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「観る将」が観た第48期棋王戦五番勝負第四局

3月19日、栃木県日光市の日光きぬ川スパホテル三日月で棋王戦五番勝負第四局が行われました。前局で最終盤までもつれる激戦を制して1つ返した渡辺明棋王(名人)がタイスコアに戻すのか、名人戦でも挑戦権を獲得した藤井聡太竜王(王位・叡王・王将・棋聖)が奪取して六冠に輝くのかという一局となりました。

前日に行われた開始式では、渡辺棋王は「棋王戦も佳境に入ってきましたので、より一層、集中してこれまでの将棋よりも反響の大きい将棋を指せるように頑張っていきます」、藤井竜王は「第三局まで指して手応えとともに課題もいろいろ見つかったので、それを生かして第四局はいままで以上の熱戦にできるように頑張ります」と挨拶しています。


戦型は角換わり相腰掛け銀

落ち着いた雰囲気の対局室に藤井竜王が濃紺の着物と青灰色の袴に茄子紺の羽織で入室すると、渡辺棋王は細い縦縞の白い着物と灰色の袴に淡い水色の羽織で入室します。先手の渡辺棋王が角換わりに誘導し、相腰掛け銀の駒組みを進めます。渡辺棋王が玉を8筋に入城してから4筋に桂を跳ねて仕掛けると、藤井竜王は銀を2筋に引いてかわします。

両者の自陣角

渡辺棋王が7筋の歩をぶつけて桂頭を狙うと、藤井竜王は銀を6筋に引いて受けます。渡辺棋王は歩を取り込み、藤井竜王が銀で取ると、5筋に左右を睨む自陣角を打ち銀に当てます。藤井竜王が6筋の歩を突き捨てて角の利きを止め、4筋に自陣角を打って間接的に先手玉を睨むと、渡辺棋王は玉を7筋に引いて角の利きを外します。既に前例のない形になっていますが、両者とも淡々と指し手を進めています。

異筋の桂打ち

藤井竜王が初めて手を止め、21分の考慮で6筋に桂を跳ねて銀に当てると、渡辺棋王も20分考えて桂頭に歩を打って催促します。藤井竜王が銀桂交換し、7筋の銀を前進して角の利きをかわすと、渡辺棋王は歩を打って銀を追い返し、8筋に桂を打って香に当てます。次の64手目を藤井竜王が30分以上考えたところで昼休となりました。形勢はほぼ互角、各4時間の持ち時間の内、残り時間は渡辺棋王が3時間4分、藤井竜王が2時間32分となっています。

駒損を厭わぬ攻撃

藤井竜王が昼休を挟む54分の長考で6筋に歩を打って角の利きを止めると、渡辺棋王も54分の長考で桂香交換し、6筋の歩を角で取る勝負手を放ちます。意表を突かれたと思われる藤井竜王は33分考えて銀で取りますが、渡辺棋王は桂で銀を取り返し、2枚の桂で後手玉のコビンを狙います。駒割りは先手の角と後手の香の交換となり、AIの評価値は藤井竜王の58%と少し傾いてきました。

中央のせめぎ合い

藤井竜王が桂を打って自玉のコビンを補強すると、渡辺棋王は更に27分考えて銀を打って攻め駒を足します。藤井竜王が玉を3筋に引いて戦場から離れると、渡辺棋王は61分の長考で残り42分となり、5筋に香を打って中央突破に勝負を賭けます。

攻め合いを回避

藤井竜王も残り1時間を切り、5筋の歩を突いて争点をずらして香で取らせます。AIはここで金頭に銀を捨てて飛金両取りを狙って攻め合う手を推奨していましたが、藤井竜王は顔を紅潮させて18分考えた上で自重し、二段目に歩を打ち直して受けに回ります。藤井竜王に傾きかけていたAIの評価値は、ほぼ互角に戻っています。

王手飛車の影

渡辺棋王が19分考えて7筋に桂を成り込み金と交換すると、藤井竜王は5筋に控えて打った歩を突いて催促します。渡辺棋王が5筋で桂香を清算し、成銀を6筋に寄せて角に当てると、角を取られると王手飛車の筋があるので、藤井竜王は角を4筋に上がってかわします。渡辺棋王が更に角取りに金を打つと、藤井竜王は角を3筋に引いてかわします。渡辺棋王が角取りに桂を打って追撃すると、藤井竜王は角を諦め、金取りに桂を打って王手飛車を先受けします。

