見出し画像

「観る将」が観た第63期王位戦第五局

9月5-6日、お~いお茶杯第63期王位戦七番勝負第五局が、静岡県牧之原市の平田寺(ヘイデンジ)で行われました。ここまで3勝1敗と防衛に王手を掛けた藤井聡太王位が一気に決着を付けるのか、豊島将之九段が1つ返して巻き返しの口火を切るのか注目の一局となりました。

前日のインタビューで、藤井王位は「スコアのことは気にせず盤上に集中し、持ち時間も8時間と長いので一手一手しっかり考えて指せれば」、豊島九段も「自分なりに精いっぱい指して、一局でも多く戦えるように頑張っていきたい」と話しています。


戦型は角換わり相腰掛け銀

豊島九段が若竹色の着物に薄黄色の羽織で入室し、間もなく藤井王位が藤色の着物に白い羽織で入室します。先手の豊島九段の誘導で、本シリーズは5局連続で角換わり腰掛け銀の将棋となります。定跡形の駒組みが続きましたが、藤井王位が△4一飛と自玉の下に飛車を回すと、豊島九段は59分の長考で4筋から仕掛けます。

互いに飛車を4筋へ

藤井王位は玉を5筋に寄って飛車の利きを通し、豊島九段が歩を取り込むと銀で取り返します。豊島九段は金を3筋に寄せてから飛車を4筋に回しますが、藤井王位は5筋の歩を伸ばして銀に当てます。次の47手目を豊島九段が考慮中に昼休となりました。AIの評価値は全くの互角、各8時間の持ち時間の内、残り時間は藤井王位が7時間4分、豊島九段が5時間52分と1時間程差が付いています。

4筋と5筋の攻防

昼休が明けると、豊島九段は銀を6筋に引いて銀矢倉の形を作り、藤井王位は歩を打って4筋の位を確保します。豊島九段が玉を入城させると、藤井王位は金を玉頭に前進して中央に厚みを築きます。豊島九段は3筋の歩をぶつけ、銀で取らせて5筋から反発します。藤井王位は一手一手慎重に時間を使い、同歩と応じてから銀を引いて4筋に戻します。豊島九段が歩を打って5筋の位を確保すると、藤井王位が73分の長考で次の60手目を封じました。AIの評価値は全くの互角、残り時間は藤井王位が3時間52分、豊島九段が4時間39分となっています。

攻めの封じ手

攻守に選択肢の広い局面でしたが、藤井王位の封じ手は8筋の歩を突き捨てる攻めの手でした。同歩の一手に、藤井王位は更に少考して5筋に歩を垂らします。豊島九段が飛車を5筋に寄せると、藤井王位は飛車を8筋に回します。飛車で垂れ歩を取ると8筋の継ぎ歩から角を打ち込まれる筋があるので、豊島九段は金を4筋に寄せて防ぎますが、藤井王位は構わず8筋を継ぎ歩で攻めます。

長考の応酬

藤井王位が更に6筋の歩をぶつけると、豊島九段は72分の長考で飛車で垂れ歩を取ります。藤井王位が6筋の歩を取り込むと、豊島九段は銀を8筋に上がって歩を支えます。難解な局面となり、次の72手目を藤井王位が長考中に昼休となりました。AIの評価値は藤井王位の60%と少し傾いてきました。残り時間は藤井王位が2時間29分、豊島九段が2時間38分となっています。

思い浮かばない手

AIは玉頭の5筋に歩を合わせる手を推奨していますが、広瀬八段は「思い浮かばない手」と解説しています。藤井王位は昼休を挟む44分の長考で、△5四歩と合わせて解説陣を驚かせます。豊島九段は予想していたのか少考で同歩と応じ、激しい手順に踏み込みます。藤井王位は銀を前進してぶつけますが、豊島九段は銀交換には応じず6筋に歩を打って受けます。

挑戦者の自陣角

藤井王位が48分の熟考で更に銀を前進して先手玉に迫ると、豊島九段は5筋の歩を突いて金に当てます。取ると飛金両取りがあるので、藤井王位は金を6筋に寄ってかわします。豊島九段が59分の長考で自玉の横に角を打って辛抱すると、藤井王位は歩で玉頭を叩き、金で取らせて角道を止めてから6筋の歩を成り捨てます。豊島九段が銀で取ってぶつけると、藤井王位は銀交換に応じます。

王位の遠見の角

豊島九段が飛金両取りに銀を打って金銀交換すると、藤井王位は1筋から先手陣を睨む遠見の角を放ちます。豊島九段は24分考えて残り15分となり、自陣に歩を打って守ります。藤井王位も23分考えて残り24分となり、自玉に迫る歩を金で払います。

激闘

ようやく攻撃のターンが回ってきた豊島九段が残り7分まで考えて後手玉のコビンを狙って金と打つと、藤井王位は歩で金頭を守ります。豊島九段が金を寄って角道を通すと、藤井王位は更に歩を打って傷を消します。AIの評価値はほぼ互角に戻り、全国の将棋ファンが手に汗握る激闘となりました。

飛車と角の取り合い

豊島九段が1筋の歩をぶつけて後手の角頭を狙うと、藤井王位は残り10分まで考えて飛車取りに△6九銀と打ちます。豊島九段は1筋の歩を伸ばして角を追いますが、藤井王位は角を取らせる代わりに飛車を取り、取れる金を取らずに成銀を先手玉に近づけます。豊島九段が王手で角を打ち込むと、藤井王位は角に当てて銀で合い駒します。豊島九段は馬を作って金に当て、藤井王位が金を寄って避けると歩で銀頭を叩きます。AIの評価値は再び藤井王位の64%と傾いてきました。

懸命の粘り

藤井王位が銀を引いて歩を払うと、豊島九段は金をタダ捨てして後手の成銀を自玉から遠ざけてから馬で桂を取ります。藤井王位は再び成銀を寄りますが、豊島九段は構わず銀取りに桂を跳ねて援軍を送ります。藤井王位が飛車を打って先手玉に迫ると、豊島九段は玉を早逃げしてかわします。藤井王位が飛車を成って竜を作ると、豊島九段は7筋に歩を打って攻め合います。藤井王位は飛車で金を食いちぎり、王手で△8五桂と跳ねます。先手玉には即詰みが生じているようで、豊島九段は一瞬斜め上を見つめてから投了を告げました。

まとめ

本局は藤井王位が自玉の下に飛車を回し、玉を囲うことなく攻め掛かる積極的な構想を見せました。2日目の昼休辺りから藤井王位がわずかに優位に立ちましたが、豊島九段は辛抱を重ねて決め手を与えず形勢を互角に戻して終盤を迎えました。既に持ち時間が10分を切っていた豊島九段は懸命に攻撃の糸口を探りましたが、藤井王位は落ち着いて対処すると、最後は飛車切りから華麗な即詰みに討ち取りました。
本シリーズは藤井王位が4勝1敗で3連覇となる防衛を果たし、早くもタイトル数は通算10期の大台に乗りました。対局後には「どの将棋も中盤が難しくて、長考してもわからない場面が多かった」と話しましたが、藤井王位のタイトル戦不敗神話はまだまだ続きそうです。
豊島九段は「早い段階で悪くなってしまう将棋が多く、内容も良くなかった」と話しましたが、並行して永瀬王座に挑戦している五番勝負では1勝0敗とリードしています。無冠返上に向け、気持ちを切り替えて頑張って欲しいと思います。

本稿は「お~いお茶杯王位戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#oui)
お~いお茶杯第63期王位戦第五局 主催:新聞三社連合、日本将棋連盟

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?