬を作って後手玉に迫ります。藤井三冠はあまり時間を使わずに△5五桂と反撃します。斎藤(慎)八段がギリギリの受けを見せ、藤井三冠は残り12分を使い切り△8八歩~△6六角と先手玉に迫ります。この手でAIの評価値は斎藤(慎)八段の86%と大きく傾きますが、飛車取りや王手馬取りの狙いを秘めた勝負手です。

斎藤(慎)八段は玉を早逃げしてから、桂で角を捕獲し▲4一角と王手します。藤井三冠は△7三玉と逃げますが、時々斜め上に視線をやり指し手に力がなくなってきました。斎藤(慎)八段は▲6六馬と後手の攻撃の拠点となっていた金と刺し違え、自玉を安全にしてから寄せに入ります。斎藤(慎)八段が▲7四歩と飛車取りに打つと、藤井三冠は一度がっくりとうなだれた後、姿勢を正して投了を告げました。

本局は序盤に藤井三冠が積極的な動きを見せましたが、斎藤(慎)八段は落ち着いて対処し下段飛車の好形を築きました。藤井三冠は何か誤算があったのか、昼休辺りから連続長考に沈みます。中盤から終盤に掛けて藤井三冠が起死回生の勝負手を放ちましたが、斎藤(慎)八段は正確な受けで逆転を許しませんでした。結果的には斎藤(慎)八段が中盤に得たわずかなリードを徐々に拡大し、藤井三冠のお株を奪う快勝となりました。

この結果、斎藤(慎)八段はベスト4進出を懸けて郷田九段と対局することになりました。藤井三冠は残念ながら今期の棋王挑戦は成らず、今年度中に六冠獲得の夢は叶いませんでした。藤井ファンには悔しい敗戦となりましたが、感想戦ではむしろ楽し気に振り返っていた藤井三冠にとっては強くなる過程でしかないように思えます。藤井三冠は10月から12月に掛けて、竜王戦七番勝負・王将リーグ・順位戦と重要対局が目白押しになります。少しでも日程が楽になり、これらの棋戦に注力できることを期待したいと思います。

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