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「観る将」が観た第79期順位戦B級2組 藤井二冠10回戦

2月9日に行われた順位戦B級2組10回戦、藤井二冠と窪田七段の対局の感想です。藤井二冠はここまで8勝0敗と単独トップに立っており、あと1勝で昇級が確定します。窪田七段は1994年プロ入りの48歳で、独特の感覚と言われる振り飛車党です。今期順位戦はここまで4勝4敗で、残留確定に向けあと1勝積み上げたいところです。

両者は本局が初の対局となりました。窪田七段は、NumberWebの取材で「恥ずかしくない将棋を指さないといけない義務意識があります」と語っており、好局が期待されます。

本局は先手の窪田七段が四間飛車を採用し、美濃囲いに構えます。窪田七段が▲5六銀と角頭への突進を狙うと、藤井二冠は△2四歩~△2三銀と守ります。窪田七段は飛車を7筋に振り直しましたが、藤井二冠が先に△7五歩と仕掛け、自陣の飛車も7筋に寄せます。更に焦点の歩となる△7七歩から飛車と角の交換に成功し、敵陣に飛車を打って竜を作った辺りでは形勢も藤井二冠に傾いたようです。

窪田七段は▲8四角と攻防に利かせ、相手の「と金」攻めに対して▲4八金~▲4七金と粘りに出ます。Abema解説の行方九段は「この局面でどこに手がいくかは、相当力が問われるところ」と話していましたが、藤井二冠らしい△8二香という手が炸裂しました。この手はAIも第一推奨手にしていませんでしたが、好位置にいる角取りになっており、「と金」にタダで取らせることにより相手の攻めを遅らせる、行方九段が絶賛する好手となりました。更に△5七桂成と金銀両取りに行きましたが、通常なら△5七と と相手に歩を渡すところ、この後の端攻めを見据えて敢えて歩を渡さずに桂を渡した手が、深い読みの入った一着でした。

受けと攻めの好手を連発する藤井二冠に対し、窪田七段は防戦一方となりましたが持ち駒を自陣に投入して徹底抗戦します。最後は窪田七段の持ち駒が守りに適さない桂3枚だけとなり、10分以上目を閉じて瞑想した後、そのまま投了となりました。

本局は、窪田七段の動きに反応してあまり見かけない陣形を敷いた藤井二冠が、そのまま機敏に仕掛けてリードを奪いました。中盤以降も藤井二冠らしい好手を織り交ぜ、危なげなく寄せ切りました。
窪田七段は対局後、藤井二冠の仕掛けを呼び込んでしまった手を敗着と話しています。この1局をかなり前から楽しみにしていただけに、残念という想いが強かったのかもしれません。

この結果、藤井二冠は9勝0敗となり、最終局を待たずに昇級が確定しました。順位戦は20連勝となります。
B級1組について聞かれた藤井二冠は、「トップクラスの実力のある方ばかりという印象ですので、自分も更に力をつけて戦っていきたい」「そういう強い方と(ストップウォッチ制で60秒未満切り捨てとなる)長い持ち時間で対戦できるのは楽しみ」と答えていましたが、実力者との対局を通して数多くの名局を魅せてくれることを期待したいと思います。

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