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「観る将」が観た第71期王将戦第二局

1月22-23日、第71期ALSOK杯王将戦七番勝負第二局が大阪府高槻市の山水館で行われました。第一局を落とした渡辺明王将がタイスコアに戻すのか、先勝した藤井聡太竜王が連勝してシリーズをリードしていくのか、注目の一局となりました。前日のインタビューで、渡辺王将は「第一局は反響の大きい戦いができたので、そういった戦いを目指していきたい」と語り、藤井竜王は関西将棋会館の移転が決定している高槻市での対局を「将棋の街として、よりいっそう盛り上げていけるような熱戦にできればと思う」と話しています。

先手の渡辺王将の作戦が注目されましたが、角換わりに誘導すると、相早繰り銀の将棋となりました。藤井竜王が先に7筋から仕掛けると、渡辺王将も2筋の継ぎ歩攻めで対抗します。お互いに研究範囲と思われ早いペースの進行でしたが、渡辺王将が右桂を跳ねると藤井竜王の指し手が止まります。

藤井竜王が45分の考慮で左銀を四段目に進めると、渡辺王将は浮いた歩を狙って▲5六角と左右に睨みを利かせる好所に設置します。藤井竜王も負けじと△5四角と設置し、両者の角の働きが本局の命運を決することになりそうです。ここで渡辺王将が49手目を59分考えて昼休となりました。各8時間の持ち時間の内、残り時間は渡辺王将が6時間16分、藤井竜王が6時間47分となっています。

渡辺王将は昼休を挟む67分の長考で銀取りに飛車を浮きます。藤井竜王が素直に銀を引くと、渡辺王将は角で3筋の歩を取ります。ここで藤井竜王が長考に沈み、プロ入り後最長となる148分考えて△8八歩と桂頭を叩きます。渡辺王将も55分考えて歩を金で取ると、藤井竜王は△3六角と飛車取りに飛び出してから馬を作ります。両者の読みが真っ向からぶつかり、一日目から激しい戦いに突入しています。

渡辺王将が銀を上がって馬を捕獲し、藤井竜王が考慮中に18時の定刻となりました。藤井竜王は更に考え続け、18時22分に次の58手目を封じました。藤井竜王が飛車取りに銀を出ると馬と飛車を取り合う形となり、形勢は少し藤井竜王が指し易いようです。残り時間は渡辺王将が4時間42分、藤井竜王が3時間34分となりました。

藤井竜王の封じ手は、解説の予想通り△3五銀でした。必然的に馬と飛車を取り合い、渡辺王将は2筋の歩を成り捨ててから▲2二歩と桂頭を叩きます。藤井竜王はここで40分熟考し、一日目に8筋の桂頭を叩き金で取らせることで空いたスペースに△7九飛と王手で打ち込みます。この一撃が思いのほか厳しく、玉が逃げると危ないと判断した渡辺王将は、持ち駒の角を合い駒に使って辛抱します。ここに角を打たされては素人目にも苦しそうに見え、形勢も藤井竜王に大きく傾いてきたようです。

藤井竜王は7筋の歩を成り捨て、3筋の桂頭を歩で叩き、先手陣を左右から攻め立てます。藤井竜王が△9九飛成と香を取って竜を作ると、渡辺王将は▲8九金と引いて竜を追い返してから▲4三歩成と王手で反撃します。ここは右の金で取る一手ですが、形勢の良さを感じているであろう藤井竜王は惜しみなく時間を使ってその後の展開を確認し、37分考えたところで昼休となりました。残り時間は渡辺王将が3時間18分、藤井竜王が1時間41分と1時間半以上少なくなっています。

藤井竜王が昼休明けすぐに金で"と金"を取ると、渡辺竜王は角を金と刺し違え、取った金を▲8六金と竜取りに打ちます。藤井竜王がかわすと、渡辺王将は▲2一歩成と桂を取ります。藤井竜王は角取りに△6七香と打ち、渡辺王将がかわすと△8六飛と金と刺し違えて△7七竜と迫ります。渡辺王将は74分の長考で玉を早逃げしますが、藤井竜王は△3四桂と今度は上部から圧力を掛けます。

藤井竜王が角取りに△6八香成としますが、渡辺王将は手抜いて▲4四歩から後手玉に迫ります。しかしこの瞬間先手玉には詰みが生じたようで、藤井竜王は△5八成香の王手から鮮やかな即詰みに討ち取りました。両者とも持ち時間を1時間以上残して、16時15分と早い時刻での終局となりました。

本局は一日目の午前中に、藤井竜王が誘うように3筋の歩を浮き駒にして銀を前進させ、渡辺王将がその歩を狙って角を打つと、わずか3分の考慮で角を打ち返しています。午後に渡辺王将が狙い通り角で歩を取ると、藤井竜王は大長考して8筋の桂頭を叩きました。渡辺王将は自身のブログに「結果的に先手が変化するとしたら、ここで▲2三歩成しかなかった」と記していますが、藤井竜王の長考には当然その手順の検討も含まれており、大丈夫と判断しての着手だったに違いありません。二日目は藤井竜王が着実にリードを拡げ、一方的な展開になってしまいましたが、まだ序盤と思われた一日目に繰り広げられた将棋界の最高峰の二人による読み合いには、素人には計り知れない凄みを感じます。

藤井竜王は、開幕からの連勝でタイトル奪取に大きく前進しました。次局は先手番で、一気に王手を掛けたいところです。渡辺王将は厳しい状況に立たされましたが、早く1勝を挙げて流れを取り戻したいところです。次局以降も白熱した好局を期待したいと思います。

ALSOK杯王将戦は、毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟が主催し、ALSOKの特別協賛、囲碁将棋チャンネル、立飛ホールディングス、inゼリーが協賛しています。棋譜は公式サイトをご覧ください。

本稿は「王将戦における棋譜利用ガイドライン」に従い、利用許諾を得ています。(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ousho)

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