藤井竜王の反撃

渡辺棋王が角桂交換し、2筋の歩を突き捨ててから歩を垂らすと、藤井竜王は8筋の歩を突き捨ててから7筋に桂を打って反撃します。渡辺棋王は7分を投じて残り2分となり、飛車取りに角を打って天を仰ぎます。藤井竜王が飛車を8筋に寄せると、渡辺棋王は成銀を5筋に進めて後手玉に迫ります。藤井竜王が5筋に香を打って成銀と金を田楽刺しにすると、渡辺棋王は成銀で香を食いちぎります。AIの評価値は藤井竜王の60%と再び傾いてきました。

渡辺棋王が1分将棋に突入

渡辺棋王が1分将棋に突入し、取られそうな金を前進すると、藤井竜王も12分考えて残り8分となり、金取りかつ先手陣を睨む攻防の角を打ちます。渡辺棋王が角を7筋に成って飛車に当てると、藤井竜王は飛車で金を取って馬に当てます。渡辺棋王が馬で後手の攻撃の拠点となっていた桂を取ると、藤井竜王は銀取りに桂を打って先手陣を乱します。AIの評価値は、ほぼ互角に戻って揺れています。

藤井竜王の桂の跳躍

藤井竜王が残り5分まで考えて、金で2筋の垂れ歩を取ると、渡辺棋王は玉を8筋に早逃げします。藤井竜王が守りに打った桂を5筋に跳ねて攻撃参加させると、渡辺棋王は飛銀両取りに桂を打って攻め合います。AIの評価値は藤井竜王の74%と大きく振れ、桂を6筋に跳ねる手を推奨していますが、藤井竜王は飛車を下段に引いてかわし、評価値もほぼ互角に戻ります。

ギリギリの攻防

危機を脱した渡辺棋王が馬を寄って王手すると、藤井竜王は玉を2筋に上がってかわします。渡辺棋王が銀で桂を1枚外すと、藤井竜王はここでもう1枚の桂を6筋に跳ねて金に当てます。渡辺棋王は桂で3筋の銀を取って王手し、銀で6筋の桂を食いちぎりますが、藤井竜王は角で銀を取って王手します。渡辺棋王が桂で合い駒すると、AIの評価値は77%と再び藤井竜王に大きく振れます。

歩頭桂からの寄せ

藤井竜王が7筋の歩頭に桂を打つと、渡辺棋王は少し首を傾げてから王手で銀を打ち込みます。藤井竜王が玉を1筋にかわすと、渡辺棋王は7筋の桂を歩で取ります。藤井竜王が空いたスペースに銀を打つと、渡辺棋王は角取りに歩を打ちますが、構わず6筋にタダ捨ての金を放り込みます。この金を取っても角を取っても詰みがあるので、渡辺棋王は飲み物を口にして襟を直してから「負けました」と頭を下げ投了を告げました。

本局のまとめ

本局は渡辺棋王が持ち駒の桂を打って香を取りに行く研究手を見せましたが、歩の突き捨てのあるなしの違いがあったようで、駒損しながら攻め続ける将棋となりました。藤井竜王はしばらく受けに回り、いつになく何度かチャンスを逃しながらも、最後は歩頭桂から鮮やかに寄せ切りました。

本シリーズのまとめ

本シリーズは4局とも角換わり腰掛け銀の将棋となり、竜王戦の広瀬八段や王将戦の羽生九段が藤井竜王の経験が少ないと思われる戦型を採用していたのと違い、現在の主流となっている戦型での頂上決戦となりました。渡辺棋王の意地を感じさせる戦型選択でしたが、本人が対局後に「負けた将棋はチャンスがなかった」と話した通り、残念な結果となりました。しかし前期までに渡辺棋王が成し遂げた10連覇は、色褪せることのない大記録だと思います。
藤井竜王は3勝1敗となり、棋王奪取と同時に最年少六冠となりました。既に4月に開幕する名人戦七番勝負への挑戦も決めており、七冠そして全八冠制覇が、いよいよ現実味を帯びてきました。渡辺名人としては最後の砦となる名人防衛に向け、万全の準備で臨んで欲しいと思います。

棋王戦コナミグループ杯は、共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「棋王戦の棋譜利用ガイドライン」(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#kiou)に従っています。インターネットでの棋譜の利用はすべて「営利を目的とする」ものとみなす(有償)と通知がありましたので、棋譜の利用は断念しています。

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